第59話 ウォータースライダー

観月


 ――くっそ~、胸かっ、やっぱり胸なのかっ!


 アタシ達が水着を披露したときにやっぱり一番の注目を集めたのは予想していた通り夕葵だった。パーカーで身体を隠していたけれど、それを脱いだら迫力が凄まじかった。脱がなくてもヤバいのが分かったもん。


 夕葵の着ている水着はアタシ達が選んだけれど、鬼に金棒を渡してしまったような気分だ。合宿のお風呂と同じようにぷかぷかとプールの水に浮く2つの果実を睨みつける。

 

 ――夕葵に浮き輪なんて必要ないじゃん!


 もちろん、他の子達だって油断できる相手じゃない。

 今日の涼香は清楚ながらどこか色っぽいし、カレンだってお嬢様らしい上品さがある。それぞれが水着というアドバンテージを十分に活かしてる。


 アタシは正直、敗北感を植え付けられて気分だった。


 ――アプローチなんてどうすればいいのよっ! 勝てない……勝てないよぉ……。


「さて、大体1周したしどこから行きたい?」

「私は荷物番をしています」

「いや、貴重品はロッカーに預けてあるから番をする必要はないぞ、シルビアも好きなように遊べばいい」


 必要なお金は硬貨に両替して歩ちゃんに預かってもらっている。

 盗られて困るような必需品はスマホくらい。

 そのスマホだってプールに落としてしまうことが多いから、あまりここでは使うことはしないけれど、今日の思い出としての写真は取りたいから鞄の中に入れてある。


「お気遣いありがとうございます。それなら、あちらのカフェに行ってきます」

「カフェ?」


 シルビアさんが指さす方向を見れば確かにそのスペースにカフェが展開されていた。結構人も集まっているみたいで、行列ができている。心なしかいつも無表情なシルビアさんがわくわくした様子だ。

 でも、なんでここに来てまで? あのカフェ自体は街中にも結構あるのに。


「お前な……」


 歩ちゃんはどこか呆れたようにシルビアさんを見る。

 けどシルビアさんの姿はなかった。いつの間にか行列に並んでいる。


「どうせ、あそこでコラボカフェとかやってるんだろ」


 確かに看板にはアニメのキャラクターが描かれている。

 あ、カレンも少し行きたそうだけれど自重した。


「じゃ、改めて最初はどこに行きたい?」


 そう言われると結構迷う。

 プール自体は結構な広さがあるし、ビーチみたいな波のプールもいいし、ウォーターアトラクションに行ってもいい。どこに行ってもはずれはなさそう。


「あ、だったら私は外のウォータースライダーに行きたい!」


 歩波ちゃんが1つの提案を出す。

 特に反対の声もなくて、ドームの外に出るとさらに日差しが強くなってアタシ達の肌を刺激する。日焼け止め塗っておいてよかった~。


「へえ、定番から浮き輪に乗りながら滑るやつとかけっこう種類もあるな」

「これはぜひとも全種類コンプリートしなければなりませんな」


 歩ちゃんと歩波はわくわくした顔で案内図を見ていた。

 こういうのに反応するところがよく似てる。


 最初はみんなで滑ることのできるものから行こうということで円形のゴムボートに乗って滑り降りるのを選んだ。スライダー乗り場がある岩山周囲に向かう間にも楽しそうな悲鳴が聞こえてくる。確かに気持ちよさそうだし楽しそう。


 ウォータースライダーの列は案の定すごいことになっていた。

 本来なら下手をすれば30分待ちなんてことになりかねないけれど、アタシ達はパスを持っているから行列に並ばずに上に行くことができる。係員さんも笑顔でアタシ達を優先させて階段を昇らせてくれるはずだ。他の人が並んでいるのに先に行けるなんてちょっとした優越感があった。


 

