第22話 メイドさん達と一緒にお風呂で精神力を消費する

「えへへへ! お風呂、お風呂ですー!」

「カナ、走り回っては。転びますよ!」


 無邪気に浴場をランニングする。


 あ、危ないかもしれないな。この調子は。


「大丈夫だもん! ほら、きゃあ!?」


 足を止めたと思ったら、バランスを!? 


 地面に転げ落ちてしまう!?


 【スキル発動 空中浮遊 指定した人物の体を浮かせる】


「カナちゃん!……空中に浮いてます!?……ふう、あせらせないで、もう!」

「注意したそばから、貴女は! はしゃぎすぎですよ、反省!」

「……ご、ご主人さま、申し訳ありません。……き、嫌いに、ならないで?」

「カナさんの身が無事で安心した。……失敗したからって、臆病おくびょうになる必要はないんだよ? ご主人様も失敗ばかりしてきたからさ。……気持ちは痛いぐらい分かってるよ? 頼りないご主人様だから、カナさんと共に、これから学ぼうか。嫌いになんか、ならないよ? それより、髪の毛洗っちゃうぞおー!」


 失敗しても、落ち込まない。


 失敗して、学習して。


 なるべく、同様な失敗を繰り返さない。


 カナさんじゃなくて、俺自身にも言っているのかな?


「はい、カナさんをお姫様抱っこ。……確保したぞ、お転婆てんばメイドさんめ!……お仕置きに、お耳にキスだ!」

「……お、おてんばですか!?……きゃうう!? ご主人さまのくちびるが、ひゃあん、はん、だめですー!?」


 懲罰ちょうばつなんてしたくないの。


 ほんとだよ? でゅへへ!


「ソージ君、精神力を消費してカナちゃんを救助しましたが。平気ですか? 気分が悪いようでしたら、すぐに知らせてくださいね?……友達を助けてくれて、ありがとうです。ふふっ」


 サーヤが心配と感謝を伝えつつ。笑顔で言った。


「旦那様? とあるメイドが湯舟に勢いよく飛び込んだ場合の処遇は? どういたしましょうか? 胸にキスですか? 詳しく説明を!」

「とあるメイドの例だよね!? ちょ、湯舟に行かないで下さい! 体を洗ってからですよ!……し、しませんからね!」


 妹に対する対抗心が、強烈すぎる。


 旦那様のお仕置きを心待ちにしているのだろうか?


「おや? スライム君、何を分泌ぶんぴつしてる? ふむふむ。滑り止め? カナさんが二度と危ない目に合わせないために? あんた人格者かよお! 感動して、涙を流しちゃう!」

「……ス、スラちゃん、ありがとうです。ぽよん、ぽよんさせてください!……これからも、仲良くしてぐだざい!」


 スライム君を抱きかかえ、泣くカナさん。


 種族を超えた友情を育んでいる。


「スライムさん……ふふふふ! あやまってつまずく事は……もうないんですね」


 黒き気配をかもし出し。


 念入りにスライム君に確認をする。


 何やら、策を練っていたらしいリナさん。


 思わぬ妨害に合い、遠回しに威圧しはじめた。


 それを察知し。


 ぴょんぴょんとスライム君はリナさんと距離を取った。


「旦那様のお体を洗わせていただきますよ? カナ、お役目ですよ?」

「そうでした、メイドのお仕事です!」


 妙に落ち着かないなあ。


 他人に背中を洗われるのは初めてだよな。


 昼間のアレクシスさんの浴場では、自分で流したから。


 ……精神統一だ!


「最初に、軽くお湯でお背中にかけます。ゆっくりですよ、カナ?」

「ご主人さま、かけちゃいます。……どうでしょうか?」

「うん、温かくて良い気持ち。問題無しです」


 背中にお湯がゆっくり流される。


 ちょろちょろと慎重にお湯を流すあたりが。


 カナさんらしさを表していた。


「そして、液体香料をよく泡立てから。優しく、旦那にこすりつけます。どうでしょうか? ふふふふ!……はあん、殿方の背中、ごつごつしてますわ」

「痛くないよ、うん。むしろ、柔らかくて人肌みたいだね。……リナさん、胸でこすりつけていませんよね!? カナたん!? 交代、タオルでやって!」


 スライム君さ!? 


 スポンジの代用になってくれたのさ! 


 女体じゃないもん!?


