第15話 メイドさんと夜のおやつを食べて精神力を消費する

「ご主人さま、お部屋に入ってもいーですか?」


 エトセトラとの格闘試合を繰り広げて。


 へばっていた所に、カナさんが問いかけてきた。


 ふうふう、息がきれてるぜ。


 運動不足も解消しないとな。水分補給したい。


「キャナさん? もちろんだよ! プリーズカムイン!」


 なぜか、英語で答える。


 クソォー! エトセトラの影響か?


 海外ドラマの話題に引っ張られたか。


「ちょっと、カナ!? だ、旦那様は大変お疲れになられているのよ? 気分を害してしまいます!」


 リナさんの忠告が聞こえる。


 そんなに、気を使わなくても。


 すでに、エトセトラとのやり取りで消耗されている。


「お姉さまも扉の前で、行ったり来たりしてます! 昼間だって、ご主人さまのベッドで」

「し、してません!? 廊下のゴミを拾っていたりしただけです!? ベッドメイキングしていただけ!?」


 俺のベッドで!? り、リナさん、が!?


 きゅ、休憩して、腰を掛けていただけだろ!? 


 カナさんも、大げさだな!?


 ……やべぇ、眠気が吹っ飛んじゃった!


「ご主人さま、お邪魔します。夜のおやつを一緒に食べてくれますか? いただいたビスケットとぶどうジュース、飲食……したいです!」

「ちょうど、甘いものが欲しかったんだよね。良いタイミングだよ。ほら、おいで、カナさん」


 手招きしちゃう。


 とことこ歩いてくるよおー! 


 きゃわわ!


「だ、旦那様? よろしいのですか? 大声で『アナザー? ソージィィー逃げてぇー』と発言されていましたが。精神的に不調では?」

「壁にリナさん!? 障子にリナさん!?……それはそれで、ぐへへへ」


 壁に耳あり障子に目ありが正しい表現だが。


 ……取り乱してたからな。うかつであった。


「お姉さま、用がないなら自分の部屋に。ぷーん!」


 頬を膨らまないでえ!? 


 怒ってる表現があ!? 


 可愛らしいくて、死んじゃうよおー!?


「こらこら、カナさん。リナさんを邪険にしちゃだめだぞ。俺の為に、気配りしてくれてるだけさ。リナさんもどうぞ入って?」

「申し訳ございません、旦那様」


 謝罪ばかりさせちゃってるな、リナさんには。


「リナさん、謝罪禁止令だ! 命令だぞ! ほらほら、頭を上げて? ぐへへへ! ハーフエルフのメイドさんをお持ち帰りだあー! ベッドに連行!」


 米俵こめだわらかつぐように。


 リナさんを拉致らち……もとい、強制的にベッドに座らせる。


 やましいことは一切なし。


 御心みこころのままに。


「ひゃう!? だ、旦那様!? わたくし重いですよ!? え、えっ!? ベッドに!? しわになってしまいますよ!? あら!? すでになっているのですか!?」


 いや、意外に軽いですよリナさん。


 ……せっかくベッドメイクしてくれたのに。


 エトセトラとの試合会場になってしまったから。


 仕事を増やしてる旦那様を、叱ってくださいな。






「それでは、乾杯」

「乾杯です、ご主人さま!」

「旦那様、か、乾杯」


 くうー、美味うまいぜ。


 労働した一日のジュースは格別だな!


 若干、リナさんが硬いが。


 その内に順応してくれたらいいな。


「ビスケット♪ ビスケット♪ もぐもぐ。えへへへ! 幸せです。スラちゃんにも、はい、どうぞ。……おいしい? だよねー!」


 絶好調、カナさん。


 微笑ほほえましい光景です。


 僕にとって、その事がおやつであります。


 あれ? ビスケットを食べているのかな? 


 カナさんの様子を食べているのかな?


