第35話 メイドさん達とお菓子屋さんで精神力を消費する2

「えーと。いている席は――」


 メイド姉妹とお供のスライム君は。洋菓子選びに夢中。


 邪魔をしたくないので。


 皆が着席して飲食できるスペースの確保。


 場所取りを買って出たのだ。 


『本来メイドの仕事じゃぞ?……わらわ、ホットケーキ食べたい! ハチミツいっぱいかけてえええ! クリームも! あはーん!』


 ねっとりボイスで誘わないの!


 無性に食べたくなったじゃないか!


『いやん、お主ったら。……わらわ、スイーツじゃないのよ?』

「ちげーよ!? ホットケーキだよ!?……バーチャル姿がヒドイな!? 裸体に生クリームとスイーツのせてんじゃねえ!? 18禁パソコンゲームなの!?」


 純粋な心でスイーツを食したいの!


 煩悩退散! エトセに惑わされるな!


「ねえ? ハーフエルフの子が『ふおおお!』ってしていたの見た?」

「あの『ふおおお!』してた子だろ?」


 カップルのお客か。


 陰口はユルサナイゾ? 


 ナカヨク、アノヨニ、オクッチャウゾ?


「あんなに幸せそうなハーフエルフ。初めて見たかも? お菓子をあれこれ選ぶ仕草が可愛くて。こっちまで幸せな気分になっちゃったね」

「それな!……いや、辛い待遇から逃亡中で。ご主人様のお金を盗んでここに!? 連れ戻される前に。せめて、大好きな菓子を食べようと!?……ふ、不条理な世界め!」


 想像力が豊かなボーイフレンドだな。あらぬ誤解を生まないで欲しい。


 一日、数え切れない回数をむぎゅー! していますから。


 メイドさんにとって。好待遇だと自負しています!


「な、なあ? 美人なハーフエルフのメイドさん、い、いたな!?」

「め、目元にホクロと、胸ボインさんだろ!? ぼーっと眺めていたら……目の前がブラックコーヒーみたいに、真っ黒に!?」


 こちらは男性客二名か。


 リナさんの餌食えじきになりたいの!? 命知らずだな!?


 まてまて! 話題の中心人物になりつつあるぞ? 情報が拡散してる!?


烏合うごうしゅうじゃな。稀有けうな種族でメイドをしておることも無関係ではあるまい』

「ご主人様は容認しているのかしら?……店内でヒドイ扱いが始まるのではなくて?」

「うむ。あえて自由にお菓子を選ばせてからの『お前たちの分は無いから!……おっと、床に落としてしまったなあ? 足で踏みつけてしまったぞ?……食べろ!』かもしれん。き、鬼畜な奴め! 今もどこかで様子を見張ってるのか?……騎士団に知らせる準備を」


 貴族の老夫婦も!? お、おいい!? 俺の立場が!? 


 お客さんにボコボコにされちゃう!? 穏便にすごさせてえー!?


「あっ? ご主人さまー! 一人にさせちゃいましたね。ご、ごめんなさいです」

「あ、う、うん。ぜ、全然、気にしてないからね?」


 噂話をしていた客が一斉いっせいに。こちらの様子を見守ってる。


 しかも一瞬、会話も途絶えた。


 聞き耳まで立ていやがるな!?


「『ふおおお!』のメイドさんだよ? こっちに来たよ。ちょ、ちょこんとしてるー! あ、愛らしいー!」

「あ、あいつがご主人様?……屋敷に連れ戻しに!? 穏やかそうだが……内心はブチ切れてるのか!?」


 風評被害だ! キレてないからね!?


 オマエノ、ガンメンニ、ケーキヲ、ブチコムゾ!


「ぬ、ぬかりました、旦那様を見失うとは!?」

「うひょ!? 美人メイドたん!?」

「お、落ちつけよ!? ブラックコーヒーの飲み過ぎは危険だぞ!?」


 あのリナさんが。俺の姿を確認出来ないはずは。


 ま、まさか!?


