カワイイ合戦!

「くじの意味よな」

「まあこんなものじゃないの」

「だなー」

「やった……またみんなと近くだ…!」

「夏菜成分摂取しながら授業受けられるからあたし的には万々歳」

「とりあえず元気が夏菜の後ろにならなくてよかったよ!」

「どういう意味だクソアホダメアホボケアホドアホこら」

「そこまで言わなくても!」

「おいおいうるさいぞーそこのアホ六人」

「アホじゃないから!」

「だからうるさいっつの」


 鬱陶しそうに表情を歪めるやっちゃんにアホ認定されてしまった。あたし以外がアホなのはわかるけど、あたしまでアホ呼ばわりするのおかしくない? おかしいよね!?


 新学期ド頭恒例のイベント、席替え。やっちゃんお手製のくじを引いた結果、またもあたしたち六人は固まる事になった。なんて確率よこれ。夏菜が嬉しそうで何よりだけど!


「じゃあ席替え終わり。次、文化祭の話。うちのクラスはミスコンの実施、開票を行う事となったわけだが」

「待ってましたー!」

「やけに気合い入ってんじゃん千華ー」

「そりゃ入りますとも!」


 なにせ、一年ぶりに訪れた最強可愛いin川ノ宮高校を決める機会だもん! 気合いも入るって!


 ここでちょっとばかし説明をば。


 うちの学校、川ノ宮高校は毎年、文化祭でミスコンを開催するのがお決まりとなっている。ただし、ちょっといろいろ特殊なの。


 ほら、ドラマとかマンガとかであるじゃん? ミスコン参加者がオシャレして舞台に立って一芸披露してーみたいなの。あんなのやらないから、うちのミスコン。


 事前に投票用紙を配る。カッコいいと思う男子を一人、可愛いと思う女子を一人、それぞれ記載して投票箱にダンク。該当者が見当たらない場合は男女どちらかだけでも可。なんなら誰の名前も書かずに用紙捨てても可って言われてるけど、なんだかんだと毎年投票率はいいらしい。その後、各学年ごとと、学校全体の両パターンで、投票の多かった男女それぞれ上位十人までを、企画したクラスがどこぞに掲示する。


 以上。うちの学校のミスコン、終わり。ほらそこ、手抜き企画とか言わない!


 ミスコンを企画運営するのは学校側じゃなく、生徒側。つまり、どの学年どのクラスも乗り気になってくれなければ企画そのものが行われない可能性もあるって事。毎年恒例行事を標榜してるってのにね。


 それでも毎年必ず実施されているのは、前年度のミスターが現在所属しているクラスがミスターコンテストの企画運営を担当。前年度のミスが現在所属しているクラスがミスコンテストの企画運営を担当っていう、一風変わった暗黙のルールが存在しているから。


 そんな企画やだ。もっと楽しい事したい! って言い出すクラスも中にはあったらしい。そんな時はもう、なるようになれ的な感じらしい。それでもここ数十年の歴史に於いて、ミスコンが行われなかった文化祭はないんだってさ。どんだけ好きなのよってね。


 前年度のミスターグランプリ、桃瀬修。前年度のミスグランプリ浅葱美優。つまり今年のミスコン主催クラスの権利は、あたしたちのクラスになると。一学期中に行った文化祭での出し物を決めるクラス会議の結果も満場一致でミスコンだった事だし、後はもうトントン拍子だった。


 ミスコンを主催する側には大きなメリットが一つある。通年と変わらないやり方でいくなら、集計結果を何処ぞに掲示すれば、そこであたしたちの仕事は終わり。つまり、二日間開催される文化祭を、とことん遊び倒せるのだ。やったぜ。


 以上、説明終わりっ!


「東雲は優勝狙いだろー?」

「あったりまえじゃん! っていうかね、あたしが優勝出来てないこれまでの方がおかしいと思うの! なんたってあたしは」

「だからうるさいっての、世界一アホな東雲千華。廊下立たせるぞ」

「素直にごめんなさいするけど世界一アホは酷くない!?」

「という事で東雲。やる気充分なお前さんに投票用紙の作成を一任する事とする」

「という事での脈絡の無さ!?」

「ついでに各クラスへの頒布も」

「オマケ感覚で仕事放り込んで来るのおかしくない!? なんであたしがー!?」

「うるさいし、なんとなく」

「なんとなくとは!? なんとなくとはー!?」

「騒ぐな。去年使われた用紙の控えもある。真似るだけなら直ぐに終わるぞ。多分。よくわからんが。まあ下校する前にパッと作っといてくれや」

「適当過ぎるっ! やだからね! あたしやらないからね!」


 ひらひら手を振るだけであたしを見ようともしない。こんなおざなりに扱われてはいやりますなんて言うもんかっての!


