第122話
ルリさんの呪文詠唱が終わるのと同時に、見えない何かが私の身体を押し退けようとする。が、抵抗を感じたのは一瞬だけで、スルリと身体をすり抜けていった。
「ゴメンゴメン。カナさん居るの忘れてた」
「何をされたんです?」
「この部屋を風の膜で覆ったの。これで中の声が外に漏れる事は無いわ」
つまりは防音って事か。
「さて、それじゃ聞かせてくれる?」
「ああ、はい」
私はポケットから『契約の石』を取り出してテーブルの上に置いた。
「これです。この中に何が封じられているのか知りたくて」
「へぇー」
ルリさんは『契約の石』を指で挟んで、その中身を覗き見る。
「黒……か」
「黒……?」
「『契約の石』に封じられている精霊は、色でおおよその判断をする事が出来るの。炎なら赤。風なら緑。土は黄色。水なら青。光なら白ってね。で、コレは黒いから闇」
「闇……」
テーブルにコトリ。と置いた石を見つめる。
「そ。だけどその強さまでは判断が付かないのが問題なのよねぇ……」
下位精霊と思って契約をしようと解放した所、中級の精霊が出てきて街を半壊したエピソードもあるのだという。
「これ何処で手に入れたの?」
「あー、とある貴族の方からの貰い物でして……」
「貴族から……? それは誰?」
「え。言わなきゃダメですかね」
「だぁれ?」
テーブルに両手を着いて、ズイッと顔を寄せる。近い近い。
「え、あの……」
「言わなきゃこのまま押し倒す」
ルリさんってそっち系の人!?
「……冗談よ。言いたくなければいいわ」
冗談……? 目がマジだったんですけど?
「ん、まあ。ユリア=リベラ=ユーリウス様から頂きました」
ルリさんは椅子を倒す勢いで立ち上がる。
「それ、間違いないの……?」
「え? ええ」
「間違いなく、あの『妖艶の癒し手』なのね?!」
妖艶って、あの樽の様な体型で……?
「そ、その人かどうかは分かりませんが、ユリアさんから貰ったのは確かです」
ルリさんは驚きの表情を維持したままで、ドスン。と椅子に腰掛ける。
「驚いた。普通の一般市民かと思ったら、あなたも何処ぞの貴族様なの……?」
「え……いえ、違いますよ。私は見た通り一般市民です」
「じ、じゃあ、一体どうやって取り入ったのよ? 貴族に会う様な機会なんて皆無でしょう?」
取り入るも何もフツーに会ってるけど……
「別に取り入ったって訳じゃ無いですよ。何時でも会えますから。というより、ルリさんも既に会ってますよ」
「へっ……」
随分と可愛い声を上げたな……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます