あの子とあの子の進化論
「元気スマホ鳴ってるー」
「美優も鳴ってんぞー」
「修もー」
「夏菜も鳴ってない?」
「奏ちゃんも鳴ってるね」
「だなー。なんだこりゃ?」
空気の澄んだいい朝。駐輪場に向かう制服姿のあたしたちのスマホが、一斉に鳴った。はてなんじゃろなと六人で歩きスマホ。
「謙之介からグループの誘い? なんだなんだー?」
ラインのグループ招待なんて送られてくるだけでも珍しいのに、発信者がわんわん。まさか過ぎる。全く同じ物がみんなにも来たらしく、どしたんだあの犬だの迷惑メールだ消さなきゃだの言いたい放題してる。
ちなみにあたし、ライングループ一つだけ入ってるよ! ここの六人で作ってんの! 帰りにあれこれ買ってきてーとか洗濯物取り込んどいてーとか今日は夏菜がご飯作るってさーとかあたしのアイス食べたの誰だーとかあたしのプリン食べたの誰だーとかあたしの部屋にゴキブリの人形置いといたの誰だーとか、生活感に溢れたやりとりばっかだけど! 被害受けてる率高いなあたし!?
「既読スルー安定ですね」
「かな」
「だな」
「だねー」
「だよねー」
「だ、ダメだよそんなの! もしかしたら謙ちゃんからの大切な用事かもしれないよ! だからちゃんとする! ほら!」
「えー」
「えー」
「えー」
「えー」
「夏菜が言うならそうするー」
「手のひら返し早っ!」
ってやり取りしながらも、直ぐに全員が謙之介のグループに参加した。一体どういうつもりなんだーって問い質すより早く、聞いてくれ! とだけメッセが飛んできた。いや説明なしかい。マジでなんかあったやつかこれー? さあ、一体何が起きたんだー?
『小春が可愛いんだ!』
「キモっ」
「キモっ」
「キモっ」
「キモっ」
「キモっ」
「…………た、確かに可愛いよね! うん!」
偽りない本音が五つ。修でさえどストレートだし夏菜でさえフォローを躊躇うレベルとかマジヤバい。あの犬、シスコン拗らせ過ぎたか。タイーホしなきゃ。
『なんか誤解を招いたのなら違うぞ! 変な意味じゃない!』
「そもそも妹に言う可愛いに変な意味なんてねえだろ何言ってんだこいつ」
『今日の小春は違うんだよ! とにかく可愛いんだ!』
「シスコン末期だなー」
『とにかく小春に会ってみてくれ! マジで可愛いから!』
「なんか怖くなってきたのだが」
「謙之介、なんか嫌な事でもあったのかな」
「どーすんのこれー。スルーしとく?」
「うーん……夏菜ごめん、あたしの方表示バグってみるみたいで文字化けしちゃってるわ。夏菜のスマホ見せてー」
「うん」
「えーっとぉ…………はいありがと」
「うんうん…………って! 何これ!? キモいマジ無理って、私のから送ったの!?」
「手が滑っちゃったっ」
「そんな滑り方あるかーっ!」
『ごめん……俺……キモかったかな……そうかな……そうだよな……本当にごめん……朝から気分悪くさせてすまなかった……』
「ほら落ち込んじゃったー!」
「さーいこいこー」
「おー」
「おー」
「おー」
「おー!」
「ちょっと待ちなさーいっ! い、今のは違うからね謙ちゃん! 今のは全員の総意……じゃないじゃない! 美優ちゃんが勝手にやったの! 謙ちゃんはキモくないよ! ちょっと変わってるなって思うけど!」
フォローになりきってないフォローをスマホに向かってし続ける夏菜。言うんじゃなくて打ち込んであげなきゃ謙之介に届かないってのに。そんな所も可愛い。
さてさて。可愛い夏菜と可愛い美優に弄ばれた謙之介くん自慢の可愛い妹が、一体全体どうしたってのさー?
