第39話 魔剣ヴァージンブラッドソードをフルボッコで精神力を消費する

「……ご主人様だけど。何か?」

「よく調教されているものだと感心してね。人前で心からの笑顔を振りまくように命令しているのだろう? 感服したよ! くくくく!」


 男は全身を黒のローブで覆っている。


 存在自体が。闇の住人だと言わんばかりに。


 勘違いの笑みがより一層。


 不気味さの度合いを強めている。


『……お主、用心じゃ! この雰囲気はロクな手合いではあるまい!』

「……お前さあ。ヴァージンブラッドソードの使い手だろ?」

「くくくく!?……貴様、どこで!? ぐあああ!?」


 空虚な笑いが。全力の顔面グーパンチによって中断した。


 男は後方にゴロゴロと数メートル吹っ飛んだ。


【スキル発動 鉄拳制裁 非道な行為をした者ほど大ダメージ。殴る事で効果発動】


 俺の大切なメイドさん達に。


 危害を加えそうなやからには。


 容赦はしない!


【スキル発動 強制退避 周囲の人間を拠点へ強制的に退避させる】


「だ、旦那様!?」

「ご、ご主人さ――」

「な、なんだあ? き、消える!?」


 リナさん、カナさん。


 危険な目に合わせる訳にはいかないんだ。


 屋敷で。帰りを待ってて。


【スキル発動 強制出撃 拠点から任意の人物を強制召喚する。ただし、拠点に不在の場合は、その限りではない】


「……こ、これが、ダークユニコーンサブレーかい!?……うまいじゃないか!?……ソ、ソー坊!?」


 姿を現したのは。


 チョコレートでコーティングされたサブレーの感想を述べている。


 メジスト姉さんだ。


「……あ! 俺のお菓子袋を開けちゃいましたか?……ギャップ萌えー! メジスト姉さん!」

「カナめ! あんなスケスケランジェリーを購入していたとは!? およよ!? ソージじゃん!? 能力で呼んだのか? その後ろに……あはっ! あははは! なるほど! ぶちのめしてやるよ!」


 もう一人は。


 カナさんの下着を物色していた。


 セクシーお姉さんのアイさんだ。


 な、なにいい!? カナさん、いつの間にそんな物を!? き、気になる!?


「……パン娘が言ってた通り魔って。アイツかい?」

「……みたいですね。アイさんの野生の勘も反応してるみたいですし」


 メジスト姉さんが。ワイルドにサブレーに喰らいつく。


 咀嚼音そしゃくおんを出しながら。敵を観察している。


「どうしたのー? 無抵抗の女じゃないと切れないのかあ? その剣も、ただ硬いだけじゃねえ。えるー!」

「ちいいい!? 野蛮なオンナが! 血をよこせえ!」


 アイさんが大剣を構えながら。


 縦横無尽じゅうおうむじんに素早く男に接近。


 大剣の強烈な一撃も披露ひろう


 地面が重い衝撃によって揺れ動く。


 魔剣使いも防戦一方だ。 


「……さて。甘い物を食べたから。運動するかねえ!」


 バトルアックスを構える姉御あねご


 いや、召喚したのは俺だけど。


 完全に。パワーバランス崩壊させちゃったかな? 


 だが。


 コイツには同情する余地を微塵みじんも感じない。


「そう言えば、スライム君? どこにいるのかな? ぬお!? すでに、参戦してたの!?」

「ス、スライムごときの魔法で!? 足止めされているだと!? 聖剣の加護があるのに!?」


 炎、氷、雷、毒による波状攻撃。


 しかも、威力が上位魔法に匹敵している。


 カナさん、リナさんに危害を与えそうな奴に。怒り心頭だ。


 こ、子供達と遊んでいた姿が想像できない。


 さっきまで、ゴールキーパーしてたからね!?


「あはっ! スライム、やるじゃん!……そおら! ゲス野郎! ぶっ飛べええ!」

「ぐぼおおはあ!?」


 全身全霊の大剣が通り魔を薙ぎ払う。


 立ち上がろうと聖剣を杖代わりにしている所に。


 上空からメジスト姉さんが追撃する。


 バトルアックスが。


 魔力集中による。紫色のオーラを放つ。


「はあああ! 砕け散りなあああ!」

「と、としまのおんながあああ!? なあ!? 聖剣が!? お、折れ!? ぎゃああああ!?」


 バドルアックスによる無慈悲な一撃に。


 聖剣が折れた!? ひえええ!? 


 ク、クレーターみたいなのが地面にできちゃいましたけど!?


