第14話 ヤキモキと四人パーティー
お風呂から戻ってルクスとヴェイクと、くだらない話でもしようとしたら──何かいた。
ルクスの隣に。そして彼女の体型は、同じ女でも羨ましく思うほど素敵なスタイルだ。
そこまで大きな身長じゃないのに、胸とお尻が大きくて、それなのに腰回りはシュッと細い。
きっと胸はDカップ以上ある。
Bか、脇から寄せてもCカップにならない自分の貧相な胸とは、比べものにならないほど大きくて魅力的な胸は、男を魅了する何かがある。
「……誰?」
「えっと、初めまして、アタシはサラ=コスターニャです」
「はあ……私はエレナ=ティンベル」
なぜ自己紹介をしているのか。
それはきっと、憎めないほどの笑顔を向けられたからだと思う。
「今日は折り入ってご相談があり、ここに来たんです」
丁寧な口調。
脅えてる? 私が少し怖いのかな?
「アタシを三人のパーティーに入れてほしいのです」
「パーティーに?」
パーティーとは、そういうことか。
二人は不気味なほどニコニコしてる。どういう笑顔なんだろう。
もう入れてるのは決まってるから、とかなのかな。だったら私に訊かなくていいのに。
「私は二人に任せるわ。人数も多いほうが助かるでしょうしね」
どうせ、どっちかの知り合いでしょ、たぶん。
いや、ルクスの知り合いではないわよね。アイツがこんな可愛い女性と知り合いになるわけないし。
だけどこの選択が正しいのだと思ってたのに、なぜか二人は悲しそうな表情をしていた。
えっ? なに、答え違ったの?
わからない、そう訴えるように首を傾げると、プルンと大きな胸が縦揺れして、そのままサラの体は飛び跳ね、
「やった! やったよルクス!」
「やっ、やめっ、くっ付くなよ!」
嬉しそうにはしゃぐサラはルクスに抱きついた。
ぷにゅんって豊満な胸を当てて──そしてルクスは喜んでた。
「え、ルクス……もしかして……あんたの知り合い、なの?」
言葉が思った通りに発せられない。
変だ。凄く変だ。なんだこれ。
そして満更でもない顔をしていたルクスは、首を横に何度も振った。
「違う違う違う! 彼女とはさっき知り合ったばっかなんだよ!」
「ルクスー、これでアタシも仲間だよねぇ」
顔をすりすりするサラ。
知り合いじゃないのに、この距離感はおかしくない?
えっ、おかしいよね。たしかにルクスは離れようと拒んでるけど、なんで離れないの……?
本当は、嫌がってない?
私はそんな二人の姿を見て、体が勝手に動いていた。
「ちょっと、離れなさいよっ!」
サラの体を持ち上げて、二人を引き剥がす。
「えぇ、折角喜びを共有してたのに……」
「喜びたいなら一人でしなさいよ! ルクスもルクスで、なに嬉しそうにしてるのよ!」
「いやいやっ、俺は嬉しそうになんかしてないぞ!」
「嘘を付くな、この変態!」
「えぇ……」
ルクスが困った表情をする。
私自身も、なんで怒ったのかわからない。
別にルクスはされてる側で、してる側じゃない。なのにルクスを怒ってる。
ルクスが胸を当てられて、満更でもないみたいな顔をしてるのを見てると、なぜかムカついてくる。
まるで、私──。
「なるほどなるほど」
引き剥がしたサラが口角を吊り上げて、なんだか変な笑顔を向けてくる。
これはヴェイクがよくする表情に似てる。胡散臭いタイプがする笑顔だ。
「そういうことだったのね。ごめんごめん、知らなかったかんだ、だから怒らないで。あの、アタシってさ、嬉しくなったり興奮すると、勝手に体が動いちゃってさ。ははっ、なるほど、そりゃあ怒るよね」
意味深な言葉を漏らしながら私に近付いてくるサラ。
その背中からは二人の違った表情が見える。
困惑した表情のルクスと。
サラ同様の胡散臭い笑顔のヴェイク。
そしてサラは私の両肩に手を置いて、
「もう邪魔しないから、ごめんね!」
と言い出した。
「……はっ?」
何を言ってるの、この変態。
何を邪魔しないでくれるっていうの?