「では、途中から急上昇・急降下と、激しい横揺れがありますのでしっかりと持ち手に捕まっていてください」


 係員の人に説明を受けるとアタシ達はゴムボートに乗り込んだ。こういうのは久しぶりでなんだかドキドキする。


「では、いってらっしゃい!」


 係員がゴムボートを勢いよく押し込むとスライダーを滑っていく。

 最初は緩やかだけれど段々スピードが上がってきた。

 スライダーには天井がないからそのまま青い空に飛んで行っちゃいそうな気分だ。

 すると、前に続く道が見えなくなったと思ったら、一気に急降下してさらにスピードが急加速した。


「「「「きゃああああああーーー!!!!!」」」」


 アタシ達は無意識に大きな声を挙げた。

 悲鳴の中に笑い声も混じりながらジェットコースターみたいに急上昇と急降下や横揺れを何度も繰り返していく。ジェットコースターと違うのはゴムボートがくるくると回転するからめまぐるしく世界が回るところだ。身体に浮遊感を感じたからスリルも結構ある。


 そしてフィニッシュの急なツイスト――


 ――バッシャアァァァァァンッッッ!!!


 勢いよく着水して、心地いい冷たさの水しぶきが顔や体に跳ね返ってくる。だんだんと勢いも落ちてゴールである浅いプールに到着した。


「ふぅー、すっごく気持ちいい」

「けほっ、うー……鼻に入っちゃいました」

「もーいっかい乗ろ!」


 もう一度あのスリルを楽しむため、アタシたちはもう一度スライダー乗り場にかけていった。


 ◆


 その後も俺たちは色々なスライダーを楽しんだ。

 こういうレジャー施設に来るのは久しぶりだ。

 優先パスが無かったら来ることもなかっただろうし、何度も滑ることはできなかった。優先パスさまさまだ。


「もう大体滑り終わったか?」

「んーあと一個かな」

「どれだ?」


 あ、いかんいかん。

 引率という形で来たのに俺が楽しんでいてどうする。一応、保護者という建前があってここにいるんだ。


「あとはペアすべりコースだね。ペアになって滑るんだってさ」


 歩波が指さす方向を見るとそこには男女のペアだけが並んでいるコースがあった。

 そして、滑り降りてくる人たちを見ればこれでもかと密着している男女たちが見えた。結構な急角度で落ちるからあれだけ密着する必要があるんだろうな。うん、きっとそうだ。あいつらの背後にピンク色の者なんて見えない。あそこには男同士で抱き合っているやつだっているし。きっと怖いんだろうなー。


 まあ、俺たちには関係のない話だし、そろそろシルビアが合流してもいい時間帯だ。


「よっし、あれに乗ろうか」


 馬鹿妹が何か言っている。

 聞こえないふりをしたい。

 けれど、教え子たちがっしりと腕をホールドされて離してくれそうにない。つーかその恰好で密着するな。肌が当たるだろう。


「行こうか!」

「あれなら別に滑らなくてもいいだろ」

「コンプしないと意味ないでしょっ!」


 別にコンプリートを目的にここに来たわけじゃない。

 あんなの気恥しくてできるか。


「あれだよね、兄さんは私たちの保護者としてきているんだよね?」

「そうだな。だから……」

「だったら、その保護対象にふしだらな気持ちなんてわかないよね」

「まったくですね。それに実妹に興奮とか本当にドン引きです。死ねばいいのに」


 いつの間にかシルビアがいた。

 気配消して迫るのはやめろってずっと言っているはずなんだけどな。


「昼食も買ってきました。先輩が腹をくくればすぐに昼食になります」


 彼女の手の中には昼食と飲み物が人数分購入されていた。

 確かに時間を見れば昼食を摂ってもいい時間だ。食べ物の売っている売店を見ればウォータースライダー並みの長蛇の列ができている。スライダーはパスがあるから大丈夫だが、売店にまで有効というわけでは無い。


「......わかったよ。ほら、歩波いくぞ」

「いえーい。ほらみんなもいこ」


 おい、お前だけじゃないのか。事情は誰にも言えないが、ここにはカレンと涼香さんもいるんだぞ。

 色々とマズイ……というよりここにいる誰が相手であってもマズイ。


 みんなの反応を見れば特に反応した様子はない。

 告白の事といい、俺が意識しすぎているだけなのか?