* * *
「さて」
「来たぞっと」
「この教室に来るのも久し振りだね」
「ね! 私と修ちゃん一年五組だったもんね! 懐かしいなー」
「なんであたしは三組だったの……」
「日頃の行いがほぉぅ……わ、脇腹やめへ……そ、それよりこはりゅんろこ……?」
美優様の左手一本にふにゃふにゃにされながら、最近何かと縁のある一年五組の教室を六人で覗く。二限終わりからの中休みに入ったばかりの教室内はなかなかに騒々しい。
特に教室後方。一箇所だけ異様に人口密度が高い所があってさ。一つの机を男女入り乱れて囲んでいるみたいで人の壁が出来てる。向こう側が見えないや。
「教室にいない感じかなこれは」
「気持ち悪いお兄ちゃんからのセクハラに耐え切れず早退しちゃったんじゃねーの」
「不思議な生々しさがあって笑えねえんだがそれ」
「とりあえず電話鳴らすねー!」
どんだけキョロキョロしても見つかりそうにないもんで、こはるん家の飼い猫、通称ココちゃんことココアのアイコンをタップからの発信をたたーん。てんてれてんてれてんっって発信音が数度響いて、スマホの向こうからガヤガヤとした喧騒が聞こえてきた。
「おはよーこはるん!」
『お、おはようございます!』
「こはるんさー今どこに」
『ナイスタイミングです東雲先輩! ちょっと会いましょうこれから会いましょう世界一可愛い東雲先輩の顔が見たいんですそれもなるだけ早急にって事で直ぐそちらの教室に行きます! ちょ、ちょっと通ります……あの、ごめん、私行かなきゃだから……!』
こっちが口挟む隙間用意してくれないんだけどこの子。なんだか慌ててるようだけど、なんかあったのかな?
「あのーこはるーん?」
『だから通るって……! あの! 私! 先輩に呼ばれてるから!』
「あの! 私! 先輩に呼ばれてるから!」
「わっ! ん、んんー?」
耳に当てたスマホからの爆音攻撃に驚いたけど、全く同じ事を口にしている人物が意外と近くにいるらしい事にもっと驚いた。
「通ります……よっ!」
教室後方に聳え立っている人の壁に亀裂が走り、そこから一人の女の子が飛び出して来た。
「よしっ! すいません東雲先輩! 今直ぐにそちらに……」
壁を突き破って現れた女の子と目が合ったと思ったら、なんかフリーズしちゃった。右手に持ったスマホを持ったまま耳に当てて固まる姿はまるで、目を合わせてはいけない何者かとにらめっこをし、石にでもされちゃったみたいだ。
「……そちらに?」
こっちだって負けじと驚いているのを隠しながら、とりあえずスマホに向けて呟いてみた。
「…………い、行きましょう! 早急に! みなさんも!」
「へ? おわわっ!」
最早半ベソ状態。教室内全員の視線を一身に集める女の子に手を掴まれ、ほとんど引き摺られるような格好で一年五組からログアウト。
「あ!」
する寸前。窓際の席に佇む、くろちゃんと目が合った。あたしに向け小さく手を振る姿も、笑顔も。全てがぎこちなくみえた。
「よ、よし……ここなら……」
「あの……手……痛い……」
「ご、ごめんなさいっ!」
ぐるぐるぐーるぐると階段を登らせれ、封鎖されている屋上前の踊り場に着いた所で、ようやく手を解放してくれた。
「え、えっと……えっとぉ…………」
あわわあわわする、この場の主役。えっとえっとはこっちのセリフ。聞きたい事がたーっくさんあるんだから!
「うーんとだ。色々言いたいだろうけど、年功序列って事で俺たちから先に色々言わせて欲しい」
「は、はい……」
急に仕切り始めた奏太と目を合わせたくないのかなんなのか、眼鏡のない目元を両手で覆いながら頷いているのがシュール。
そう。眼鏡がないの。あとね、ツインテールが揺れてないの。
「よしじゃあ一斉に言うぞ。せーのっ」
「眼鏡どこいっちゃったの?」
「失恋でもしたか!?」
「やっぱ発情期かー」
「可愛いっ!」
「こはるんが超こはるんになってる!」
「どした?」
「じょ、情報が多過ぎます……! とりあえず失恋はしてませんし発情期でもありませんしサイヤ人でもありません! あと眼鏡は色々ありまして! あと! あと…………あ、ありがとうございます……です……」
顔を真っ赤にして縮こまる姿は変わらないのに、いつもと全然違って見える不思議。どっちにしろ可愛いからオッケー!
