k-201

 以前見た彼の姿に貴族らしい姿は、見る影もなかった。


 ボロ布をまとい、頬は痩せこけ、寒さに震えながら、それでも気丈にこちらを見ている。


 町を追放されたのだろう。彼の姿を見るに、とても冬に野宿できる恰好ではない。


 俺の顔など見たくはないだろうに、やむを得ず近場の俺の家まで来たというところだろう。



 ……つまり、目の前のこのみすぼらしい男はハインリッヒで間違いなかった。



 そしてここで俺が見放せば、彼は確実に凍死してしまうに違いなかった。



 ブルーウルフが門の周りに集まってきた。俺を心配してきてくれたのだろう。


 俺は大丈夫だと手で制した。


 それにアッシュが警戒していない。


 悪意のある人間やモンスターには必ず反応するのにも関わらず、焚火の横で安心しきって丸まって眠っている。



「まあ、少し仕返しをしないと俺の気がすまないかなあ」



 俺の中のいたずら心がムクムクと湧き上がってきた。



 ということで、俺はハインリッヒに背を向け無視することにしたのだった。



 あー、ホカホカのスープと燻製が美味いなあ。


 集まってきたブルーウルフたちが、ハインリッヒを取り囲み遠吠えをあげていたが、無視無視。



 最初は余裕の態度をとっていたハインリッヒが、だんだんと涙目になっているのがわかる。


 そして、最終的には、門をガシャガシャさせて、「助けてくれ!」的なことを叫んでいた。



 うーん、愉快痛快。でもちょっとだけ可哀そうになってきた。



「よし、こんなもので良いか」



 椅子に腰かけていた俺は、膝にかかった焚火の火の粉を払うと立ち上がり、門前まで移動。


 ハインリッヒを門の中に招き入れることにした。


 それにしても酷い顔だ。



 それを見ていたユリナさんは何か言いたげだったが、結局何も言わなかった。


 俺は寒さで弱ったハインリッヒを焚火に前に置いた椅子に座らせた。



 ハインリッヒは「フン」と鼻を鳴らし、ヒビの入った銀縁眼鏡を右手中指で上げる。


 こんな状況でもまだ強がるかね。


 俺は黙って卵の燻製とスモークチーズを皿に入れ彼に出してやった。


 すると彼は、目の色を変えてモグモグと泣きながらそれを食べた。



 それから俺とユリナさんがドラム缶風呂に入った後、彼にも入るようジェスチャー。


 冷えた体を温めてもらった。


 彼が風呂に入っている間、俺は鍛冶小屋の炉に小さく火を入れ布団を敷いてあげた。


 そして風呂の横に置いた台にタオルと着替えを置くと、ハインリッヒはそっぽを向いて小さな声で「アリガトウ」と言った。


 ハインリッヒはツンデレキャラだったのかあ。



 俺はそんなアホなことを考えつつ、彼に鍛冶小屋で寝るように指差した。


 そして彼はよほど疲れていたのだろう、すぐに眠りについたようだった。


 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 とりあえず、ハインリッヒを助けることにしました。ブルーウルフに脅させ、ビビらせる程度で済ませるあたりがケイゴらしいかなと思ってます。

 ここもかなり手を加えてみました。

 次回、ケイゴが一人ハインリッヒのことを語ります。


(作者のモチベになりますので本作が気に入ったら、☆、♡、お気に入り登録、応援コメントよろしくお願いします🐉 書籍、コミック、ニコニコ漫画での連載も宜しくです🐕)

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