第81話
私は事の始終をウォルハイマーさんに話して聞かせる。ただ、私が持つ不老不死の力だけは話さずに伏せておいた。
「成る程な……そのローザなる人物が貴女を地下牢に監禁して拷問を加え、仲間だった彼女を殺した……と」
「はい。そうです」
別のテーブルに座る衛兵が持つ羽ペンが、カリカリカリ。と音を立てて筆を走らせる。
「見させて貰って失礼するが、拷問を受けた割にはアザ等が見当たらない様だな」
「ええ、知り合いに治癒魔法を掛けて貰ったんです。一刻も早く忘れたくて……」
「そうか。……すまないが、貴女にも嫌疑が掛けられる。虚言である可能性もあるのでな。だから貴女には、彼女を連れて来るまでここに居て貰う事になる。彼女の証言から無罪と分かれば、即解放しよう」
「あの……私を連れて行って貰えませんか……?」
「貴女を……か? 何故かな?」
「私の顔を見れば何かしらのリアクションを起こすでしょう。その過程を見て頂きたいのです」
殺した筈の人物が目の前に姿を見せる。それは一体どれ程の驚きをあの女に
「勿論、逃げようなどとは思っていません。彼女……あの女に一泡吹かせてやりたいのです」
ウォルハイマーさんは指の腹を顎に当て、私の目を見据えていた。
「……分かった。いいだろう、同行を許可する。ただし、逃げる様な真似をすれば……分かるね?」
「はい。誓って逃げ出す様な事はしません」
「よし。それでは行こうか」
こうして私は衛兵の人に囲まれて、一路通商ギルド『アルカイック』へと向かう事となった――
港に広大な倉庫群を持つ通商ギルド『アルカイック』。祭りの最中という事もあり、今日も大型の魔導貨物船が何隻も停泊していて、積荷の荷下ろし作業と検疫に追われている様だった。
大きく開かれた休憩スペースでは、船の乗組員であろう者達が、売店で売れられている軽食を突つきエール酒を飲み交わしている。
そんな賑わう広場の片隅で、あの女が笑顔を振り撒き荷受の対応をしていた。
「何番だ?」
「真ん中……二番の受付です」
「分かった。貴女は我々の後ろに居ると良い」
「……はい」
初めから大っぴらに出てゆくつもりは無い。彼らの陰から彼女を見つめ、私の存在に気付いてから出て行こうと思っていた。
「では、行こう」
ガシャリ、ガシャリ。と音を立てて、ウォルハイマーさんは真っ直ぐにあの女の元へ向かった――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます