第59話 呼び名を考えるだけで精神力を消費する

「……とまあ、初級者ダンジョンには危険がいっぱい。俺たちの冒険は、これからだ! おしまい」


 冒険譚ぼうけんたんを食事中の皆に話す。


 カナさんは所々に感想を述べて、聞き入ってくれた。


 寝付く前に、子供に絵本を読み聞かせるのは。こんな感じなのかな?


「クリスが落とし穴に落ちた所が、おもしろいです。欲望ちゃんですわね」

「わ、わたくしが率先して罠の危険性を教えただけですわ! ぐぬぬ!」


 むしろ、M字開脚のエロさをご教授してもらった様な。


 言わないでおこう。うん。


「ついでに、リナ――」

「はい、旦那様?」


 おや? リナさんが返事をしてしまった。


 ダンジョンで出会った、リナ蜘蛛さんを皆に紹介しようと思ったけど。


「リナさんじゃなくてね、蜘蛛のリナ――」

「はい、旦那様?」


 ううん!? あれ!? リピートアフターミー!? 英会話スクールかな!?


「だ、だからね!? リナさんじゃなくて!? 蜘蛛の――」

「はい? 旦那様? ふふふふ」


 ふふふふじゃなくて!? 誰か、ヘルプ!? 


 はい、目線があったサーヤちゃん!


「ソ、ソージ君。あの蜘蛛さんの別名を考えた方が。どうにも、リナさんが納得してない――ひいいい!? ごめんなさい!?」

「はい? サーヤ様? 何か? ふふふふ」


 耳打ちで、サーヤが助言をしてくれた。


 こ、こら!? サーヤを脅さないで!?


「そ、そうだな!? 皆も知っているかもしれないけど、庭にいるモンスターについて紹介したいと思います!? えー、まず正式な名前を決めましょうかね!? な、何か案は?」

「ご主人さまの好きな名前でいいと思います!」(お姉さまの名前が、しっくりくるのは絶対内緒です!)

「わ、私も特に。ソージ君が名付けたなら異論はないよ!?」(率直に、リナ蜘蛛さんなんて言えないよ!?)

「ソージが主体的に決めるのが、よろしいのではなくて?」(リナ蜘蛛ですわー! リナ蜘蛛に一票! けけけけ!)

「ソージが好きに付けたら? いやん、好き勝手やりたい放題なソージ!」(どう見ても、リナの名前がちらつくけど)

「ソー坊に任せるよ?」(リナにそっくりだからね。同じような名前でも、構わないけどね)


 ちょいと君達!? 僕に丸投げですか!? 


 リナさんのプレッシャーに負けたの!?


 そ、そうだ。不満のある、リナさんに決めてもらえば?


 これなら、問題無しだろう。


「じゃあ、リナさん!? ご意見、ご要望など、ありましたら!?」

「わたくしですか? ただのメイドが差し出がましい真似できませんわ。旦那様がお決めに。わたくしは、旦那様の決定に従います」


 絶対嘘だよ!? やせ我慢してるよね!?


 困ったな。うーん。


 シンプルな名前。蜘蛛、くも。


「クモリーなんてどうかな? 天気のくもりの感じに似てるし。色合い的に」

「分かりやすくて、良いと思います! ご主人さま!」(お姉さまの名前の一部をそれとなく入れるとは、流石です!)

「そうですね。覚えやすくて、良いと思いますよ?」(リナ蜘蛛の順序を逆転しただけなのかな!? き、気のせい!?)

「まあ、妥当な名前ちゃんですわね」(蜘蛛リナのクモリーですわね!)

「ソージが納得してれば、問題無し」(問題は、リナが納得するかだけど)

「意外と、しっくりくるじゃないか」(リナには悪いけどね)


 思ったよりも好評だな。異論が出ないとは。


 さて、リナさんの評価は?


「……クモリーですか。かしこまりました。旦那様。そのように。……


 うん!? 後で、話し合いですか!?


 も、文句は、今言ってよお!?





「はい、こちらがクモリーです。俺のスキルで、ぬいぐるみの姿に擬態しています。それと、大きさも縮小サイズです」


【スキル発動 擬態能力付与 対象を自由に変化出来る。また、大きさも自由に調整可能】


「これが、あの蜘蛛モンスター? ソージのスキルはイッチャッテルな。あはっ!」

「へえ。こんな事まで。ソー坊、無理して能力を使って大丈夫なのかい?」


 外見がファンシーな蜘蛛の姿にチェンジしました。


 デフォルトキャラクター? ゆるキャラ?


 メジスト姉さんに心配されてる!?


 それだけで、精神力が回復しちゃうかも!?


「か、かわいいですっ! クモリー、カナだよ? よろしくです!」

「随分と変化しましたね、ソージ君。完全に、ぬいぐるみですよ。あ、愛らしい姿だね」


 親しみやすい姿が功をそうした様だ。


 仲良くクモリーと接してあげてね。


「その前に、お前達の方も可愛い! 愛らしい!」

「ひゃう!? ご主人さま、あ、ありがとうです!」

「ソ、ソージ君!? 短パンにまとわりつかないでぇ!?」


 ふう。クモリーにスキルを使用した反動かな?


 カナさんとサーヤの体に吸い寄せられてしまったぜ。


「姿を変えても、本質は変わらないのでなくて? わたくしは、易々やすやすと騙されませんからね! 警戒ちゃんですわー!」


 日頃から隙だらけのクリスティーナがよく言うよ。


 そのおかげで、ふとももを触り放題ですけどね。


「で、クモリーのお世話係は。リナさん? お願い出来ますか?」

「わたくしですか? あいにく、蜘蛛の取り扱い方は心得ておりませんし。大丈夫でしょうか?」


 と言いつつも。


 クモリーをひざの上に置き、優しい手つきで撫でていますよ!?


 馴染なじんでいるじゃん!? 適材適所すぎる!?


「それでは、本日の報告会は終了です。後は、各自自由時間です。何気に疲れたから、自室でゴロゴロして寝ようかな?」


 いや、なんか一気に疲労が来たか? さっさと就寝しようかな?


「サーヤ様? ちょっと、気になる事が」

「なんですか? リナさん?」


 ほほう、ガールズトークと言うやつか。


 話の内容が気になるが、退散しましょう。プライバシー保護大事!


「その指輪は、何でしょうか? ふふふふ。旦那様からのプレゼントですか? お似合いですよ? プレゼントですか? 旦那様からの? 指輪を? どんな意味合いの? 親しい仲の? 友人関係の延長? ともあれ、旦那様からのプレゼントですよね?」


 ぎいやああ!? 旦那様からのプレゼントを何回も強調しないで!?


 今日の戦利品のお話をするのを。


 忘れていただけだから!?

 



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