「そうだよ! 千華っちにやらせちゃダメだよやっちゃん!」

「そうだそうだー!」


 お!? クラスメイトからの援護が! あたしみたいに可愛いとこういう時に得だよねー!


「そもそも東雲に複合機なんて扱えると思ってんの!?」

「……ん?」

「全面真っ黒な用紙ばっかになりそう」

「機械壊して終了ってオチまで読めたぞ僕は」

「んん?」

「千華ちゃんに任せたらどれだけのコピー用紙が無駄になると思っているんですか!?」

「エコじゃないねーエコじゃ」

「んんー?」

「インクも勿体ないし!」

「困ったら機械叩きだすような子だよ!?」

「っていうか」

「んがーっ! なんだよなんだよー! みんなして言いたい放題言っちゃってさー! やるよ! やる! あたしがやるからっ! これくらい余裕で出来るし!」

「じゃあ決まりな。よろしくー」


 ああやりますともやってやりますとも! 今日下校するまでにバチッとキメてやるんだから! 


「そんじゃあ……山吹」

「……ほい?」


 自分に振られるなんて思ってなかったのか、頬杖突きながらぼけぼけしていた奏太の反応は鈍かった。


「東雲の管……お世話をお前に任せる」

「えー?」

「ねえ今管理って言おうとしたよね!? お世話でも充分アレだけど!」

「横暴だ横暴だー。年長者からこういう圧を掛けられる事により社畜ソウル逞しい若人らが増えてしまうんだぞーよくないんだぞー」

「社会に出ても困らないように鍛えてやってんだから感謝して欲しいくらいだ。あとやっちゃんって言うな」

「そんなんだからずっと独身のままな」

「それ以上は自重しろよ小僧」

「んでもないです尽力します」

「よろしい。作成は今日中。コンピューター準備室の機械を使うように。頒布のタイミングは二人に任せる。集計は流石にもうちょい人増やすから安心していいからなー」

「任された! やるぞやるぞーっ!」

「任されたくねえんだよなあ……はあ……」


 やる気満々なあたしをチラリと見て、奏太は溜息を吐いた。なんで!?


* * *


「何か言う事は?」

「ごめんなさい」

「違うだろ」

「違うの?」

「仕様書を丸暗記したにも関わらずコピーの一つも出来ないどころか、反応悪くない? 叩けば直る気がする! ってぶっ叩いたら謎の異音を発生させてしまい機械に強い教師の手を煩わせてしまった挙句ろくに作業を進められなかったクソザコダメアホ超絶アホでごめんなさいだろ。さん、はいっ」

「そこまで言う!?」

「言うわアホ。マジ使えねえなこのアホ。はーほんまこのアホほんま」

「直球過ぎて痛い! でもごめんて! ほんとごめんてー!」


 まあこんな事だろうと……って呟く奏太の視線がいつもより鋭くて痛ぇ。あ、あれれー? ちゃーんと仕様書に書いてあった通りにやった……よ?


「予想通りのゴタゴタはあったが」

「予想通りって言うな!」

「あとはこれを必要数刷るだけだ。全校生徒分は刷るとして、流石にもうちょい多めに刷っとかねえとだな」

「となると……三千くらい?」

「なんでお前みたいなアホが数学で満点取れるんだろうな」

「そんなの決まってるじゃん! このあたしは世界で一番可愛くて賢くて」

「用紙もインクも充分あるな。よしよし」

「相変わらずのスルー芸に安心感すら覚えるよあたしは!」

「騒ぐなってのアホちんが。ていっ」

「あだっ!? デコピン!? 奏太があたしにデコピンしたー!」

「しっぺとババチョップまで欲しいんだったらそのままキャーキャーやってていいぞ。ほら、どうすんだよ?」

「ずびばぜんでぢだ」


 ガチでごめんなさい。目がマジだし手も臨戦態勢なのおっかいんですごめんなさい。奏太、あたしに容赦ないからねーマジで。力加減とか全然考えちゃくれないもん。雑な感じなんで最高に奏太らしいけど、あたしだって女の子なんだけどなーその辺意識して欲しいんだけどなーほんとなー。


「よっし……ほいほいっと。あとはガンガンコピーして各クラスの人数分に分けてお終いだ」

「マジ? 楽勝じゃん!」

「さっきまでの無駄な時間もう忘れたんか、自称天才様は」

「それはそれ! これはこれ!」

「もういいや。さっさ終わらせんぞ」

「はーい!」


 早速飛び出して来た一枚を手に取って確認。うん、これなら問題なしっ。あとはこれを一クラスに配る枚数ごとに分けて保管! 余裕じゃん余裕!