「えっと、ごめんなさい。言ってる意味がわからないんだけど……」
「んっ、またまたー。自分の胸に手を当てて訊いてみなって」
貧乳に手を当てろと言いたいのか、この巨乳は……。
少しイラっとしていると、彼女に抱きつかれた。
やっぱり、巨乳はやわらかい。プニプニする。
そして耳元でそっと囁かれた。
「……ルクスの事、好きなんでしょ?」
「──なっ!」
その言葉を訊いた瞬間、私はサラを押した。
「そんなわけないじゃない。なんで私が……」
……いや、玉の輿を狙ってるんだから、結果的なことを言えばそういう関係になるのかもしれない。
だけど結婚と好きは違う、と思う。
別に私は玉の輿を狙ってるだけであって……好きでは、ないのだと、思う……。
そしてサラのニヤ顔の後ろ。
同じくニヤニヤしてるヴェイクと、キョトンとしてるルクスが視界に入ってきて、なぜかムカついた。
「何見てんのよ、この変態!」
「えっ、ヒドいっ!」
だけどヴェイクにはムカつかなかった。
私はルクスの元へと向かい、ベッドに置いてある枕で何度も叩く。
風呂上がりの火照った顔のまま。
♢
「おっはよー!」
朝ご飯を食べ終え、俺達三人がモンスターエリアへと続く門へと到着すると、サラが門に背中を付け、朝早くだとは思えないほど元気に手をぶんぶんと振った。
「おはよう。朝から元気だね」
「三人が静かなだけ……って、エレナは朝からふくれてるねぇ」
「……失礼ね、朝はいつもこうなのよ。どっかの変態と違ってね」
ギロッとエレナに睨まれた。
俺が何かしたか? してないよな。うん。
顔をぶんぶん横に振って無害だと訴えていると、エレナはため息をついて睨むのを止めてくれた。
昨日の夜、サラが自分の泊まっている宿屋へと帰った後、エレナはずっと不機嫌だった。……というよりも、俺にだけ不機嫌というか、なんか怒ってた。
仲間にしたことを怒っているのだろうかとも思ったけど、俺とヴェイクは『まだ怪しいからどうしようか?』という雰囲気だったのに、エレナが勝手に「いいんじゃない?」とか言って了承したから、サラを仲間にすることになったわけであって、俺もヴェイクも悪くないと思うんだ。
だけどなぜか、エレナは俺にだけぷんぷんしてる。
そして次の行動で、状況を更に悪化させてしまった。
俺は、空気が重たかったから少し笑わせようとして、「妬いてるのか?」と冗談っぽく言った。
するとエレナは俺に、まるで汚物を見るかのような視線を浴びせてきた。
それからというもの、エレナはずっとぷくぷく膨れてる。
まあ、これに関してはよくあることであって、さほど気にすることはない。
エレナの不機嫌ぷくぷくモードやツンツンモードは日常茶飯事の症状で、もう見慣れてしまったのだから。
だからエレナの不機嫌ぷくぷくモードは時間が経てばなおる。
なので重要なことは次だ。
エレナが不機嫌そうに一度部屋に戻った時、サラの頼みである魔弾の調合を済ませた。
結果として、一回の調合で生成できる魔弾の数は、弾倉に詰められる上限の六発。
「一発一発じゃなくて良かったな」ってヴェイクは言ってたけど、本当にその通りだ。
魔弾一発を生成するのにモンスターを一体必要とするのなら、どれだけ調合するのを躊躇ったことか。
だけど悪くはない調合内容だったので、俺はサラに六発の魔弾を六弾倉分、合計で三六発を生成した。
武器とかにも当てたかったけど、涙目で迫ってくる痴女を前に、俺は完敗してしまったということだ。
それに結果としては全てEランクだったけど、魔弾を見たサラは満足していたので良かったとも思える。
彼女曰わく「見れば良し悪しはなんとなくわかる」なのだとか。それは長年扱っていた彼女だからわかるらしい。
それと《ゴブリンファイヤーの魔弾》という名前通り、全て火属性の魔弾らしい。
普通のファイヤーの魔弾とどう違うのかは、使ってみないとわからないのだとか。
「それで結局のとこ、今日はどうするんだ? 上の階層に向かうのか?」
モンスターエリアに入った俺達。
昨日の夜中にヴェイクと少し話をしたんだけど、ヴェイクは悩んでいた。
そして今、俺が質問するとまた悩んでいる。