「カナ、なるべく、こぼさないように! あ、スライムさんが掃除ついでに食べてくれるのですか? ありがとうございます」

「リナさんも、好きなだけ食べてね? ダイエットしてなければだけど」


 女性は体型を気にしすぎる人、多いですから。


 リナさんとカナさんは、心配する必要は無いと思うけど。


 個人の主観もあるから。難しい問題だ。


「では、数枚いただきます、旦那様。……お、おいしい!? あ、あら!? 手が勝手に!? と、止まりませんわ!?」

「お、お姉さま!? 食べるスピードが速すぎです! ゆっくり、食べてよー!」


 断固抗議する、カナさん。


 自分が食べられる枚数を危惧きぐしての事だろう。


 落ち着いて。


 在庫がなくなり次第、街へ補充しに行くから。


「カナさん、慌てないの。ビスケットのかけらが、口回りに付着ふちゃくしてる。手で取り除いてあげるから、じっとしてて。……ほい、もぐもぐ、これがカナさんビスケットの味いい! カナさんの成分で出来ておりますうう! エトセトラショッピングで取り扱いしてるのおお!? 問い合わせしなきゃ!」

「ふゅあい!? ごじゅじんさま!? じっとしてましゅ。……汚いですよ!? わたしの食べかけを、食べちゃった!?……わたし、ご主人さまに……食べられちゃたの? はわわわ!?」


 カナさんの耳が、ぷるぷる震えている。


 あら? 真っ赤になり始めちゃった。


 不作法ぶさほうな主人を嫌いにならないで。


『皆さん、クリスマスも近くなってきましたが。いかがお過ごしでしょうか? クリスマスと言えば、そう、大事な人にプレゼント! え!? そんな奴いねーよ! リア充共に呪いのアイテムを発注したい? なるほど。お客様の声は大事です。今後の参考にします。

 さて、今回の商品は『ハーフエルフ、カナたんのビスケット』です! 嘘かまことか、この商品には、カナたんの成分が含まれているかも!? 視聴者の皆さん自身で確かめてください! さらに、お買い上げの方には、カナたんのお風呂ポスターをつけちゃいます! もちろん、書下ろしイラストです! 自分にプレゼントも良いじゃないですか! 他人のプレゼントでも構いません! でも、値段が……高いんでしょ? そう思われてます?

 安心してください。値段は、な、なんと、貴方の精神力。精神力ですよ皆さん! ちょっと、メンタルがやられちちゃうぐらい! 大変お得です! 現在、お問い合わせを多数いただいております。もしかしたら、完売になってしまったら、ごめんなさい。 ああん、言ってるそばから、予約で完売に!?

 申し訳ありません。お取り寄せは未定ですう。またのご利用お待ちしております。エトセトラァーショッピングゥー! 貴方の欲望、わらわが叶えます!』


 商品の在庫は多めに用意しとけよー! 


 人気オタクグッズは売れるだろうが!


「おっと、心を乱さない。無の境地。すうーはー。ぶどうジュースを」

「旦那様!? わたくしの、グラスですわ!?」


 え!? そうなの!?


 リナさんのぶどうジュースだったか。


 混乱しちゃった。


「リナさんのだったか。申し訳ない。でも、飲んじゃう。ごくごくごく! 芳醇ほうじゅん! リナさんのエキスが入ってるんだねー! みなぎってきたー!」

「あああん!? いけません、だ、旦那様!? おなかを壊してしまいます!? そんな事、い、言わないで下さい。顔が火照ほてってしまいます」

「ごめんよ? この手が、勝手にやったんです! 出来心でした! あと、下心も! リナさんお説教してよー!」


 無理難題を押し付けている。


 でも、美人なメイドさんに。


 お仕置きしてもらいたい。汚物を見るような目つきで。


「す、救いようのない、ゴミですね!? ちゅ、忠告を無視するなんて。この、旦那様! 女性ばかり仲間にして、どうしようもない人です!」

「ぬあああん! おとしめてー! 睨み顔も!?……後半部分は、本音なの!?」


 ……リナさんにそう思われたら。


 俺は、俺は。


 ぎゃああ! 心の臓があ! 


 うげぼあああ! 精神が、もたないい!


『やかましいわ! 精神力が高まったり、減少したり。わらわまでおかしくなりそうじゃ! 仏門の教えはどうしたのじゃ!』

「こ、こんな感じですか!?……クリスティーナを見本にしてみましたが。やはり、旦那様に暴言を浴びせるのは。例え命令でも、承服しかねます!」


 は、はい。反省します。


 うん? 本当に説教されてるぞ!? 


 あへあへあへ! 


「ご主人さま、お姉さまばっかり構わないで! めっ! だよ?」

「あががが! カナちぇんせい! ようちえんじに、なっちゃう! ぼく、おとなになったら、せんせいとやきにくたべにいきたーい!?」


 精神が退行しちゃう。


 リナさん、カナさん。


 この二人の空間にいると、精神的にヤバいかも!?

 

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