「……さっさ終わらせるとは言ったが」

「うん?」

「残りの仕事のほとんどはこいつがやるわけで」

「だね」

「……ヒマだ」

「ヒマだね」

「……なんか面白い話しろ」

「面白い話!? それならそれなら」

「やっぱいいや。ステイ」

「なーんでさー!」


 手近な椅子に座ってスマホを弄り始めたんだけどこの人。なんだよなんだよー。せーっかく面白い話したげようと思ったのにー!


「言うて病み上がりなんだ、ギャーギャー喚くのやめてくれマジで。頭に響く」

「あーそっか。そういえば昨日熱出してたんだったね」


 今朝、普通に制服着て部屋から出て来たし、今日一日ふっつーに過ごしてから忘れちゃってたけど、そういえば昨日発熱したんだったね。祭りも不参加でずーっと寝てたし。


「よく一日で熱下がったよねー」

「んー」

「っていうか実は今熱上がってるーとかないよね?」

「んー」

「それならいいけどさー。あたしには風邪移さないでよねー」

「んー」

「…………外は大雪が降っていますね」

「んー」


 降ってないし。聞いちゃいないし。会話する気ないし。奏太らしいっちゃらしいんだけどさあ。


「ま、元気になったんならよかったよ」

「んー」

「うん」


 それはほんと。家で寝てるだけなんて面白くないもんね。残り少ない高校生活だもん。一日も無駄にしたくないよね。


 ん? 残り少ない? 残り少ない……あそうか! もう今年しかないんじゃん! リベンジのチャンス!


「くぅ……」

「んー」


 まだ何も言ってないって、唸っただけ。


 あたしが一年の時も二年の時もミスコンは開催された。その二回共、あたしより上に、美優がいた。というか二回共、美優がグランプリだった。


 ずっと一緒だったからかな、美優に負けるのって超超ちょー悔しいの! わかる!? わかって!? 他の誰かならまだいいんだけど……いやよくないわ! やっぱやだわ! 誰にも負けなくないわ!


 過去二回はダメだったけど、今度こそ。世界一可愛いあたしが、この学校でも一番可愛いって証明しなきゃ!


「はあ……ミスコン勝ちたいなあ……」

「…………なんで」

「お、喋った」

「そんな拘ってんの?」

「そりゃああたしは世界一可愛い女の子だからね! こういう所からしっかり証明していかないといけないよなーって!」

「アホ」

「アホちゃうわ! っていうか! 女の子は誰だって可愛くなりたいし可愛いって言われたい生き物なの! ミスコンなんて興味ないしーとか大きな声で言ってる子だってみんなみんな可愛くなりたいし可愛いって言われたいんだよほんとは!」

「ふーん」

「あたしだってそうだもん! まあとっくに世界一可愛いんだけどね! あとねあとね! 美優に勝ちたいみたいな! そんな感じあるわ!」

「美優相手じゃ無理だろ」

「む、無理じゃないし! 勝つ為の戦略も練ってるし!」

「例えば?」

「世界一可愛い東雲千華に清き一票を! って言いながら投票用紙を一人一人に配って回る!」

「逆効果だろアホ」

「そうかなー? っていうかアホ違う!」

「ま、今年も美優の独壇場だろうな」

「ぐ、ぬぬ……!」

「いや待て。美優といい勝負しそうな人材が一人いたな」


 なんかのアプリポチポチをやめて、あたしを見る奏太。こ、これ……まさか……?


「な、なに……?」

「んー」


 間抜けな声出しながら、真っ直ぐにあたしを見続けている。まあ……うん! そうだよね! 世界で二番目か三番目くらいに可愛い美優と勝負出来るのなんて一人しかいないよね! なんだよなんだよもーっ! 素直にあたしの事可愛いって言ったらいいのに! 奏太のツンデレめっ!


「ね、ねえ奏太……? その人材って……」

「ねこちゃんだな」

「だ、だよね……やっぱりあたし……じゃないんかーいっ!」

「お前なわけねーだろ」


 ム、ムカつく……マジムカつく……! ニヤニヤしてんのマジムカつくーっ!


