第119話 防犯授業 ②
時間にしてみればたった1分ほどだったはずなのだが左腕に力が入らない。
荒田先生が結崎先生に頭を叩かれているのを遠目に見ながらいい気味だと思っている俺は器の小さい男なのだろう。あとで百瀬にもチクってやろう。
その後、生徒たちでもできそうな護身術を披露してもらい、今はグループに分かれて先ほど見た護身術を体験してもらっているところだ。
俺は1組の男子たちのところへと向かった。俺が来たことに気が付いた男子たちは口をにやけさせる。
「いや~最こ……災難でしたね(笑)」
「あれ? 先生、泣いてませんか?(笑)」
「どんなイケメンでもさっきのは情けなかったっす(笑)」
「みてて気持ちのいいものですね(笑)」
男子どもが俺のことを笑っていた。
ってゆーかさ、いい気味って思ってないか。
俺だけがこんな理不尽な目に合うのは許せない。
「つーか、荒田先生に勝てるわけないだろ」
情けないが事実だ。
昔、渉と殴り合いの喧嘩になったことがあるがそんなもの比じゃなかったぞ。アレに勝てるのは男でも日本に10人もいないんじゃないだろうか。
「……お前らには特別に俺が簡単な締め技を教えてやる。昔、簡単な技なら習ったことがある」
高校の授業でだけどな。
投げ技は知らないが締め技だけは授業で何度もさせられた。
「い、いや、遠慮しておきますよ」
「俺たちは俺たちでやりますから!」
「つーか、この授業って相手の制圧が目的じゃないですよね!?」
俺が本気でやることが理解できたのか男子たちは後ずさる。
「遠慮すんなって」
「先生、少しよろしいでしょうか」
相沢にヘッドロックをかけたところで剛田先生を投げていた婦警さんに声をかけられる。
「もっと詳しく教えてほしいと頼まれましたので、お手数をおかけしますが手伝っていただけないでしょうか?」
とりあえず、ついていくと俺のクラスの女子たちが固まっているところまで案内される。
「あ~高城せんせー」
「え? 本当に高城先生が教えてくれるの?」
「冗談で言ってみたんだけど」
「ヤバい、汗大丈夫かな」
指導するのは俺の隣にいる婦警さんだ。
「俺はどうすればいいんですか?」
「先ほどと同じように暴漢役をやってください」
「……………は?」
俺が? この子たちに?
「いや、まずくないですか?」
「男性の方にやってもらうのはいい練習になります。是非、高城先生にと希望がありまして、生徒さんたちは熱心ですね」
いや、なんか婦警さんの思っていることとは違う気がするんですけど。
「では、先ほど後ろから急に抱きしめられた時の対応をやってもらいましょうか」
ちょ、待ちましょうよ。
アレって生徒に後ろから抱き着かんとできんでしょうがっ!
