第214話
持っている武器が木の枝とはいえ、真剣な面持ちで構えるオジサマに、胸をキュンキュンさせながら突撃する。十分に間合いを詰めて木剣を、ごめんなさいオジサマッ。と思いつつ振り下ろす。オジサマは悠々と木剣を躱し、そのまま前に進み出て私とすれ違った。すれ違いざまに、オジサマが薙いだ木の枝がペチン。と音を立て、同時に中枢に電気が走って身体がビクリ。と反応する。
「あんっ」
思わず上げた声。ソっと後ろを振り返れば、ルリさんの顔はニヤケ、リリーカさんは驚き、そしておばさまは……静かに佇む。おばさま、なんか怖い。
「カナさんってソッチ系なんだ」
「ちっ、違います! これはその……敏感な所に当たっちゃって……」
「狙いましたわねお父様」
「いやちがっ、誤解だっ!」
「あ、な、たぁ。ちょっとお話があるんだけど……」
静かな物腰でオジサマに大きな顔をズイッと近付けるおばさま。
「だから誤解だって」
「い、い、か、ら。ちょっといらっしゃい」
オジサマは散歩を終えて家に帰るのを嫌がる飼い犬の様に、ズルリズルリ。と引き摺られて行った。
「カナさんって、素振りとかしてる?」
「え……素振りですか?」
「そう。これはカーリィの口癖なんだけど、剣技を上達させるには毎日の素振りが不可欠だそうよ」
そういえば、カーリィさんも剣を扱う職業なんだっけ。
「……やった方が良いですかね?」
「ヤらないよりはマシでしょ。
「あ、ルリ姉様もそう思ってらしたのです? 実は
思ってたんだったら言ってよ。でも、言われてみれば確かに。打ち込んでも、受けられ躱されてお終いで、そう長続きしていない。
「ところでルリ姉様。そのカーリィ様とはどの様なご関係ですの?」
「え……た、ただの幼馴染で――」
「お付き合いなされているのですか?」
目を輝かせて聞いたリリーカさんの質問に、ルリさんは恥ずかしそうに頷く。おおっ、デレたルリさん初めて見たっ。
「羨ましいですわ。それでもし宜しければ、お二人の馴れ初めをお教え頂けませんか?」
「ええ、良いわよ」
おお。それは私も聞きたいぞ。
「リリーカちゃんにだけ教えてあげる」
あれ? 私は……?
「カナさんは、ここで話し込んでないで素振りをしなさい」
「ええっ、そんなぁ……」
恋バナは乙女の栄養剤。ここへきてお預けプレイは鬼畜過ぎる。
「そんなぁ……じゃないでしょ。強くなりたいのなら一心不乱にならないとダメよ」
「明日っ、明日からちゃんとやるからっ」
「……それ、やらないヤツよね」
うっ! コイツ、見抜いてやがる。
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