「お姉さま、ご主人さまの命令発動です!……タオルでゴシゴシ、えへへへ! 爽快です! かゆい所はありますか?」

「かゆい所? ありません」


 床屋でのシャンプーをする店員の決まり文句。


 実際には、メイドさんが洗っているのだが。


 それも、成人男性の背中を。


 再び、羞恥心しゅうちしんいて来た。


「しっかり、洗い終えたら。少し多めのお湯で流しますよ?……旦那様、わたくしが、やりますね。……はい、お背中終了いたしましたわ」


 お湯をリナさんに流され、フィニッシュ!


 完全体だぜ! いえーい!


「カナさん、リナさんご苦労様でした。残りの部位は自分でやりますよ。……させねーからな? 特にリナさん!」

「そんな? 旦那様が、わたくしに厳しい態度を!?……たまりませんわね。ふふふふ!」


 ダークリナさんを好き勝手にさせる訳にはいかないからな。


 ……やはり、狙っていたのかあ!?


「ご主人さま? わ、わ、わたしのお背中、やってくれますか?……大変、失礼なことですが……あ、あ、洗って欲しいもん!? メイドも辞めてもいいから!?」

「メイドの職を駆け引きに持ち出さないでよおー!? 失礼な内に入らねえから! 裸に権威も身分も関係ありません!」


 メイドの職を辞する覚悟とか。


 いらないからね? 辞職しないで!?


「自称背中流し名人ソージだ! よろしく、カナお嬢ちゃん!」

「め、名人さんですか!?……よ、よろしくちゃんです!?」


 おやおや、緊張なさって。


 背中が石のように硬えじゃねえかあー!


「スライム君? カナさんのクッションになってくれるかな?……そうそう、カナさんはスライム君を抱えて、遊んでてね」

「スラちゃん、えへへへ! わあ、お湯を発射できるの? それ! スラちゃんにも、お湯をやっちゃうよ!」


 ばしゃばしゃと互いにお湯をかける。


 援護ありがとう、スライム君!


「よし、俺も参戦するぞ! どっこいしょー!」

「ひゃうーん! 温かいね、スラちゃん!」


 ふふふふ。緊張が解けた様子。


 これなら問題無し。


「カナさんのお背中に、攻撃だあー。どうでしょうか? 痛くないですか?」

「う、うん。痛くないです。反対に、くすぐったい。ふぁ、ん……」


 うむ。嫌悪感を与えていないな。


 まごころよ、伝わってください!


「カナさんの素敵なお体、流しまーす!」

「ひゃあん! き、気持ちよかったですよ……大好きです、ご主人さま」


 いえいえ。好意を寄せていただき。


 ありがとう、カナさん。


「……旦那様、当然、わたくしの背中もやっていただけますよね?」

「……へそをげないでくださいよ。させていただきます。リナ様」


 使用人のソージ。立場が逆転してるが。


 この際、いいか。こだわることもないし。


「リナさん、これまで、ねこをかぶっていたんですか?」

「……幻滅されましたか……素のわたくしが出現したと言った方がよろしいかと……旦那様の影響で」


 社会で生き残るための処世術しょせいじゅつか。


 安易に自分をさらけ出さない様に。


「……幻滅ね。大した事ではないな! 相手をがっかりさせるのは、俺の得意分野だぜ?……ハーフエルフとして生きて行くのは、大変だったでしょう?」

「……かないませんね、旦那様には。……初めて出会った日を覚えていますか?……あの時、わたくしは、旦那様が貴重な魔石を持ち歩いてる事に気が付いていましたのよ?……この人なら、奪い取っても……または、利用してしまえば。悪だくみをしていたのです」


 金銭的苦境にたたされてた時。


 目の前に、金品が無造作に置いてあったら。


 誰だって入手してしまうだろう。


 緊急避難的行動をとがめられない。


「カナを救っていただいた後にも……あわよくば、旦那様のメイドとして活躍して。信頼を築き、意のままにしてしまおうとも」

「やりがいもなかっただろうに。簡単にリナさんの魅力に落ちちゃいましたよ!……それで、今も作戦実行中なの?」


 知り合いに大企業の社長、有名芸能人とかいたら。


 俺だって、取り入れようとするかもしれないな。


「……いいえ。どうしようもない旦那様で参りました。メイドなのに命令はほとんどしない。カナにもお優しく接しる。わたくしでさえ、平等に、対等に。今日、半日だけしか旦那様が居ないだけで……寂しいと感じるようにもなってしまいました。……ミイラ取りがミイラになるとは、滑稽こっけいですわね? ですから、もう、そのような考え持つのは、馬鹿らしいと思った次第です」