下手したらあなたに捕まることになりかねんのですよ。
俺を置いてあれよあれよという間に話が進んでいく。
募集を募ったところ、女子の大半が手を挙げた。
「あの……本当に俺がやらないといけないですかね?」
「生徒さんの安全のためにお願いします」
ああ、この婦警さんは俺が下心なんて持ってないって思ってるんだろうな。生徒たちに頼られて嬉しいのかキラキラした目で頼まれたら断ることなんてできない。
――まあ、とっとと済ませよう。心を無にすればいい。そして、今日という日のことを忘れよう。
「よりリアリティを出すために少し演技をしてほしいでーす」
そんなバカな提案をしたのは歩波だった。
「そうですね。リアリティを出すためにいいかもしれません」
そう言って俺に期待の目を向けてくる婦警さん。
俺は渉や歩波じゃないんだから、演技とかそういうのは苦手なんだけどなぁ。
とりあえず、言い出しっぺの歩波からすることになった。
「いやぁ、さっきに兄さん最高だったわ。なんでスマホ持ってこなかったんだろ」
荒田先生との一部始終を思い出し笑いするバカ歩波。
バカにするような笑みにちょっとカチンときた。
――……………はっ……やってやるよ。
先ほど馬鹿な提案や兄に対しての敬意が足らない愚妹には仕置きが必要だろう。
俺は無言で歩波の背後を取るととグッと腕ごと歩波をホールドした。
「ちょ! 何で身体絞めあげてんの!? つーかいきなりは卑怯!」
「不審者が「今から襲いますよー」なんて襲ってくると思ってんのか? 真剣にやらんと失礼だと思ってな。ほらとっとと抜けろ」
「無理! だってこれ、完全に締め落とす気じゃん! 手首だって抑えられてるし! ギブ、ギブです!」
「ってゆーかさ、やっぱお前太った? なんかもちっとしてるぞ」
「んだと!?」
「……もうちょっといけるな」
「ねえ、もしかしてさっき笑ったの怒ってる!? あ~ごめんなさい~!!」
とりあえず、歩波が抜け出すことのできないくらいの力で締め上げて日ごろの恨みを晴らさせてもらった。
◆
カレン
何の抵抗もできなかった歩波さんはセンセに解放されましたがぐったりとした様子でこちらへと戻ってきました。
「日ごろの行いのせいかな」
「ちょっとしたお茶目じゃん」
私たちの中では先ほどの歩波さんへの仕打ちは日ごろの行いの所為だということで話は終わってしまいました。
「では、順番に行ってもらいますね。ではそちらの子からやってもらいます」
そう言って婦警さんが指名したのは私でした。
「っ……はい!」
私は緊張しながらも返事をして先生に向かって後ろを向いて立ちました。
いつもは私から抱き着いていますが先生から抱きしめてくれるのは初めてです。
というより、クラスの女子の意見の総意でセンセが暴漢役をやってもらうことになったのですが、もちろんちょっとしたトラブルを期待してのことです。
私もそんな期待しながら先生から抱きしめてくれるのを待ちます。
先生の気配が後ろに近づいてくるのを背中で感じると私のお腹の周りに先生の手が回りました。いよいよその時が来るのかと心臓の鼓動が高鳴るのを感じます。
そして――
「よいしょ……と」
私は先生に小脇に抱えられました。
「せ、センセ! これは違います!」
私は思っていたものと違う抱かれ方に戸惑い叫びました。
「いや、誘拐目的ならこっちの方が手っ取り早いし走りやすい。カレンなら身代金の目的が考えられると思うし」
「そ、それは……」
自分の家のことを想うと確かにそちらの方が多いかもしれません。
私は私が思っていたシチュエーションとは違う展開に肩を落とすしかありませんでした。
けど、いくら何でもこの運び方はないと思います!
◆
涼香
「あの。すいません」
「はい。なんでしょう」
「壁に追い込まれたときはどのようにすればいいでしょうか?」
私は手を挙げて婦警さんに質問した。
「以前、そんな風に追い込まれたことがありまして」
文化祭の時に古市君にされたことがあった。
文化祭前日に先生に不意打ちだけど壁に追い込まれたことはある。先生相手ならいくらでもOKだけれど、他の人が相手だと二度と御免なので対処方法だけでも知りたかった。。
「そうですね。一番簡単なのは相手の股座を思いっきり蹴り上げることですかね」
「それって……」
私はそれがどの部分を狙った攻撃なのかを理解する。
「では、先生試しにやってみませんか?」
「うぇ!?」
先生は驚いて婦警さんを見る。
私としても先生の……を蹴り上げるなんて真似はできなかった。
「大丈夫です。動きのトレースだけですから」
「そ、それなら」
「……わかりました」
私と先生は壁際に移動すると先生と向き合う形で立つ。
先生の方が圧倒的に背が高いので私は先生に見降ろされる形になる。
先生の身体でできた影が私を覆う。
「では、先生。壁に手を突いてください」
「はい」
先生は私の顔の横に手を突く。
――……顔、近い。
もちろん、嫌じゃない。
むしろ嬉しい事だ。けれど、私の思っていたものとは違っていた。
少女漫画とかであるのと同じ態勢なんだけど何か違うような。
「先生、もうちょっと強く迫らないと練習になりません」
「え?」
この後何度も繰り返しても先生は婦警さんからOKはもらえなかった。
もう私より先生の演技指導になってる。先生は何度も婦警さんに壁を叩く強さやセリフの指摘されている。この婦警さん、真面目なのか不真面目なのかわからない。
「……まあ、及第点でしょう。ではお願いします」
何度か繰り返しているうちにOKがもらえたので改めて私と先生は向かい合う。
「……いくぞ」
「……はい」
先生が私の方へと一歩踏み出す。
婦警さんの指導もあってかちょっとした圧迫感があって、思わず私は一歩後ずさってしまう。けれど、後ろは壁なのですぐにとん、と壁にぶつかる。
その瞬間――
ドン!
