旅立ち 前日編 〜重要な事〜
「えっと……ヤマトさん?ルルちゃん?大事なことって……?」
私は戸惑っていた。
メリーさんと一緒に楽しく食事をしていたら真顔のルルに手を引かれたのだ。彼女は何も言わず私の手を引いていた。
私はメリーさんに断ると、ルルに従った。
しばらく歩いて、人が少なくなるとルルからこう言われたのだ。
「ごめんね。いきなり連れ出して。でもね、大事なことなの。これからに関わることだから」
そう言われて、不審にも思いながらついて行くとそこにはヤマトさんが待っていた。
「……シャリア、率直に言う。ここで俺たちとは解散しよう」
そこにルルに手を引かれた私が到着し、少しの間無言の時間が続いた時、ヤマトさんはそう言った。
そう言われた私は何が何だかわからなかった。
え?どういうこと?
そんな感情が頭の中をぐるぐる回って混乱してきた。
「ヤマトさん?えっと……どういうことなんです?」
私はとにかく理由を聞くために聞き返しました。いつの間にかルルも彼のそばに行っています。
「前さ、シャリアは俺に『なぜハンターになったのか』って聞いてきただろ。その理由が関係してるんだ」
ヤマトさんは私の目を見て話してきます。決して軽く扱っていい話では無いようです。
「俺達はさ、シャリアと同じなんだよ。といっても立場……が近いかな」
また少し間を置いて話し始めました。
同じとはどういうことなんでしょう。
「俺達は元は貴族なんだ。正確にはルルが貴族の令嬢で、俺はただの従者なだけだけどな」
ルルが貴族?
でも言われてみれば彼女の動作には所々気品が感じられました。
ですが、ルルには貴族などの証である苗字が無いはずです。それなのに貴族とはどういうことなんでしょう。
「私の本名はね、ルルフィリア=フーレンなの。ここから南の貿易都市から近い街の伯爵家の娘だったわ。ヤマトは私専属の従者よ」
ルルフィリア=フーレン……だからルルなんですね。でもあれ?フーレンってどこかで聞いたような……
「気付いたみたいね。私の故郷、フーレニアは魔物によって滅ぼされたわ。たった数時間でね。しかもほとんどの建物も倒壊、人も大量に死んだし何よりも伯爵邸が破壊されてたから私達は死んだものとされてるはずよ」
まさかこの二人が一時この国を騒がせた領都壊滅事件の生き残りだったなんて。たしかあの事件が起きたころは私は王都に次ぐ大きさの東の港湾都市に滞在していたはずなのでよく情報も入ってきた覚えがあります。その時はあまり気にはしなかったのですが今思うと聞いておくべきだったのかもしれません。
でも私と同じとはなんでしょう。おそらくは復讐ということだと思うんですが魔物に滅ぼされた街なら大抵は群れで襲われます。その場合は魔物の種類と言うべきなんでしょうが……数が多すぎますし、種を滅ぼすなら個人では不可能です。
「私たちの故郷を襲ったのは魔物の群れではないわ。たった一体の魔物……龍よ。真っ黒な龍。討伐した赤煉龍フィルグレアよりも大きな龍だったわ」
私と同じとはそういう事だったんですね。
私はすぐに納得が行きました。
確かに二人は私と同じです。
龍に故郷を滅ぼされて生き残ったのは自分だけ。でも実力も無ければその相手がどこにいるのかもわからない。幸い……と言っていいのかはわかりませんが私は仇を見つけて倒しました。だけど二人はまだその仇を追いかけてる最中です。
「そもそも今その黒龍がどこにいるのか分からないわ。だから私たちはあちこちへ行くことになる。ハンターとしてじゃないわ。あえて言うけど復讐者としてになるわね。まあそういうことよ。私たちの都合で貴女を巻き込むわけにはいかないしね。だから貴女とはここでお別れ。前に教えてくれた目標に向かって突き進みなさい」
ルルはまるで私に諭すように言ってきます。言いたいこともわかります。
でも、でも……っ!!
「私たちは死んだお父様たちだけじゃない。故郷に住んでた数千人の人たちの為にも黒龍を討伐しなきゃいけないの。お父様は領地も持った貴族だったから領民の人たちは混乱したでしょう。でも今も生きてる。領都にいた人たちは生きれなかった。偶然街を離れてた私たちだけが生き残った。ならばやることは一つよ」
私はルルが何を言おうとしているのか予想がつきました。
「仇を討つの。なんとしてもね。だから貴女は巻き込めないし巻き込まない。───こういうことは早めにやっておいた方がいい気がするの」
ルルは最後、私に笑いかけました。
「もし……全てが終わって、私たちが生きてたら、また会いに行くわ。だから───」
私は彼女に最後まで言わせまいと抱きつきました。
「生きてたらなんて言わないでください!───どうして……どうしてそんな風に言うんですか……?私じゃあそのお手伝いも出来ないんですか?二人の故郷に住んでなかったから資格がありませんか?でもこの前言ってくれましたよね。私たちは仲間だって。仲間だからあの時も来てくれたんですよね。だったら今度は私の番です。今度は私が助けます。二人がなんて言おうと私はついて行きます。それに私はお姉さんですからね!」
私は必死に自分の想いを伝えた。捲し立てるように言ったからか二人も驚いている。
「私はお姉さんですからね!」
「いや、二回も言わなくてもいいから」
ヤマトさんに突っ込まれましたね……
でも、空気は和んだみたいです。さっきまでは私も含めてみんな深刻そうでしたから。
「そうよね。私たちは仲間だって自分で言っておいていきなりそれを破りそうになるなんてね」
ルルは苦笑いしています。
「シャリア、これからも私たちと一緒に来てくれるの?」
これが最後の確認でしょう。もちろん私の答えは決まっています。
「ヤマトさん、ルルちゃん、これからもよろしくお願いします!」
私は初めてちゃんとした仲間を手に入れることが出来たのかもしれません。だって、こんな風に皆で笑えるのですから。
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