「ほら、はやく行こう!」


 だれも反対する様子はない。それを了承ととらえた歩波に腕を引っ張られ連行される。

 このまま彼女たちを連れてペアすべりコースへと望むことになった。


 ……

 ………

 …………


「では、僭越ながら私が先鋒を務めさせていただきます」

「お前もかよっ!」


 いや、一緒に階段を上りだした辺りからそうじゃないかと思っていましたよ。

 けれど、あくまでわずかな可能性を信じたかった。


「子どもじゃないんだからさ」

「私だって、先輩に抱きしめられて滑るなんて考えたくありません。あくまで後ろには静○がいることを意識しますので」

「じゃあ、俺じゃなくてもよくないか?」


 アニメのキャラの代理をするなら、誰でもいいはずだ!


「あのー……後ろの方がお待ちですので」


 男性の係員が困った顔で俺たちの言い争いを諌める。

 確かに後ろを見れば順番待ちをしている他の人に申し訳ない。......覚悟を決めよう。


「では、男性の方がここにお座りください」


 係員の人に誘導されて、スライダーの縁に手を付きながら腰を落とす。


「次に女性の方は男性の足の間に座ってください」

「.................はい」


 シルビアは不承不承すると俺の足の間に腰を下ろす。

 うわ、近い。それに大人の女性が脚の間に座るというのは、なんだかとても――


「先輩、事前に言っておきます」

「な、なんだよ」


 情け無いが少し動揺した。


「もし、私の身体に固くなる何かが当たった場合、それを握りつぶし、告訴します」

「………」

「では、いってらっしゃい」


 係員の人が俺の背中を押す。

 そのまま俺たちはスライダーを滑り降りていった。

 この時に互いの身体に触れあうハプニングとかそんなものはなかった。本当に滑り降りただけだった。だって、恐怖で心が無だったから。


「……ある意味、肝が冷えた」

「では、私は先に戻っています」


 うん、これが俺とシルビアの距離間だ。

 

 ……

 ………

 …………


 その後、歩波を抱えながら同じように滑り降りたのだが、問題の時間がやってきた。

 本当に今からこの子らと滑るの? 社会的にも年齢的にもいろいろとヤバいだろ。


「お、お願いします……」


 すでにじゃんけんで滑る順番を決めていたみたいだ。

 最初は涼香さんみたいだけれど色々と心臓に悪そうだ。

 例のごとくパスを見せて優先的に階段を登らせてもらい、スライダーへの階段を登っていく。


 これで本日3回目の顔合わせになる係員さん。

 「あれ? さっきも来たような」と俺の顔を覚えているような顔をしながらもペアすべりの説明を繰り返す。この人たちって夏の間は毎日、毎回同じことを言い続けるのか。


「では、男性の方がここにお座りください」


 はいはーい、もうわかってまーす。

 俺は説明を聞きながらスライダーの入り口に腰を下ろす。


「次に女性の方は男性の足の間に座ってください」

「え、えぇえええ!!」


 係員の説明に目を見開いて驚く。

 そして、俺を窺うようにチラチラと視線を送る。

 もうここまで来たんだ。腹を括ろう。


「涼香さん」

「は、はい!」


 名前を呼ぶとおずおずと俺の足を跨いでちょこんと足の間に納まる。そして、俺の身体を背もたれにして体重を預けてくる。


 ――うわ、やっぱヤバい、これは……


 普段は服の下に隠れているはずの肢体が視覚を刺激するどころか俺に触れてくる。水気を帯びたすべすべな肌は吸い付くように俺の肌に密着してくる。

 涼香さんも恥ずかしいんじゃないだろうか。顔は良く見えないが、髪の隙間から見える頬は耳まで真っ赤だった。


 俺もちょっとまずいと思って若干距離をあけるが


「あ、だめですよ危ないですから、もっとしっかりと捕まって下さい」


 ――さっきまでそんなこと言わなかったのにっ!?


 係員は俺の手を取り涼香さんの肢体にまとわりつかせる。

 俺の手の置かれて位置は涼香さんの胸の下だった。少しでも手を動かそうものなら禁断の果実に触れてしまいそうになる。


「では、いってらっしゃい!」


 心の準備ができていないのだが、無情にも係員が俺の背中を押した。


 滑っていて分かったことだが、このペア滑りのスライダーは通常よりも角度が急だ。シルビアと乗ったときはその傾斜角に驚いたが俺はもう慣れた。


 けれど涼香さんはそうじゃ無い。

 あまりの水圧と風圧に反射的に俺の腕にギュッと力を込めるから俺の腕には柔らかな身体がさらに密着する。さらに滑り降りていくものだから俺の手はそれを支えようとして着いていく。そのため――


 ――――ふにゅ


  触った、触ってしまった!!!

 そのことに涼香さんも気がついたのかピクリと身体が跳ねると僅かに身動ぎをする。少しでも手を遠ざけようとしているのかけれど、それはあんまり意味がない! むしろ、余計にその柔らかさが伝わってきてます!


 ――バッシャアァンッ


 水飛沫が舞い、衝撃で俺と涼香さんの身体が離れる。

 立ち上がるときに互いにたまたま視線が合った。


「~~~ッ~~~」


 涼香さんはすぐに視線を逸らして、ひと足先にシルビアと歩波の待つのところへ走って行ってしまった。


 ……

 ………

 …………


  「お願いします」


 次がカレンとか随分と心臓に悪い時間が続きますね!

 さらにカレンは、小さい子が抱っこをせがむように手を広げて待っている。


  前向きが怖いということらしいので俺と向き合うように座ると言い出した。

 たしかに結構な水圧があったし、スピードも速いけど。怖いなならやめた方がいいのでは無いかと思う。


「あのー早くしてくださいませんか?」


  係員は俺を急かす。

  「やっぱこいつ、さっきから滑っているやつだ」と確信に満ちた顔で俺に話しかけてる。


 俺はスライダーに座るとカレンが俺と向き合う形で俺の太ももにまたがる。


 分かっていたことだが涼香の時より密着度がすごい。身体の小さいカレンだから重さも無いがそれ以上に密着感がヤバかった。

 徐々にスライダーをいざり動作で移動する。カレンの顔が目の前にあるから前が見にくいし、動きづらいが係員が勢いよく俺を押したのでなんとか発進した。つーか、今俺のこと蹴ったよね。


「きゃあぁああーーーー!」


 なんて、叫ぶけれどカレン……お前あまり怖く無いだろ。

 悲鳴がどこか嬉しそうだ。

 さっきの流れるプールの時に抱きかかえたけど、状況が違う。


 スライダーの時間は1分にも満たなかったが、俺の中では長距離を走ったみたいに心臓が跳ねていた。今日、心臓止まるかもしれん。


「ありがとうございました。楽しかったです!」


 ……

 ………

 …………


「じゃ、次アタシね!」

 

 観月と一緒にウォータースライダーの階段を登っていく。

 ルンルン気分で階段を登っていく観月の背中を見ていると。


「なんか、エッチな視線を感じるなぁ」


  いじわるな笑みを浮かべながら俺を見る。誓って言うがやましいことは何も考えてない。


「間違いなく気のせいだ」

「ホントかなー?」


 こういう時、男はなんと言えば無実を証明できるんだろうか。だが言い訳をする前に乗り場に到着した。


「こいつまた来やがった!」と言外に視線に伝えてくる係員の顔は怖い。もう完全に顔を覚えられたな。乗り方の説明すらせず、顎をくいっと動かして「乗れよ」というジェスチャーをする。


「ほら観月。早くいくぞ」

「……あははー……いざとなると、なんか恥ずかしいね」

 