「じゃあ、俺のメイドを引き続きやってくれるの?」


 リナさんだったら。


 明日起きたら。


 失踪してたなんて事が……ありそうだ。


「……図々ずうずうしいお願いですが。もし、旦那様のお許しがいただけるのならば……正真正銘しょうしんしょうめい、ソージ様のメイドとして働かせてくださいませ」

「そう。これからも、よろしく、リナさん!」

「……はい!? そ、それだけですか!? 腹黒メイドですのよ、わたくし!?」


 うん? もっと、まともな挨拶をしろと?


 旦那様らしくないのかな?


「それが?」

「……旦那様は残酷な人ですね。おとがめすらしないのですか?」


 本人が反省してるんだったら。


 言う必要なし。以上。


「さあ、どうだろう。……今は、リナさんのお背中を流すことで頭がいっぱいなの! それそれ!」

「あああん!? こ、これが、お仕置きなのですね!? あ、あまんじて、うけいれます、ふぁん、あん!?」


 いやいや!? 背中を綺麗にしてるだけですから! 


 お仕置き、違います!


「黒さも全部洗い流してくれようぞ! ソイヤー!」

「はん!? は、激しいですわ!? ふふふふ!……とても気持ち良かったですわ、旦那様」


 満足してくれたか。


……あれ?黒いオーラは健在中なのかな!? おかしいな!?





「こ、これが湯舟! 水浴びとは全然ちがいますね、サーヤちゃん!」

「一般家庭にあるところは非常にまれですからね。……実家にはありますけど」

「サーヤ様の家に? 差しつかえなければ、どういった?」


 湯舟で女性陣が和気あいあいと。


 ガールズトークし始めた。


 男の俺は、場違いな感じが。


 ……俺は、なるべく目線を向けないようにしてますよ!


 のぼせちゃうもん!


「た、大した広さではありませんよ? 小さな村の、村長の家だからで」

「え!? サーヤ、村長の娘なの!?」


 似合ってると言ったら、どう反応するだろうか?


 聞きたいような。


「ぶえ!? サーヤちゃん、似合いすぎだよー! 村長の娘のチャンピョンです!」

「は、はあ、よく言われます。……ソージ君、笑いをこらえてますか! いじわるですよ!」

「く、くしゃみを抑えているだけ!? ひ、冷えたかな!? ぷぷぷぷ!」

「それは、いけません旦那様、ふふふふ! わたくしの体で温めて差し上げます!」

「く、くっつかないの!? おいコラ!? 目線を下にやらないの! マナー!」


 もう、リナさん、隙あらばスキンシップを求めてくるなんて!


 ……透明なお湯なの! 丸見えですからね、お互いに!


「カナちゃんの両親については……ごめんなさい、余計な事でしたね」

「ううん、大丈夫だよ?……両親は分からないの。姉さまと一緒に、村はずれの教会に放置されてたって。孤児院? っていうのかな? そこで、育ったから」

「そうですわね。小さい時ですから、記憶が曖昧あいまいで。正直、両親の顔を覚えていませんわ。気付いた頃には、教会兼孤児院で生活していましたから」


 地雷を踏んでしまったかなー!? 家族の話は避けた方が良さそうだ。


 【スキル発動 入浴剤 お湯をにごり湯に。柚子の成分、香りを追加。保温効果抜群】


「はわわわ!? お湯がにごってきました!?……果実の香りです!」

「柑橘類でしょうか? ソージ君の能力ですか? ふう、極楽です」

「濁ってしまいましたわ!?……香りはとてもよろしいのに……ちょっと」


 定番ですけどね、柚子風呂。


 ふふふふ。……リナさんのもくろみも防止できた。


「ご主人さま、えへへへ! これからも、一緒に入浴してくださいね!」

「ソージ君、この湯は、最高です!……クセになりそう。……ソージ君がいないと実現できませんね。……な、悩ましい!」

「わたくしは、旦那様さえいらっしゃれば、至高の湯となりますからね。ふふふふ!」


 それぞれ、お風呂を堪能してくれたようだな。


 ふうう、いい湯です!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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