第162話
「獣……ですか?」
「はい。先程、『リブラ』様がお出しになられた獣とは違いますが、
娘のシンシアさんも見た事が無いと頷いた。
「その獣とは、一体どの様な姿をされていたのでしょうか?」
「はい。ええっと、大きさはコレくらいで――」
男爵夫人は両手の平を使ってその獣の大きさを教えてくれた。その大きさとは、子猫と同じ位で、私が預かっている『リンクス』と同じサイズだった。
「姿ですが……そうですね、強いて言うのならローウルフに似ているでしょうか……」
ローウルフ。コレと定めた獲物を執拗に追い回し、相手が疲れた所を見計らって襲い掛かる犬系の魔獣。と、聞いた事がある。『リンクス』との関連性は無いか。アレは猫系だし。
「その獣とやらは今は?」
リリーカさんに夫人は首を横に振る。
「主人が亡くなったと同時に、その行方も分からなくなりました」
「なるほど。では男爵夫人は、その獣が御主人を殺した真犯人だ。と思われている訳ですね?」
「はいっ、左様ですっ」
「そうですか。しかし、外傷が見当たらなかったからこそ、フレッド様は過労死。と決断されたのでしょうし」
リリーカさんの言う通り、男爵に外傷が無かった以上、他殺である。とは断言出来ない。
「その獣が毒を持っていた。とか?」
その獣の、例えば唾液なんかに毒があり、男爵がそれと知らずに口に入れてしまったとしたら……
「お姉様。男爵からは毒性の反応は一切出なかったそうですよ」
「ああ、そっか……」
男爵が殺害されたのだとしたら、執務室での密室殺人よね。外傷が全く無い被害者に、消えたペット。んんぅ、ミステリーぽくなってきたっ。
「男爵夫人、執務室って見させて頂く事は出来ますか?」
「え……?」
「お姉様っ!?」
夫人はビックリして目をパチクリさせ、リリーカさんは私を睨み付ける。
「お話を聞く『だけ』とお伺いしましたが……?」
「だって、ここであーだこーだ。と話をしていても結論は出ないわ。証拠は会議室では無くて現場に在るのだからっ」
んっ、決まったっ!
「お姉様……仰っている意味が分かりませんわ」
アレ……? ノリ悪いぞ、リリーカさん。
リリーカさんは私の腕をグイッと引き寄せて、耳打ちを始める。んっ、こそばゆい。
「お姉様、危ない事には関わらない。とお約束したではありませんか」
「え? 全然危なく無いよ? だって、リリーカさんが居るんだもの」
「え……?」
「こう見えてもね私、リリーカさんをすっごく頼りにしてるの。こうして側に居てくれるだけで、心強くて安心出来るのよ。だから、何かあったら私を守ってね」
「お、お任せ下さいっ。万が一、何があってもリリーがお姉様をお守り致しますわっ」
……ちょろいな。
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