「情報多過ぎは俺らのセリフなんだけどな。高校デビュー社長出勤エディションとか?」
「なんかもうその解釈で良いですはい……」
あたしの記憶にない姿の妹分が、あたしの記憶にないくらい恥ずかしそうにモジモジしている。なるほど、こりゃあ可愛いわ。あのシスコンわんわんが発狂するのもわかるわ。キモいはキモいけど。まあ謙之介がキモいのは置いといて。
それでは早速、あたしたちのオシャレ番長。美優様によるチェック入ります。
「ツインテやめたんだねー。っていうかパーマかけてんじゃん。なんだよなんだよー色気付いちゃってさー。けど似合ってるね。小顔効果も期待出来るし、ちょい丸顔なねこちゃんにはいいかもねー」
「あ、あう……」
指を内に巻かれた髪に通し、こはるんの反応を見ながら笑う美優の言う通り。こはるんのトレードマークの一つ、ツインテールがなくなっちゃった。昔からずーっとツインテだったから違和感ぱねぇ。
トップの方が短めで、サイドも襟足も肩まで伸びている。こういう切り方、レイヤーって言うんだよね確か。内側に向け緩いカーブを描くこはるんの髪たちは、まるでこはるんから離れるのを嫌がってるみたいに頬の輪郭を綺麗になぞっていて、確かに前よりも顔がちっちゃくなったように見える。前髪は8:2くらいに分けられているんだけど無理矢理な感じがなくてオシャレ。っていうか可愛い。
「っていうかこの髪型さ、芸能人の写真見せた上で寄せてもらったんじゃない? 丸顔で童顔でこういうヘアスタイルの超有名な女優さんに心当たりがあるのよねー」
「サ、サテナンノコトデショウ……ワタシワカラナイ……ワタシクソザコ……」
「揶揄ってるわけでも馬鹿にしてるわけでもないよ。ちゃんと自分を良く見せられるスタイルを研究したんだなあって褒めてるの。良く出来ました」
「あ、ありがとうございます……でいいのでしょうか……」
「それでいいんじゃない。少なくともそこの失敗前髪ちゃんとズボラ金髪よりも女の子女の子してて良き良き」
「あぅ……」
「あたしはどんな髪型でも可愛いか」
「ってか、まさかねこちゃんが眼鏡外すとは思わんかったわ! いやー驚いた驚いた!」
「せめて最後まで言わせて!?」
でも元気の言う通り、これは驚いた。ちーっちゃな頃からずっと眼鏡っ子だったこはるんが、まさかまさかの眼鏡キャストオフ。これだけでもグッと雰囲気変わっちゃうね。
「コンタクト入れたの?」
「はい……ずっと抵抗あったんですけど……思い切ってみました……」
「そうなんだ…………はぁ……」
「どうして修ちゃん残念そうにしてるの?」
「いや、俺眼鏡好きだからさ……」
「そうなの?」
「そうなの。だからなんか……や、可愛いんだよ? 勇気出してコンタクトに変えた事も素晴らしいと思うし。けれど……なんだろう…………旅立つ雛鳥を見送る親鳥ってこんな心境なのかもしれないな……」
「神妙なツラして何言ってんだお前」
「生まれた時から一緒だったけど眼鏡フェチとは知らなかったわ」
「って事らしいから時々眼鏡女子に戻ったげてね」
「ぜ、善処しま……す?」
困ったように首傾げるこはるんには、いつもとはタイプの違う可愛らしさがある。 なんかこう、大人可愛い的な!