「旦那様? どちらにいますの?……お役御免ですか? 愛想が尽きました?」

「絶対居場所知ってるよね!? 人聞きの悪い事ヤメテ!?」






「えへへへ。異なる種類のお菓子を持ってきました! お姉さまと交換、共有しちゃいます!」

「わ、わたくしは旦那様とのお菓子を用意していたのに!?……しょうがない妹ですね。滅多にない経験ですからね」


 しぶしぶ納得するリナさん。


 仕方ないと言いつつも。テンションが高めである。


「いよいよ、審判の時か。数多あまたのスイーツを床にぶちまけるぞ!」

「ああ、わたくし。ハラハラして、見てられません!」


 しないからね!? 極悪主人役なんて!


 あんたら、何しに来たのよ!? 


 オペラでも見に来たの!? クライマックスシーン!?


「ご主人さまは、食べたいお菓子、ないですか? しゅーくりーむう、むうですよ!」

「旦那様? チョコビスケットが!」

「一口ずつ貰える? 自分は、カナさんとリナさんが喜んで食べてる姿をね。見守ってます!」


 おあずけ状態は。虐待と受け取りかねないからな! 通報ヤメテ!?


「では、ご主人さまに感謝です。いただきます!」

「旦那様に心から感謝を。いただきます」

「……杞憂きゆうであったか」

「ひとまず安堵ですわね。……一般のメイドを雇った方が、利するでしょうに。寛大なお方。さあ、お菓子を食べましょう?」


 ふう。乗り切ったか。


 面接でも受けてるの? 検定試験かな?


「クリームが内部に詰まってるから。気をつけて食べてね?」

「はむはむ。濃厚のうこうな液体が!? か、甘味かんみの川です! 口の中!」


 カナたんの食べ方、きゃわわ! 


 ラブリーです。小動物なのお!?


「ふぁあ!? しゅーくりーむうが!? 地面に落ちちゃいました!?」

「素早く回収、ふうふうーして、パクリ! おお、甘ーい!」

「ば、ばかな!? 使用人が手をつけた物を食べただと!? あ、あり得んぞ!? しかも、落下させたお菓子を食すとは!?」

「ええ。もはや、愛を超越しています! 私達も、使用人との距離を見直しましょう!」


 いや、3秒ルールなるものがあってですね。


 もったいない精神が根付いてまして。


「うきゅう!? ご主人さま、食べかけ、落とし物だよ!?……嬉しいような? 嬉しいのかな? 胸の奥が、おかしいです?……スラちゃんを抱きしめたくなっちゃた、来てください」


 スライム君をクッションの様に抱きかかえる。


 精神安定するのだろうか?


「うん。大した問題じゃないよ。誰もカナさんのお菓子は奪わないから、両手でしっかり掴みましょうね。なでなで」


「『ふおおお!』のご主人様、優しい人だね。……私、小説の題材にしてみようかな?『お菓子好きなハーフエルフ。でも、もっと大好きなのは……』恋愛もの書けそう!」

「見立てが間違っていたのか!?……新聞のネタに困っていたんだよな。俺も、書かせてもらうぜ! 美談として!」


 新聞記者だったの!?


 原稿料、いただけますでしょうか? プライバシーにも配慮してよね!


「だ、旦那様、わたくしの食べかけも!」

「はいはい。お姉さんのお菓子も、もぐもぐ!……ビターな味わい。ちょっと、大人向けだね」

「あ、あいつ、美人メイドたんのビスケットを!?……クソ、爆発しろよ!」

「あんな表情を見せるなんて、なに、この敗北感……」


 まあ、分からなくもない。


 ほっぺをなでなでしちゃうか。リナさんにも。


「ひゃん、だ、旦那様、いきなりですわ!?……ですが、お好きになさってくださいませ。ふふふふ、ごちそうです!」

「ご、ご主人さま、わたしにも! お姉さま魔性ですよ!」


 周囲の反応も気になるが。


 これが俺達の日常です。差別には負けません!


 

 




 

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