第3話 不治の病

彼女の家に通い始めて何日が過ぎただろう。十月も終盤に差し掛かり、ハロウィンという豊作を祝う行事を控え村中にカボチャが置かれ始め少し華やかに色取られてる異様な光景にまだ目が慣れない僕は異様な光景に恐怖を覚え逃げ込むように彼女の家に入る。

「やっと恐怖から解放されたぁぁぁぁぁぁ⁉︎」

なんと家の中もハロウィン一色。カボチャのミニチュアや、魔女の置物。オバケの飾り物まで一式揃っていた。

「ここもかよ・・・」

僕は一息つけず、張り詰めた息のまま二階へと登っていった、この時僕は彼女に文句を言いつけてやろうと心に決めていた。

「なんですかありゃ!あれって地獄です・・・か?」

心に決めていたはずなのに声は小さくなる一方。原因は確実に目の前の少女の格好であろう。

「トリック・オア・トリート!」

彼女はハロウィンの代名詞とも言える言葉を僕にはなったがその言葉は全く耳に入らずそのまま突き抜けていった。

「な、なんですかその格好」

「これ?魔女だけど」

彼女が魔女のコスプレをしていたのだ。あまりの可愛さに言葉をまた失う。

「あ、あのまたなんで急に?ってハロウィンが近いからですよね」

「まぁそうだね。どう?似合ってる?」

そう言うとおもむろに立ち上がり、ポーズをとる。僕はとっさに携帯電話を取り出し、写真を撮っていた。そうしてしばらく彼女の撮影会が始まったのだった。

 撮影会を終え、やっと一息つくと彼女がココアを持ってきてくれた。温かいココアは湯気を出し、とても暖かそうだった。

「あ、ありがとうございます」

「いやいや大丈夫だよ。ここは私の家だし、君はお客様だし」

「そういえば、名前教えてなかったですよね」

僕としたことが肝心なことを忘れていた。流石にや荒化したと思い心に少し傷を負う。

「鈴原 達也(すずはら たつや)です」

「白石 曦(しらいし あさひ)。曦でいいよ」

「わかりました。曦さん」

「まぁそれでいいや。よろしくね達也くん」

自己紹介が済み、雑談へと話題が変わる。この日の収穫は名前とコスプレ写真だった。

「寒いなぁ」

暗くなった道を歩いていると道端に光が見える。それも一個ではなく、数十個と言う単位でだ。

「もしかして・・・」

僕の予想は当たりにあたり昼間はカボチャだと思っていたものから光が解き放たれ、道を照らしている。道端のカボチャはジャックオランタンだったのだ。

「こっちの方が気味悪いしぃぃぃぃ」

僕は叫び、その場所から走り出す。疾く帰路に着き、自宅に帰る。

「ほんとなんなんだよぉぉぉぉぉ⁉︎」

もちろん自宅もハロウィン一色。僕はその場で足からなだれ落ち、叫ぶ。

「もう嫌だああああああああああああああああ‼︎」

こうして地獄のハロウィン週間が始まった。

 ハロウィンを明日に迎えた今日。僕の村で前夜祭がある。それに彼女を誘おうと思い、足取り軽く彼女がいる家へ向かってダッシュ。走り側に見えるカボチャはこっちを向いているように思えた。

「本当に気味悪りぃ」

呟きながら夕陽で紅く染まった道を駆け抜け、彼女の元へ。木の脇を通り、小道を通る。そうするといつもの家が見えてきた。

「やっぱり近いよな」

ここまでの所要時間は五分ちょい。こんな近所とも言える場所があることを僕は知らなかった。もし知っていたら地元の小学生に肝試しなどで有名になりそうだ。

「なんで気づかなかったんだろ」

疑問を覚えながら玄関に手をかけ玄関を開ける。今日も玄関はハロウィン一色だ。

「地獄だ・・・」

頭を抱え、出来るだけハロウィンの飾り(特にジャックオランタン)を見ないように靴を脱ぎ二階へ向かう。

「こんにちはー」

声をかけても反応はなく、自分の声が反響する。なんかこんなこともあったなと思いながら彼女の部屋で荷物を置き一息つく。いつもならこうしている間に彼女はこの場にやってきて、雑談が始まる。

でも今日は彼女の気配すら感じず、二階のどこを探しても彼女が見当たらない。

「どこ行ってるのかな」

少し心配になり荷物を持ち階段をすごい勢いで降る。玄関に差し掛かったとき後ろから声をかけられた。

「もう帰るの?」

その声は聞き覚えのある女性の声。探していた存在『白石 曦』の声だった。

「・・・」

二人の間に沈黙が訪れる。その沈黙が破られたのは数十秒経ったあとだった。

「え、どこから・・・?」

「リビングだよ。一階の」

彼女は笑いながら説明する。きっと僕の困惑した表情が面白かったのだろう。

「一階にはねお風呂とかキッチンとかあるからご飯を食べたり、お風呂に入りたい時は一階に降りてきてるんだよ。ちなみに今回はお昼ご飯まだだったから食べてたの」

「え?でも音も何も聞こえなかったような・・・」

僕は記憶をたどり家にやってきたことを思い出す。音は確かにしていなかった。気配すら感じ取れなかった。自問自答を繰り返し結論を見出そうとする。どんなに考えても結論は見えず、考えることをやめ。本題を彼女に話し始める。

「今日ってさ前夜祭じゃん?だから一緒に行こうよ」

できる限り緊張した様子を悟られないように明るく振る舞う。かえって不自然だったのかもしれない。そんなことは気にせず回答を待った。

「・・・」

前夜祭に誘った直後彼女の顔から表情が消えた。しばらく経ち、彼女が開いた口からは予想していた回答とは反対の回答が返ってきた。

「ごめんなさい。前夜祭には行けない」

「え・・・?」

最初僕は何を言われたのかわからなかった。そんな現象も時間が経てば治り、全てが自分の妄想であり、幻想だと言うことを痛感した。

「私の病気のこと話してなかったっけ」

彼女はまた口を開きひとりでに喋り始める。

「私が患っている病気はとても特殊で日中で暮らすには問題はない病気なんだ。病気の名前は『月光病』。月の光に浴びると火傷したような痛みが浴びた箇所に現れる。痛みが取れたと思ったら今度は途轍もない吐き気が襲ってくる。そんな病気なんだ」

彼女は簡潔に病気の概要をまとめ、僕に話してくれた。その話を聞いた僕はとっさに質問をしていた。

「治す方法は?」

「わからないんだ。謎が多い病気で完治もできない。生まれつきの病ってだけはわかっているみたいだけどね」

「・・・そんな」

僕は途轍もない悲しみと脱力感に襲われ言葉が出なくなる。僕はその場で固まっていた。

「私の病気は不治の病なんだよ」

固まっている僕の体にその言葉が届く。その言葉を聞いた瞬間僕の頬には涙が流れていた。

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