「こんだけ大胆なイメチェンするとかやっぱり失恋でもしたんだな!?」
「違います違います! そもそも好きな人とか…………あ、や…………とっ! とにかくそういうんじゃなくて!」
「今の間いず何?」
「気にしないでくださいっ!」
「つーかよーこのタイミングって大胆にイメチェンとかまさか……ミスコンのてっぺんでも狙ってるとか!?」
「まさか! そこは浅葱先輩の指定席です! 恐れ多くてとてもとても!」
「そんな席を頂戴した覚えないんだけど」
「そうだよ! 美優の指定席なんかじゃないんだから! なんたって今年はあ」
「じゃあ何事なんよその唐突な変化は」
「ですよね! スルーされると思いましたわほんと!」
「うるせーぞアホ。それで?」
「なんと……言いますか…………」
力のない語尾を引き摺るこはるんから、照れる様が消え失せた。
「色々な事を頑張りたい理由が……出来たので……としか……」
嬉しそうとか楽しそうとか喜んでるとか、そんな感情から遥か遠そう。その曖昧な笑顔が、もはや確信と言ってもいいかもしれない一つの可能性を浮上させた。
多分だけど……言葉通り、出来たんだ。頑張らなきゃいけない理由が。その理由を作ったのはきっと、くろちゃん。
あの冗談みたいな勝負を、冗談じゃなくしたんだと思う。
「頑張りたい理由?」
「あの、深堀りは無しでお願いします……ほんとに……」
そしてもう一つ。
つまり、そういう事だよね。
くろちゃんが決め付けていた、こはるんの内側。アレ、ドンピシャって事だよね。
仮にさっきの予感を外していて、あの冗談が冗談じゃなくなっていなかったとしても、こっちはきっと外していない。
今の二人を見て。昨日までのこはるんと奏太を思い返して、確信した。
「じゃあ高校デビューと発情期が重なったって事で納得しとくわ」
「それで納得しないでくださいっ! もう…………ほんと……」
「どしたのねこちゃん」
「なんでもありません……」
いつもみたいに揶揄いながら笑う奏太を。いつもみたいに頬を赤くしながら見上げるこはるんは。
「そっかあ……」
「千華ちゃん?」
「へ?」
「どうかした?」
「……い、いやーアレ! ほら! なんていうか……ああそう! 今年のミスコンは凄い事になりそうだなーって思ってさー! 美優の独走とはいかないんじゃないのマジで!」
余計な事を言いそうな好奇心をねじ伏せ、当たり障りのない言葉をなんとか捻り出せた。あたしが余計な事を言うわけにいかないもんね。
「確かに! こいつぁ面白くなったな!」
「とはいえ美優と修の三連覇は安泰じゃねーか」
「うんうん! 二人とも一番になれるよきっと!」
「さてどうなる事やらね」
「あたしは夏菜に一番になって欲しいなー」
「いやいや! あた」
「さーそろそろ教室戻るかー」
「しが一番になるんだから! スルーされたって言ってやるんだから!」
「あーはいはいすごいすごーいがんばぇー」
「む、むむむぅ……!」
ヒラヒラーっと適当に手を泳がせながら階段を降りていく奏太。こ、こいつ……あたしが一番になれるなんてカケラも思っちゃないなー!? むかつくぅ……なんとか見返してやりたい……結果出すしかねっかーそうだよなーっ!
「で、では私は……」
三年の教室のある三階の階段で、ぺこりと一礼するこはるん。一年の教室は二階にあるからね、ここまでだね。
あーっとそうだそうだ! まだちゃんと言ってなかったや!
「ねーねーこはるん!」
「はい?」
「今日のこはるん、超可愛い!」
こくこく頷いたり、うんうんと言ったり、だなーと同意したり。みんながみんな、同じ意見らしい。
どんな理由でも経緯でもいい。可愛くなる為の努力がこうして一つの形になってるんだから、それを褒めなきゃいけない喜ばなきゃいけないんだよ。特にあたしたち六人はさ。
「え、えっと……ありがとうございます……なんだか照れますね……」
相変わらず照れ屋さんなこはるんの手がゆらゆらと空中を泳ぎ、内に巻かれた髪の先に触れた。いつもだったらツインテールに着地してる所なのに。まだしばらく違和感は拭えそうにないかなあ。
「……実はですね…………その…………」
「うんうん」
「少しだけ……自信アリでした…………ほんとにちょっとだけ……」
「ほほーう?」
「な、なんですかその顔は……」
「や、言うようになったなーってさー」
「へ、変な意味じゃないですよ!?」
「この場で言う変な意味って何さ」
「…………なんでしょうね?」
「俺にわかるかっての」
「ですよね…………ふふ……」
楽しそうに笑う奏太に釣られるように、こはるんが笑う。みんなも笑ってる。
あごめん、訂正。
美優だけ違った。や、笑ってる。笑ってるんだけど違うんだよ。あたしにはわかる。アレは、作り笑いだって。
「ほらほらー三限始まるぞー。あの発情キャットをイジメるのは後のお楽しみって事で行くわよー」
「発情キャットとか! っていうかはっきりとイジメるのは後のお楽しみって言いましたよね!?」
「今のお楽しみにして欲しい?」
「おっと三限が始まっちゃいますねではこれで失礼しますっ!」
弾かれたように再起動し、階段を駆け下りて行くこはるん。降りた先で早速クラスメイトにでも捕まったのか、小春どうしたのー!? とか聞こえてくる。今日一日はこはるんフィーバーが一年生たちの間で、もしかしたら学年全体にまで及ぶかもね。
「そんな慌てなくていいのに。まったく……ほーんと可愛いんだから……」
作り笑いではないんだけど、なんかよくわかんない笑顔。今美優が浮かべている笑顔はそんな感じ。どうしちゃったんだろ?
