第204話

 蛇口をひねると、スッと血の気が引く様な感覚の後にシャワーヘッドからお湯が噴き出して、肌を転がり落ちる。その様子をジッと視姦する存在が居た。


「カナさんってホントスタイル良いわよね」

「な、何を言っているんですか。ルリさんこそ胸が大きいのに、腰が細くて羨ましいですよ」

「そう? 冒険者なんて稼業をしているからかな。でもね、胸が大きいのが悩みなのよ」


 なんつー贅沢な悩みだ。


「肩は凝るし、疲れるし、逃げる時なんかただ邪魔でしかないわ」


 そうか、戦って必ず勝てる訳じゃない。時には逃げ一択の場合もある。上下左右に暴れて邪魔になるのか。


「ところで、『にぃちゃん』を探しに出たって言ってたけど、見つかったの?」

「あ、しまった。おばさまの所に置いてきちゃった」


 色々とショックな事があったから、スッカリ忘れてた。


「そうなんだ。それじゃ出たら連れて来ないとね」

「うーん。でも、明日朝早くからオジサマやおばさまと訓練があるし、預けたままで――」

「訓練!? ナニソレ面白そうっ!」


 ザバリ。と湯船から立ち上がるルリさん。胸の谷間に刹那の間湛えられたお湯が零れ落ちる。その瞳は好奇心で満ち溢れていた。


「それで、訓練ってどんな事をするの?」

「いや、まだ始まってもいないから、どんな事をするのか……」

「私も行って良い?」

「え……良いと思いますけど、朝早いですよ。確か五時――」

「全っ然大丈夫っ」


 ルリさんの瞳がひときわ輝いた。そうまでして彼女を駆り立てる要素が分からないんだが……


「楽しみだなぁ、あの『英雄』と『妖艶なる癒し手』が、どんな訓練をするのかしらね」


 ああ、なるほど。そういう事か。街を救った英雄のオジサマと、冒険者内で名を馳せたおばさま目当てなのか。


「でもどうして戦闘訓練なんかを?」

「まあ、取り巻く環境がややこしくなってしまったので、せめて自分の身くらい守れる様になりたい、と」

「それは良い心掛けね。でも……」


 今まで陽気だったルリさんの顔が急に陰り出した。


「私にも相談して欲しかった。かな」

「ごめんなさい。でも、ルリさんの事頼りにしていないって訳じゃ無いですから」


 むしろ色々とお世話になって、これ以上迷惑を掛けられないっていうか。


「別に良いよ。その代わり、ベッドは私が使わせて貰うわ」


 ……へっ?


「カナさんは抱き枕役、お願いするわね」


 ちょ、泊まっていく気なのぉっ。

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