先生は私のすぐ横を壁を強く叩いてぐっと顔を近づけてきた。
お互いの吐息が感じられるくらいにまで顔が近づくと、先生は不敵な笑みを浮かべる。
私の心臓はどきどきと跳ね上がって、顔に熱が集まる。
「どこにも行くな。俺と来いよ」
暴漢のセリフというより切なさとかわいらしさと男らしさが混在するセリフだった。命令形で言われるのがまたキュンとさせられる。
「…………あの……はい」
「いや、OKしちゃだめでしょ! 兄さんもそれだとただの壁ドンだし!」
歩波さんのツッコミで私は正気に戻る。
私はこんなにもドキドキしてるのに先生は真剣な表情だ。これが演技だとしたら先生はすごい、さすがはあの上代渉のお兄さんなだけある。
その後、婦警さんに指導されて私は抵抗する動きだけをして名残惜しく思いながらみんなのところへ戻っていった。
◆
「いいな、いいな~私も先生に壁ドンされたい!」
「一度は経験してみたいよね」
「先生! 私たちもそれでお願いします」
そこからは涼香と同じようなシチュエーションを希望した生徒たちに壁ドンを繰り返していく。もう壁を叩き続ける機械となったような気分だった。しかもやるたびにきゃーきゃーとを挙げるのは勘弁してほしい、耳がキンキンするから。
「お前の教え方って相変わらず細かいなー」
生徒たちの指導の途中、荒田先生がやってきた。
「貴方が適当過ぎるだけよ。普通の女性は男性には力で叶わない物なのこれくらいしっかりやっておかないと。“柔よく剛を制す”というでしょう」
「鍛えりゃいいじゃん。っていうか、アタシだって普通の女だ!」
「痴漢の腕に“握撃”を使うような人が普通なものですか。下手をすれば過剰防衛よ」
“握撃”って某格闘漫画に出てくるアレですか? 荒田先生はあれを実際にできると?
「アンタだって、高校生の時に男をさっきみたいに投げまくってたじゃん」
2人の高校時代は男の人をボコボコにしたことはよくわかった。
史上最強の元JK2人がここに居る。そして、現女性最強もここに居るんだろうな。
「今でも似たようなことばっかしてるから彼氏の一人もできないんだっての」
「……………………は?」
その発言と同時にその場の空気が変わった気がした。
なんというか、一気に冷たくなった。
この空気の中笑っているのは荒田先生だけだ。
「……それは貴方もでしょ? “静蘭の花山”なんてあだ名付けられて」
今では静蘭の“
絶対本人の前では言わないけど。さっき以上の酷い目にあわされる。
「今の私には彼氏いますぅ」
そしてその
「は? 貴方に彼氏? どこの山で見つけてきたのよ。ちゃんと飼育の申請書は出したんでしょうね」
売られた
「サルじゃねえよ! 天使だっ!! 休日にケーキを焼いてくれて、抱きしめればバニラみたいな甘いにおいがする、食べたらあまい砂糖男子だ!」
荒田先生って彼氏のことってみんなに秘密にしていたはずなのだけれど。
みんな荒田先生に彼氏がいると聞いて驚いているよ。っていうか、砂糖男子ってなんですか。
「へ、へぇー……そ、れは……よかったわね」
一番驚いたのは婦警さんだったようだった。
動揺してセリフを噛んでいた。その様子を見て荒田先生は鼻で笑う。
「おやおや~そちらはまだですかぁ?」
「……」
「まずは少女漫画脳から卒業されてはどうですかぁ」
「………」
「白馬の王子様なんていませんよぉ」
「…………」
表情が消えたがその瞳からは煮えたぎる怒りのようなものが見え隠れしていた。
「そんな素敵な彼氏さんなら盗られないようにしなさいな。」
「ああ、その筆頭ともいえる奴はいずれ……な」
なんでその話の流れで荒田先生は俺を見るんですか?
なんで、指鳴らしているんですか?
なんで、自分の首を掻っ切るジェスチャーをしたんですか?
お巡りさん。この人いつか絶対に俺を襲ってきますよ。逮捕してください。
「とりあえず、全員分を済ませてしまいましょう」
俺は荒田先生とは視線を合わせず、婦警さんに続きを促す。
「そうですね。では、復習ということで後ろから襲い掛かられた時の対処方法をやってもらいましょうか。ではそちらの生徒さんに」
よりにもよってその相手は夕葵だった。
「そ、その、お願いします」
人には言えないが何というか後ろから襲うと勢いあまってにある部分に触れてしまいそうでどうしてもためらってしまう。
――勢いをつけなければいいか。
俺は後ろから夕葵に近づくと夕葵を背中越しに覆い被さった。無論、荒田先生と同じように触れないようにしてはいるが、完全には難しかった。ほかの子と比べて体の一部が突出しているから、柔らかく細い身体が俺の腕や胸に当たる。
「――っ――!」
身体が当たるたびに夕葵の身体が強ばるのが伝わってきた。
カチカチに固まってしまった夕葵は俺の腕から抜け出そうとはしない。いや、できないのか。
「夕葵、動いて」
「せ、先生。耳元で話しかけられると、くすぐったいです」
「あ、ゴメン」
「いえ、もっと強くしていただいても……」
さすがにそんなわけにはいかないんだよ。
とりあえず、夕葵はゆっくりと動き俺の拘束から逃れる。一番心臓に悪い時間が終わったな。
夕葵は赤くなった顔を手で隠しながら涼香の所へと小走りで移動した。
◆
夕葵
『さすがの夏野さんでもダメだったか』
『ヤバいね。防犯の授業ということ忘れそうだよ』
『何このラブコメ的な甘い雰囲気』
他の女子たちがひそひそと私のことを話しているのが聞こえてくる。
――あんなの耐えられるわけないじゃないか!
先生からの抱擁なんてしてもらえるなんて思わなかった。
今でも先生のたくましい腕や胸板の感触が体のあちこちに残っている。無論、先生も積極的に体を寄せてきたわけではないがあの体勢で接触しないなんて無理な話なのだ。
抱きしめられた時先生とホテルに泊まった時のことを思い出した。あの時とは状況が違うけれど、嬉しいことに変わりはない。
◆
護身術の体験が終わった女子たちの声が聞こえてくる。肉体的にはさほどだが精神的にかなり疲れた。なんで触れてもいないのにこんなに心臓に悪いんだか。
「なに興奮してんのよ」
順番的に一番最後である観月が面白くなさそうに俺を責める。
「してない」
「ふーん」
「で、あとはお前だけなんだが……」
観月は中学の時に碌でもない連中に襲われかけたことがある。ある意味生徒たちの中では一番必要だ。
「大丈夫か?」
「何が?」
「いや、観月って何度か男とトラブル起きてるだろ」
中学の時のこともあれば、夏合宿の時の仏田の一件もある。
男に対して恐怖心や嫌悪感を持っていても不思議じゃない。
「歩ちゃんなら全然怖くないし」
「あのなぁ……」
呆気からんとしている観月。
だが、その警戒心のなさは如何なものだろうか。
普段にこやかに話しかけてきた人間がいつ変わるかわからない。まるでコインの裏表のように全く違った面を見せることがある。
俺を信頼してくれているのは嬉しいが少しは危機感を持ってほしい。
「………しょうがねえな」
◆
観月
歩ちゃんがアタシを心配してくれることは伝わってきた。
情けないけど、歩ちゃんには何度もお世話になっているからなぁ。