「はん! 失礼なガキだったね!……おや? 老人だったのかい?」

「……聖剣で若返っていたのか? 本来の姿は、おじいちゃんだったの?……元聖職者? 教会関係者かも?……欲望に憑りつかれし、哀れな老人よ、アーメン」


 死んでないけどな!……虫の息です。


 また、騎士団が勝手に来るだろうな。


 騒ぎの渦中の人物です。


「準備運動ぐらいには、なったかな? おい、ソージ! お前、相手、ふらふら状態だったぞ? 本当の力を出せなかったみたいだし……覚えあるか?」

「はい?……ああ、先制攻撃でぶん殴ったからかな?」


 無我夢中で攻撃してしまったからな。薄気味悪い奴だったし。


「やっぱり! あはっ! あははは!……ひと勝負しようよお! 物足りないのお。満足させてよ?」

「……アイさん、俺は、戦闘向きじゃないの! 能力を使えば、すぐ疲労しちゃうし!?……言ったそばから、ふらついてきた!?」

『……エロい事しろよ! 精神力回復すべし! ぎゃおーす! 観覧車破壊じゃ!』


 エトセトラ怪獣が街を破壊するイメージ映像を流す。


 休憩しないと不味まずいな。


「ソー坊? お、お菓子、食べちゃったからねえ。た、対価として、座椅子ざいす代わりにしても構わないよ? 前にもしてやっただろ?」

「メジスト姉さんのダイナマイトボデェーを味わえるの!? あの、背後の感触を!? やったー! ごろにゃん、ごろにゃん!」

「……ソージ? 今、動けないのか? 正面から、せまっちゃうぞー! お姉さんが!」





「おい! ソージ! 舌の根も乾かねーうちに再会するとは、良い度胸だな! あん?」

「……アカギのおっさん。あははは……おっしゃる通りです」

「うおおお!『お掃除旅団』が、通り魔を打ち倒したぞ! ぬおおお!」


 トニー、君は見張り役じゃなかったの!? 任務外で大丈夫!?


  かちどき、ヤメテ!


「しかし、お前、何してんだ!? 女をはべらかしやがって! 当てつけかよ!」

「ああん? ソー坊は慣れない事ばかりして疲労してんだよ! 邪魔するのかい!」

「ソージ? 気持ちいい? あはっ!……おっさん、失せな! 回復に集中できないだろ!」


 メジスト姉さんとアイさんのダブルむぎゅーです!


 悪役の豪族イメージ、再び。


 人前でやるつもりないんですけど……体がぐったりしちゃって。


「だ、団長さん? ヴァージンブラッドソードを回収したいのですが……お、折れてます!? せ、聖剣、折れてます!?」

「プレイヤさん?……問題でも?」


 教会の威厳とか品位とか信仰とか。複雑な思惑かな?


「せ、聖剣ですから。そ、それなりですけど。あとで、復元、頼めますか? ぶ、ぶしつけで、申し訳ありません」

「はあ? あのなまくらが聖剣? 折れるのが悪いのさ! ソー坊になんでも注文つけんじゃないよ!」

「ま、まあまあ!……後日、やっておきます、はい」


 頼まれごとは断りづらいしなあ。精神力が万全になってからだな。


「と、通しなさい! ふぬう! 感電いたしますわよ!」


 な、なにか聞き覚えのある声と。電撃が!? も、もしや!?


「おーい、クリスティーナ! あれ? お疲れちゃんですわーをしてくれないの!?」


 どうやら、俺の問いかけが届いていないのか? 


 おかしいぞ? 彼女らしくない行動――


「こ、こいつが通り魔ですの!? よくも、よくも、ロザリーを傷物に!【電撃よ! わたくしの剣にまとえ! サンダーソード!】あの世で、悔いなさい!」


 ま、まさか、被害者のあだ討ち!? 


 知人でしたのお!? まてまて、殺すな!


 【スキル発動 瞬間移動 目標を指定した場所まで、一瞬で移動できる】


 【スキル発動 電撃無効 自身に流れる電撃全て無効化】


 【スキル発動 白刃取り 両手で刃物類を掴める】


「な、なんですの!?……ソ、ソージ!? ど、どうして!?」

「ストップ! ロザリーちゃんは、俺が、治療……したよ?……こんな奴、殺したって、しょうがねえだろ?……お疲れちゃんです……わ」


 あれ? クリスティーナのふとももが目の前に。


 あ、倒れたのか、俺。


「しっかりなさい、ソージ!?……いつもいつも! あなたは! 自己犠牲野郎ですわね!……頼まれてもいないのに。……お節介で、お説教ですわー!……すんすん」

「はあ、はあ、クリスティーナさん!? とソージ君!?……ま、間に合いましたか!? もう、クリスティーナさん! 頭を冷やしてくださいよ!」


 サーヤがクリスティーナの暴走を止めようとしていたのね。


 ま、まにあってないよー!


「旦那さま、ご無事でしたか!……良かった」

「ご、ご主人ざまあ! ぬらちゃんぼお!」


 リナさん、カナさん、戻ってきちゃったの? 


 カナたん、ご主人、ざまあ! に聞こえるから!?


 精神力の使い過ぎか。


 マイナス思考に拍車が。


 ぬらちゃんぼお? スライム君か。


 確認すると。


 力を使った影響で一回り。小さくなっております。


 魔石の準備しておかないと。


「おい、ソージ。さっかーまた教えてくれるんだろうな!? は、はやく元気になれよ!?」

「メイドさんを心配させんなよ、おっさん。……うらやましいぞ!」

「うわ、ねじねじしてるエロい女もいるぞ!……くたばれ、ソージ!」

「なんでこんな奴に、美女ばかり集まってるんだ?……魅力が分かんねーよ!」

「な、なんなの!? 子供達には精神的にボコられてさ!?……おうちに帰るもん。外出こわいい!? ぴええん!」






 

 

 

 


 

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