「春に再会してからの数ヶ月で垢抜けた感あるよなーあの子。実際同級生はもちろん上級生連中からの人気も高いみたいだし、マジで上位に食い込んでくるかもな」

「ふーっ! ふすーっ! ふしゃーっ!」

「なんだそれ。アマゾンの奥地にでもいる蛇のモノマネとかか? 上手いぞ。その道で飯食ってけそう。よくわかんねーけど」

「どこまでも適当か! 誰かと思ったらまさかのこはるんとは!? 確かにこはるんはロリ巨乳メガネツインテで隠れオタクで属性マシマシでつよつよで無自覚エロエロでめちゃ可愛いけど!」

「属性渋滞し過ぎでは」

「それでもこはるんには負けないかなー。っていうか負けたくない!」


 もっと言えば、負けられない! 妹分に負けたら……負けたらぁ……や、やめやめ! 考えるのやめっ!


「ねこちゃんの属性の方がお前より世間様のニーズに応えてるぞ。それも圧倒的に」

「ニーズとか知らないし!」

「っていうか今年は夏菜もワンチャンあるな。去年より確実に可愛くなってるし、最近は人前でもよく笑うようになったし。言うて去年も一昨年もランク入りはしてるしな」

「だ、だね……」


 そうだよ。白藤夏菜っていう、超強力なライバルがもう一人いるじゃんか。


 ありゃ? そういえば今日の夏菜……。


「あれ? 夏菜ちゃん前髪揃えたの!?」

「ちょっと意外ー。でも可愛いー!」

「うん、白藤さんによく似合ってるな」

「そんなに恥ずかしがるなよ白藤よー。こんな可愛いんだから堂々としてればいいのに」

「もっと自信持って、夏菜!」

「そうだよ! こんなに可愛いんだから!」


 めっちゃ褒められとるー!? 二学期早々株爆上げしとったー!?


「あ、ありがとう…………でもあんまり見ないで……うぅ……」


 確かに可愛かった! 照れながら前髪隠す夏菜超可愛かった! なんてつよつよ可愛いんだあたしの幼馴染はー!?


 それであたしは!? あたしはどうだったっけ!? えっとえっと……。


「お、千華だ。相変わらずちんちくりんだねー」

「高校最後の夏を経ても体の方は成長なかったみたいだね……まあしゃーなし」

「なーんか千華たんってさ、今一つ何かが足りない感じするのよね。わかる?」

「あーわかるわかる。それが何かはわからないけど」

「なんかこう、素直に可愛いって褒めにくいんだよなー」

「素材はいいのに勿体ないなあ」

「っていうか、可愛いの方向性が幼いんだよなー東雲は」

「親戚の子供感あるよな。可愛いっちゃ可愛いんだけど、それがどうしたみたいな」

「残念なんだよなあ千華は」


 ボロクソ言われとるー!? 二学期早々理不尽っていうかそこまで言わんでもな事言われまくっとるー!? こんなに可愛いあたしなのになんでじゃー!?


「なんだ、お前より美優に近いヤツが身近に二人もいるじゃんか。終わったな。お疲れ様でした。来世で頑張って」

「早い早い早い早い! まだ何も終わってないから!」


 わかる、わかるよ……夏菜は可愛い……どんどん可愛くなってる……去年より人気が出てるのは間違いない。奏太の言う通り、こはるんも上位レースに食い込んでくるのは間違いない。なんてたって、あたしたちの可愛い可愛い妹分だもん! 当然よ当然! って! 誇ってる場合じゃないんだわ!


「……仕方がない…………こうなったら……」

「なんだ? 賄賂でもばら撒くか?」

「撒かんし! そんな卑怯な事して勝ったって何の価値もないもん!」

「じゃあさっき言ってた世界一アホな東雲千華に汚い一票よろしく作戦も不可だな。他のヤツらが何もしてねえのにお前だけ印象操作とか、充分卑怯案件だろ」

「た、確かに……っていうかツッコミ所多かったね今!?」

「うるせえっつの。ギャーギャー喧しい女に票なんて誰も入れねえぞ、きっと。そういう所がなんか物足りねえって言われる要因の一つなんじゃねーの」

「ぐぬぬぬぅ……!」


 言いたい放題するだけして満足したのか、ちょっとニヤつきながらスマホポチポチに戻っていった。奏太のこういう所ほんと……!


