k-86

 翌朝、家の前にシカが一頭置かれていた。


 首に噛み傷があり、体に触ってみると温もりがあった。狩られたばかりのようだ。


 俺はなぜだろうと疑問を感じながらも、目の前に新鮮なシカ肉があるという事実に集中することにした。迅速に血抜きをし、解体作業に取り掛かる。


 ジビエ〜


 今日はシカ肉料理だな。知らぬうちにジュルリと口の中に唾液が分泌される。


 あのとろけるシカ刺しの味わいを思い出す。


 ジビエ〜


 シカに夢中になっていると、各方面からエサを忘れるな! (怒)と非難の声が上がった。わかったよ。



 12:30

 午前中一杯を使い、シカの解体を行った。シカのレバ刺しを昼に食べた。


 当然少しチビリとやりながら。塩とともに口の中に広がる旨みがヤバイ。臭みが少しもないし、体に栄養がみなぎってくる感じがハンパない。


 しばらくすると荷馬車に乗ってマルゴがやって来た。


 マルゴもどれどれと塩で味をつけたレバ刺しをつまみ食いしつつ、酒をグビリ。


 マルゴが硬直した。まあ、気持ちは解からんでもない。


 これはヤバイ。ヤバイという陳腐な表現しかできないが。どうか解かってほしい。


 もう一度言う。ヤバイ。



 ――真昼間から駄目な大人たちであった。



 14:00

 どうやら、マルゴはファイアダガーとウォーターダガーを俺に作ってもらうために来たようだ。ダガーがマルゴの荷馬車で山になっている。


 おいおいマルゴさんや……。これを全部やれと言うのかね……。


 しかし、マルゴは目の前のシカに釘付けだ。ダガーの作成は、いつでも良いそうだ。とにかくシカだとジェスチャーされた。



 18:00

 昨日の残り湯があったので、薪を燃やして追い炊きをした。


 俺たちはザブンとやって、体の凝りをほぐした後、シカを堪能することにした。


 レバ刺しの残りと、シカ刺し、シカ肉と野菜の炒め物を作った。


 それで一杯やる。幸せすぎだ。


 新鮮なシカ刺しが舌の上でとろける感触。すり下ろしたにんにくと絡み合う旨み。


 何もかもがどうでも良くなる。


 マルゴはあの貴族様のことを言っていた。大人しくしていてくれることを願うのだそうだ。それは俺も同意見だと、ジェスチャーで返す。


 余計なことを俺からは言わない。そもそも言葉上手く使えないから伝わらない。


 それが良い。いくらでも酔える。相手を傷つける心配がそもそもない。


 俺は気分が良くなり日本語の歌を歌う。マルゴは拍手をしてくれた。


 マルゴも余計なことは言わない。そもそも上手く言葉が俺に伝わらない。


 酔った言葉をうっかり小耳にはさんで、棘のように心に刺さることもない。


 マルゴも歌を歌う。歌詞はよく解からないが、荒々しくてマルゴらしい歌だった。


 俺も拍手を返した。


 商社勤め時には日常だった言葉の裏の読み合いはないし、無理に合コンや接待でパリピを演じる必要もない。


 俺は一個人という関係性でマルゴとつながっている。


「なんというか、楽だなあ」


 俺は陽気に歌を歌うマルゴを見ながらつぶやく。


 日本では酔っ払いに対して割と厳しかったけど、こちらの世界では酔っ払うことを悪いと捉える人は余りいないようだ。


 少なくとも、俺が仲良くなったこちらの友人たちを見る限りは。


「やっぱり、楽だなあ」



 パチパチと音を立てる焚き火を眺めながら、俺はこんな関係がいつまでも続けば良いなと願わずにはいられなかった。


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 みなさんこんにちは! ここまでお読み頂きありがとうございます🐔


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