k-89

 俺は三人が鍛冶小屋で寝静まった後、一人考える。


 足元ではスピースピーとアッシュが寝息を立てているので、厳密には一人と一匹ではあるが、思考しているのは俺一人だ。



 ――人間は矛盾した生き物だと思う。



 俺は昔から不意に一人になりたいという衝動に駆られることが度々あった。


 学生時代、携帯電話を突然解約して音信不通になって受験勉強に集中したり。


 でも人恋しくなって、また携帯電話を復活させたり。


 SNSだってそう。


 不意に全ての人間関係が嫌になって、アカウントを消去したりすることもあった。


 それでも人恋しくなっての繰り返し。


 北海道の農家に引きこもったのも同じことだ。


 商社マン独特の、作り物めいた笑顔をしなければならないのも見るのも嫌になって、もう二度と絶対に人間と関わりたくないと思った。


 自給自足をして、一切の人間関係を絶とうとした。


 この月の蒼い不思議な場所に来ても、俺の根本は何も変わらない。


 俺は安全性を度外視してでも、レスタの町での生活を拒んだ。


 生きる上での最低限の付き合いは別にして、絶対に人と関わるもんかと思っていた。


 こちらの世界に来た当初、俺の心の中でマルゴ、ジュノ、サラサもその『生きる上での最低限の付き合い』にカテゴライズされていた。


 ダンやカイ先生、解体屋のおっちゃんにしてもそう。言葉が通じないおかげもあり、不思議と嫌悪感は無かった。むしろ親切だとすら思った。


 ただ、人間関係のカテゴライズとしては、やはり『生きる上での最低限の付き合い』でしかなかった。今思えば酷い話だ。




 しかし、心の中でやはりいつものあれがやってきた。


 知らず知らずのうちに、愛すべき馬鹿をするあの三人に俺は心のつながりを求めてしまっていた。


 俺は、作り物めいた笑顔がはがれ落ちるような綺麗なものを見つけてしまった。


 また不意に一人になりたくなることが無ければ良いな。


 このまま、心地よい心の距離感のまま三人との関係がずっと続けば良いな。


 俺は自分自身の心の矛盾が恐ろしくてたまらなかった。


 携帯電話を突然解約するように、SNSのアカウントを消去するように、ビジネスの人間関係を全て捨ててしまうように。


 三人との関係を消し去りたいと思う日が来ないとどうして言い切れる。


 それが、心の中に棘となって刺さりどうしても抜けない。




 思考がぐるぐるして止まらない。このまま朝を迎えそうだ。


 俺はそうっと布団から抜け出し、暖かいマーブル草のハーブティを飲みリラックスすることにした。


 鍛冶小屋から大きな二重奏が聴こえてきて、俺は思わずクスッと笑ってしまう。悩んでいたのが嘘のように馬鹿馬鹿しくなってくる。



 俺はハーブティを飲んだ後、今度こそ深い眠りについた。


 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 ケイゴが自分がなぜレスタの町に住むことを拒んだのか、人とはつるみたくないと考えているのか、そして心境にどんな変化があったのかを吐露するシーンになります。

 というわけでプロローグとサブタイトルの回収でした。


(作者のモチベになりますので本作が気に入ったら、☆、♡、お気に入り登録、応援コメントよろしくお願いします🐉 書籍、コミック、ニコニコ漫画での連載も宜しくです🐕)

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