「奏太ってほんと意地悪!」

「脇の甘いお前が悪い」

「清々しい責任転嫁だね!?」

「だから喚くなっつの。ガキの頃から全然進歩してーなほんと。そんなんだから女子力クリボー並みとか言われんだ。俺に」

「要するにクソ雑魚って事じゃん! って! 言ってんのお前かーいっ!」

「うるさいだけでキレのないツッコミ。赤点ですね」

「喧しいわ!」

「こっちのセリフじゃ。ほれ、そろそろ作業始めろやほれ」

「奏太もやるんだよ!?」

「俺は管理に……調教役だし」

「管理人って言おうとしたよね!? っていうか調教役でもだいぶアレだね!?」

「喚くな。この束分けろや、ほれ」

「わかったよぉ……」


 なんだかんだ言いつつも仕事はしっかりするらしく、コピー済みの半数以上を自分の手元に置いている。真面目だよねー奏太は。


「さてさて……えーっと……」

「千華」

「何ー?」

「ま、頑張れや」


 そんで、最後にはこうして、エールをくれる。ちょっと捻くれてるけどね。もっと素直に優しくしてくれればいいのにっ!


「うん……頑張る!」

「んー」

「ねーねー奏太はさ、ミスコンで誰の名前書くのー?」

「……考えてねー」


 勢いで言っちゃってから気付いた。去年も一昨年も、誰の名前書いたか知らない。っていうか奏太のその辺、異性的な話っていうのかな。全然聞いた事ないや。結構モテるのは知ってるけど、それ以上の話は全然聞かないんだよなー。


「っていうか、どういう子が好みなの!?」

「よくわかんね」

「っていうか、いるの!?」

「何が?」

「好きな子!」


 一瞬。直ぐに再開したけど、ほんの一瞬、用紙を数える奏太の手は止まっていた。


「……お前こそ誰の名前書くんだよ」

「はいぶぶー! 質問に質問で返すのぶぶーですー!」

「一方的にこっちの情報だけ抜き出そうなんて甘いっつの。言い出しっぺが何も言わねえとかまかり通らねえぞ」

「わかったわかった! 女子はあたし! 男子は修って書くつもり!」

「ふーん」

「世界で一番可愛いんだからあたしの名前書くのは当然として、修には三連覇して欲しいし! 実際うちの学校で一番カッコいいの修だと思うし!」

「あっそ。じゃあもう一つの質問は?」

「好きな人いるのってヤツ?」

「ん」

「それならいない! 好きな人、いない!」

「ふーん」


 ふーんから読み取れる情報は、すっごく少なかった。とりあえず驚いてる様子じゃなさそう。


「ま、なんでもいいけどよ」

「じゃあ聞かなきゃいいのに」

「先に聞いたのお前だろ」

「そうだけど……って! あたしの質問に答えてないじゃん!」

「好きなヤツならいねえ。男子は修、女子は美優か夏菜かねこちゃん。はい答えた」

「そこはあたしじゃないの!?」

「は?」

「だから! 名前書くの! 散々いろんな話したんだからあたしの名前書いたって」

「書くか。余計書く気なくなったわ」

「なーんーでー!?」

「ほんっとに……アホ」

「なんでなんでー!?」

「うるせえ。ほれ、ちゃっちゃと分ける。各クラスには今週中に配りに行くぞ。いいな」

「わかったけど……なんだよお急に……あ、そうだ、聞きたい事あったんだった」

「何だ?」

「昨日、何かあった?」


 お祭り最終日だし、熱出してたし、何かあるとは思わないん。でもね、昨夜、リビングの灯りを点けたら一番に目に飛び込んで来た奏太、様子がおかしかったの。その時は直ぐ部屋に引っ込んじゃったから何も聞けなくてさ。


「何もないが」

「ほんと?」

「こんな事で嘘吐いてどーすんだ。お前が気にするような事、なんもなかったっての」

「そっか」

「おう」


 あたしなりの気遣いもお気に召さないのか、不機嫌加速した感ある。もしかしてあたし、なんかよくない事……言っちゃった?


 ま、いいか! よくわかんないし! 悩んでも仕方ないし! そもそもほんとにガチギレ案件なら奏太はちゃんと言ってくれるし! そうじゃないって事はそこまでの地雷じゃなかったって事! だと思う! とにかく切り替えてこー!


 って思ったんだけどね。


 それから、全ての作業を終えるまで、事務的な事以外何も言わない奏太の姿はあたしの脳にあんまり優しくなくて、なんかずっとモヤモヤする感じがしてた。

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