「ん、なになに、上の階層に向かっちゃわないの?」
頭の後ろで腕組みするサラは、それが当たり前だと言わんばかりの表情だ。
「……迷ってる」
ヴェイクはそれしか言わない。
「あんた、昨日からずっとそんな感じよね。私とルクスよりこの世界樹での経験があるあんたがまだ不安だって思ってるなら、今日もゴブリンと戦うでいいんじゃないの?」
「いや、もう実力的には問題ないと思うんだ。五階層まで進んだことのあるらしいサラも加わってくれたしな」
「らしい、じゃなくて、進んだのっ!」
「だから問題はないんだが……」
「はっきりしないわね。どうしたのよ?」
ヴェイクは昨日からこんな感じだ。
たぶん、上の階層に進むことは、そこまで問題じゃないと思う。
問題なのは……。
「エリアボスと遭遇するが不安なのか?」
「……まあな」
「だけどあんた、前に『エリアボスに遭遇したらラッキーだと思え』みたいなこと言ってたじゃない?」
「それは多人数で遭遇したらの話であって、世界樹に入ってすぐの探索者が簡単に勝てる相手じゃないんだよ」
「ヴェイクとサラがいてもキツいのか?」
そう質問すると、今度はサラが難しそうな表情をする。
「んー、アタシもエリアボスと戦うのは避けたいかな。それにここのエリアボスって三体一組だったよね?」
「三体一組?」
「要するに同じような強さのモンスターが三体いて、そいつらが一緒に出現するってことだ」
「ヴェイクとサラでも、勝つのは厳しいってことか」
「アタシは無理だね」
「俺は一対一ならなんとか、ってとこだな。だが三体を同時に相手は無理だ。それに──この四人で三体を相手にするのも厳しい」
ヴェイクがはっきりと真面目な表情で言うってことは、本当に無理なんだろう。
そしてサラが言葉を続ける。
「それとねぇ、エリアボスが現れるとこには取り巻きモンスターがうじゃうじゃ湧くんだよね。だから、この一階層ならゴブちん、それが一杯出てくるのさ。だから相手にするのは三体のエリアボスだけじゃなくて、沢山のゴブちんたちもってこと」
「なるほど。そういえば、二人ってエリアボスを倒したことあるの?」
そんなに難しい相手なら、どうやって倒したのかを訊きたった。すると二人は、揃って首を縦に振る。
「倒したことはある。ただそれは、ギルドとかクランといった大人数で挑戦した時なんだよ」
「アタシもそうだね。それにギルドとかクランを組めば、実力を底上げしてくれる加護をメンバー全員に与えられるから、今よりも強くなれると思うよ」
「「ギルドとクランに加護?」」
エレナと声が被った。
ただそれだけなのに横目でジーッと見られて、なぜかため息をつかれる。
「来たか」
ヴェイクは肩に乗せていた斧を構える。
「その話はギルドを設立できる五階層で教えてやるよ。今は、ほれ、来たぜ」
前からゴブリン三体がこちらへ歩いてくる。
どうやらヴェイクも戦いに参加してくれるらしい。
そして俺を見て、ニヤッと笑った。
「俺はリーダーって柄じゃねぇからよ。ルクス、後はお前が決めてくれ」
「はっ、何をだよ?」
「上の階層を目指すのか、それとも、このままここでゴブリンを狩るのか」
ぶん投げられた。
そしてサラは二丁拳銃を手に。
エレナは槍をクルクルと回す。
「というより、アタシは最初からルクスがリーダーだと思ってたんだけど?」
「ヴェイクは有り得ないわよ。まあルクスも有り得ないけど。だけど他にできる人がいないんだから、必然的にあんたになるわよね。ほら、どうするのよ、リーダー?」
いや、お前がやればいいじゃないか!?
とか言えない状況。
なぜかリーダーにされた。
そんな柄でも、実力でもないのに……。
だけどリーダーという呼ばれかたに、少しニヤつきそうになる自分がいた。
誰かに頼られるなんてこと、今までになかったからか。
そして前から迫ってくるゴブリン達が、俺の決断を急かす。
「そうだな」
剣を鞘から抜いて三人の前に出る。
「よし、上の階層に登ってみよう。その為にも、目の前のゴブリンを倒すよ」
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