第20話ようじょ、スパークリングワインの別の製造方法を知る!

「エアコンって最高ネー。文化の極みネー」


 と、クロエは暖房のあったかい風に当たって、へにゃりと机の突っ伏し、


「ホッとするね……」


 やっぱり寒かったのか、沙都子もほっこり頬を緩ませる。


(ホッとする、ホットなだけに……)


 なんておやじギャグが浮かんだ、今それを言ってしまえばせっかく暖まった空気が、再び冷えてしまうと思い、寧子は口を噤むのだった。いや、敢えて言ってしまおうか。

などと思うにはちゃんとした理由があった。


 さすがに寒いので地下から戻った寧子達は佐藤の案内で、梨東の学食に集まっていた。

 やはりこの校舎は男子学生が多いのか。

むしろ男子学生しかいないのか。


 そんな男の空間に女の子が三人も、しかも固まっていれば、否応なしに視線を集め、目立ってしまうのは当然と言えば当然。


「あの子、小学生か……? 誰かの妹?」

「じゃあ周りにいるのは姉妹? いやまさか!」

「おい、誰か確かめて来いよ!」


 別の意味で話題も集めていることを寧子は知る由もなかった。


「お待たせ」


 ようやく飲み物を持って佐藤が帰ってきた。

 カップからほかほかと暖かい湯気を上げているココアを四人で飲み、ようやく一息。

そんな寧子の耳に”プシュ”という、軽快な音が届いた。

音は寧子の対面に座る沙都子の肩の向こうからだった。


 そこには白いコーヒーメーカーのような機器があった。

 男子学生はソレに水のような液体が入った透明な筒をセットする。

そうしてスイッチを入れると、再び”プシュ!”っといった軽快な音が響き渡る。

筒に収められた液体が一瞬で、ぷちぷち泡をたてはじめていた。


「佐藤さん、アレなんですか?」

「炭酸水を作る機械だよ。炭酸ガスを一気に液中へ吹き込めるんだ。この間、機械科の学生が作ったんだって」


 沙都子の隣に座る佐藤が答えた。


「へぇ、凄いですね。さっき言ってた、スパークリングワインを一気にたくさん作る……なんでしたっけ、【シャルマ】 でしたか? それもあの機械と同じようなことをするですか?」

「直接注入ってわけじゃないけど、まぁ近いかもな。瓶内二次は瓶ごとに、シャルマは巨大な減圧タンクの中で仕込むんだ。一気に大量に作れるし、滓はフィルターで取り除く。後は香り高いスパークリングワインを造りたいときに使う」

「香り高いスパークリングワイン?」

「”アスティ”が有名だな」

「WOW! アスティ!」


 クロエはそう声を上げてから、何故か顔をへにゃりといやらしく歪めた。


「ネコちゃんとの思い出の味……ぐへへ」

「お前、この間からそればっかりなのです……シャルマ、でしたっけ。そんな作り方もあるのですね!」


 今のクロエに絡むとロクでもないことを言い出そうだと思った寧子は、無視を決め込むのだった。


「大量生産用の作り方らしいぜ。トラディショナルは手間がかかるからな」

「じゃあやっぱりスパークリングワインはシャルマが多そうですね」

「なんでそう思うんだ?」

「だって楽じゃないですか」


 なにかと忙しい現代社会。

どこもかしこでも”効率化”が課題に良く挙げられている。

そう考えれば、手間のかかりそうな”瓶内二次発酵”よりも”シャルマ式”の方が手間をかけずに、一気に、大量にスパークリングワインが作れると考えるのはなんら不思議なことでは無かった。


「まぁ、生産本数で言えば多いかもな。だけど、世界中にはトラディショナル方式で造られるスパークリングワインもたくさんあるんだ。フランスのシャンパーニュ、クレマンにヴァンムスー、ドイツではゼクトだろ、イタリアだとフランチャコルタ辺りが有名か? 後はスペインのカヴァとか……」

「カヴァ! 知ってる! スペインのカタルーニャ州ペネデスで造られるスパークリングワインのことだよね!?」


 ちょっと難しい話に顔を顰めていた寧子の代わりに沙都子が反応する。


「さすが、森さん良く知ってるね」

「う、うん! 佐藤君ほどじゃないけど、勉強してるから……えっと、ブドウ品種はマカベオ、チャレッロ、パレリャーダで、それぞれの構成の分担は……」


 と、寧子の隣に座っていたクロエが、肘で脇腹を小突いて来た。

何故か顔は”にしし”といった具合に笑っている。

クロエがこういう顔をする時は、決まってロクでもないことをしようとしていることが多い。

しかし今回に限っては寧子も、まったくもってクロエに同意だった。


「ネコちゃん、お邪魔無視のワタシたちはさっさと退散ネ」

「そうですね。私も用事を思いだしちゃったのです」

「ええっ!? 行っちゃうの!?」


 沙都子は素っ頓狂な声を上げた。


「ワタシも用事思いだしたネ。ソーリーネ。申し訳ないけど、帰りは佐藤陽太くんに送って貰うがいいネ!」

「はいなのです! 佐藤さん、すみませんがお願いできませんか?」

「あ、え? 俺が?」

「そこはビシッと男らしく”ラジャー”ネ!」


 クロエは仁王立ちしてビシィッ! っと佐藤を指差す。


「ラ、ラジャー……?」

「それでグーッドネ! じゃあネコちゃん、帰るネ!」

「はいです! 佐藤さん、今日はありがとうございました! 沙都子ちゃんもまたなのです!」


 そうして寧子とクロエは声を揃えて「チャオ!」とあいさつをしてそそくさとその場を跡にする。


(沙都子ちゃん頑張るです! 僭越ながら恋のお手伝いするのです!)


 寧子は、緊張で顔を真っ赤にしている沙都子へ内心エールを送る。


 佐藤が分からないように肩を落としていたことを、彼女は知らない。

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