いつもあたしを助けてくれるから歩ちゃんが暴漢役と聞いてもちっともピンと来ない。
――でも、壁ドンとかバックハグはちょっとしてもらいたいかも。
歩ちゃんに迫られるっていうのは経験してみたい。
今後もしもそういうことがあったら怯えずにすんなりと受け入れられると思うし。
「………しょうがねえな」
と、歩ちゃんが呆れたようにため息を吐く。
アタシが首をかしげると同時に歩ちゃんは顔を挙げる。
歩ちゃんの顔を見てドキッとした。けれど、これはいつも歩ちゃんに感じている感覚とは少し違う気がした。
いつもより歩ちゃんの目付きが鋭い気がする。
「歩ちゃん?」
何も言わずにアタシに近づいてくると歩ちゃんの方が背が高いから自然とアタシを見下ろす形になる。
その不思議な迫力と威圧感に思わず気圧されて、後ずさるとすぐ後ろには壁があってそれ以上下がることができなかった。
距離が近づくとアタシの顔のすぐ横の壁を叩いた。
その音に驚いてアタシは思わず身をすくませた。
「お前、少しは危機感持てよ」
「――ッ―――!」
そのまま耳元でアタシにしか聞こえないような声で話す。
歩ちゃんの息が耳を擽る。
「昔、危ない目にあったのもう忘れたのか?」
「や、忘れたわけじゃないけど……」
「けど?」
「また歩ちゃんが助けてくれるでしょ?」
「阿呆」
歩ちゃんが叱るようにもう一度壁を叩く。
「……もし、俺がお前を襲い掛かったらどうするつもりだ」
「――ッ――!」
歩ちゃんのその一言が決定的だった。
身体が震えるのが自分でもわかった。
思わず目を閉じる。
あれ? アタシ……怖がってる?
歩ちゃん相手なのに?
「……ほらな」
そういうとアタシから離れる。
歩ちゃんの顔はニヤリと笑っていて、アタシはかわれたのだとわかった。
「~~ッ~~バカッ!! バカッ!! サイッテー!!」
「何が馬鹿だ。危機感の足りんおまえがわる……痛!」
歩ちゃんが後ろから迫った来た涼香にわき腹を抓られて声を挙げる。
「い、いいい、今のは絶対アウトです! 観月に何してたんですか!?」
「いや、みんなと同じようなことをしたつもりだけど」
「ウソです! なんかすっごく迫っているように見えました」
「今のはさすがにどうかと思います」
カレンと夕葵にまで冷たい目で見られて歩ちゃんは動揺している。いい気味。
「ってゆーかさ、やりなれてる感なかった?」
「あー、ちょっとあったかも」
「言いがかりはやめろ!」
「「「「ふーん」」」」
「信じてないな!?」
歩ちゃんに少しあらぬ疑いがかかったけれど、今日の防犯授業は終わった。
◆
防犯授業が終わると、生徒たちは解散となる。
SHRが終わるや否やこれからどこかへ遊びに行く相談をしていたり、部活へ向かう生徒を見送る。
俺たち教師は校内の掃除ということで生徒たちが普段は入れない場所を掃除していた。俺と座間先生は普段から使用している社会科教員室だった。
「なんだかんだで、1年が経つのって早いですよね」
「だなぁ」
この一年間使わなかった資料などをまとめていると結構な量になる。夏休み前にも整理したつもりだったんだが、たった数か月で色々と汚れるものだ。
「あとは忘年会ですね」
「今年の幹事は服部だったかぁ」
「まあ、年が明けたら3年生の受験対策があるんですけど」
掃除が終わると俺と座間先生は雑談しながら職員室へと戻っていく。
年の終わりが近づいてきている。
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