「確かに、ほーんと可愛くなったよなあ。顔立ちも大人っぽくなってきたし。将来有望だよなーあのねこはほんと」
「……奏太ってさ」
「おー?」
「ねこちゃんの事は素直に褒めるよねー」
「あの子は褒めて伸ばそうかなって」
「教育パパかな?」
「パパ違うわ。近所の頼れるお兄さんじゃ」
「自分で言うなし」
お兄さん。お兄さん、ね。
それ、こはるんの耳に入れちゃダメだよ。きっと、喜ばないから。
「俺と修は頼れるお兄さんだろ。なあ修?」
「巻き込み事故よくないと思うんだが。まあ大体合ってるとは思うけどね」
「俺は!? 俺も頼れるお兄さんだろ!?」
「…………はっ」
「…………はっ」
「あっ! 鼻で! 鼻で笑ったな奏太に美優! 一体俺のどこが」
「さーて三限の準備すっかー」
「すっかー」
「聞けよコラ! 急に息合わせてくんじゃねー!」
「わ、私は頼れるお兄さんだと思ってるよ! 元ちゃん頼りになるよ! ほんとだよ!」
「だろー!? いやーやっぱ夏菜はわかってんなー! 俺だって」
「うるさいチビ。おすわり」
「誰がするかケンカ売ってんのか! あとチビ言うな!」
「はいはいいいから入った入った」
「急に騒ぎ出さないでくれるかなお二人さん」
「騒いでんのそこの米粒くんだけじゃん」
「あんだとこのーっ!」
「今日はみんなテンション高いねっ!」
肌に馴染んだあたしたちのやり取りに口角が上下するのを感じていると、ポケットの中でスマホが立て続けに震えた。またあのわんわんかなと思ったけど違った。
「くろちゃん……」
先日こっそりと連絡先を交換した、くろちゃん。こはるんのクラスメイトのくろちゃんからのラインだった。
『やられました』
『驚きました』
『凄いなあ』
『私が小春くらい劇的ビフォーアフターしてもあんな風に驚いてくれるのでしょうか』
『そうでもないんだろうなあ』
『悔しいなあ』
『けど負けません』
『せめてここだけは』
『頑張ります』
『それだけです』
句読点もびっくりマークもスタンプも一切ない言葉の羅列は、やっぱり重め。そういえば、こんなの感じのラインを誰かさんからもらった事があったっけ。
なんとなく思うんだけど、あの子たちって、似てるんだよね。こう、真っ直ぐ過ぎる所とか、一生懸命な所とか。まだくろちゃんとの付き合いは浅いけど、そう感じるの。
だからかな。今度こそ確信出来た。もう絶対にそうだ。くろちゃん……本当にこはるんに言ったんだね……。
「……ま……」
負けるな。頑張れ。
こんな無責任な言葉、くろちゃんには送れない。じゃあ、なんて声を掛ければいいんだろう。歳下の女の子二人にしてあげられる事は、一体なんだろうね。
結局あたしには、既読の二文字の下に出来た余白を埋める言葉を用意する事は出来なかった。
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