k-168

 俺たちを迎入れてくれたのは、本当に家が10軒もないくらいの小さな集落だった。


 俺は石炭の煙を上げていた小屋に伺い、炉を借りることにした。銀貨数枚を提示したところ、家主であるビンスさんは今日はもう作業はないとのことで、快く使わせてくれた。



 それから鍛冶場に篭ること丸一日。金槌で鉄をを叩く音が小さな集落に鳴り響いた。


 俺が作業している間、ユリナさんには鍛冶小屋に隣接された客間で休んでもらった。なんだかんだで慣れない馬車旅で疲れも溜まっているだろうからな。



 そして試行錯誤の末、なんとか薪用煙突ストーブが完成した。


 床の材料には集落で調達した石材を使用。馬車内で薪を補充するための小さな開口部。煙は上に逃げるので、ストーブの上部に煙突を取り付けることにした。


 幌には煙突の大きさと高さに合わせて切れ目を入れて、さらに煙突の熱で幌が燃えてしまわないように接合部分を加工したものをとりつける。



 ストーブをどうにか取り付け完成した後、試運転をしてみた。


 ファイアダガーで薪に火をつけてしばらく待つ。すると、家の暖炉のように暖気が幌馬車の中を満たしていい感じになった。


 ストーブの上をコンロのように調理できるように作ったので、調理のために外に出て体を冷やさなくても済むようになったことも嬉しい。


 これなら寒い夜が続いても十分乗り切ることができそうだ。


 やはり集落に来る判断は間違っていなかったと思いたい。




 その日は夜も深まっていたので、集落に一泊することにした。家主のビンスさんには口止め料も込みで、金貨1枚を渡しておいた。



 翌日、ビンスさん経由で旅に必要な食糧や燃料を分けてもらうことにした。


 冬の雪深い時期なので、冬籠の品は小さな集落では貴重ということもあり最初は難色を示していた。


 だがお金ではなく、俺の示した物物交換の商品を見、試食してみて態度を一変した。


 その商品とは、ある程度保存のきくトゥカリュスやネイトリュスのジルクート水草じめ(昆布じめ)、卵やチーズの燻製、そして釣りの合間に製作したファイアダガーだった。



 行商人の足が重くなる冬季間に通貨はあまり価値がなく、むしろ危険な川の食材や燻製食品は嬉しかったようだ。そしてファイアダガーは冬に限らず火を起こす道具として喜んでもらえた。


 合間に作っておいてよかったな。



 一方こちらは、塩、ニンニク、大豆、酒、卵、鶏肉、ミルク、チーズ、野菜の酢漬け、冷凍果物、小麦粉、薪などを仕入れた。


 その中にはなんと「大豆ソース」なるものがあり、舐めてみたところ普通に醤油だった。



「うおおおおお!」



 俺は思わず感涙し、ビンスさんと強く握手した。これで料理のレパートリーは劇的に増えるぞ……。


 酒と美味い飯は新婚旅行に花を添えてくれる大切なものだ。今回のこの発見は後世まで語り継がれ得るだろう。たぶん。


 仕入れたものの中にセリュー酒という酒があったが、どうやら異世界米で作ったものらしく辛口の日本酒に近い味がした。飲むだけではなく、料理にも使えそうだ。



 町には必要最低限しか立ち寄らないつもりなので、俺はここぞとばかりに仕入れられるだけ仕入れたのだった。




 取引では特にファイアダガーを手に入れる機会は通常なかったらしく、よそよそしかった集落の人たちの態度が急に友好的になった。



 彼らから何泊かしていってくれと言われたが、可能な限り人目は避けたいので、俺たちはその日のうちに集落を後にすることにした。


 まあ、友好的になるのは良いことだな。


 ビンスさんに、ある者から理不尽に追われているのでここに立ち寄ったことは口外しないでくれと頼んだら、「任せろ!」と言って胸を叩いていた。


 そして、俺とユリナさんアッシュを乗せた馬車は親切な人たちの名もなき集落を後にしたのだった。


 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 というわけで、幌馬車用のストーブを自作した主人公でした。

 ちょうどこの幌馬車にストーブがついていて、その上で主人公がフライパンで料理している絵が、書籍版2巻の口絵(カラー)で描かれています。

 もちろんセーターを着た美人のユリナさんも描かれているので気になった方は是非見てみてください。


(作者のモチベになりますので本作が気に入ったら、☆、♡、お気に入り登録、応援コメントよろしくお願いします🐉 書籍、コミック、ニコニコ漫画での連載も宜しくです🐕)

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