 照れるなよ。

 俺だって余計に恥ずかしくなるだろ。


「ほら、膝の上にのれ」

「わ、わかった……」


 観月らしくなくどこか遠慮がちに俺の膝の上に治る。緊張しているのか身体が強張るのが触れた時にわかった。大人しい観月はまるで借りてきた猫みたいだ。


「固いねー」


  それは足のことだよな。

 俺の上に乗っているから、周囲には変な誤解されそうな発言だぞ。


「いくぞ」

「うん!」


  少し勢いよくスライダーに向かって飛び出した。


  必要以上に身体に触れることはなく滑り終えた。観月だった分まだ気が楽だった。


「一番スピードがあった気がする」

「そうか?」


 角度は急だが一番ではない気がする。


「うん、だってすぐ終わっちゃったから」


 少し名残惜しそうにしていた。


「……二回目はしないからな」

「ちぇー」


 不貞腐れながらもプールの手すりを持ちながら体を持ち上げてプールから出る。


 多分、無意識の行動なんだろう。

 ウォータースライダーというのは水着がズレやすい。とくに女性は水着がお尻に食い込みやすい。観月が水着と肌の隙間に指を入れて杭ッと水着を持ち上げた。


 気になるのはわかるけど俺の眼前で直すなよ。

 おかげで観月の水着で隠れた部分が僅かに見えた。


「あ……」


 そして遅れながら俺がいることに気がついた。

 勢いよく振り返るが俺は既に別方向見ている。はい、これで証拠はありません!


 何か言いたそうに口元をもにゅもにゅさせるが、何も言えずに顔を赤くしながら、みんなの所へ戻った。


 あぶなかったな。


 ……

 ………

 …………


「わ、私で最後です」


 来ましたよラスボスがっ!!!

 いや、でも、この子は別格だろう。


 平常心を装いながらスライダーの階段を昇っていく。


「うわ、すごい美人」

「モデル? 芸能人?」


 ペア滑りの列は主にカップルが並んでいるのだが、男たちは彼女のいる手前か何も言わない。けれど、幾人もの男性が夕葵さんに視線を送っている。男性どころか女性からも全貌の視線を集めている。彼女の魅力は学外でも健在か。今日一緒にいる中ではシルビアを除けば外見も中身も一番大人びている。


 階段を登り終えると係員の人と視線が合う。

「てめ、何回目だよ。何人目だよ!」といわんばかりに係員がものすごい形相で睨んでくる。来るたびに表情が変わるな。でも安心してください、これで最後です。


 パスを見せると親指で首の前を切ってからスライダーを指さす。めちゃくちゃ態度が悪い。


 俺は先にスライダーに座る。

 さて、この子と一体どのように滑ればいいだろうか。


 涼香さんや観月と同じように後ろから抱きかかえる? 

 カレンのように正面から抱きかかえる? 


 あ、なら俺が前に座って夕葵さんを後ろにしたら……背中からものすごい衝撃を感じそうだ。


 ――だめだ、どれを選んでも俺に回避する手段はない。


「早くしていただけませんかねぇ……後ろがつっかえてんすわ」


 男性係員がやさぐれながら俺をせかす。

 ちょっと待って。もう少しすればきっといい案が……浮かんでくる気がしないけれども。


「あの、私はどうすれば?」


 夕葵さんもどうすればいいのかわからず、俺の指示待ちのようだ。


「おーい、交代だよー」

「ようやくか。けっ、見せつけやがって」


 俺がもたもたしている間に係員の交代の時間となったようだ。今度は女性係員だ。


「あ、ごめんなさいねー。では男性の方はこのスライダーに横になってもらってもいいですか?」


 は? さっきの係員とは言ってることが違うんですけれど。俺はここで寝ればいいのか?

 疑問に思いながらも女性係員の指示通りに俺は横になる。


「次に女性の方が男性の隣で添い寝してください。男性の方は腕枕をお願いしますねー」

「「なっ……」」


 なんじゃそりゃーーー!!!!!!


 今までで一番やばい展開になった。何か言おうとしたがそれより先に夕葵さんが動き始めていた。


「あの、もう少し詰めてもらっても。いいですか?」

「あ、はい」


 いわれるがままに俺は少し横にずれて夕葵さんの横になるスペースを作った。そして、腕枕のために腕を伸ばした。

 そのスペースに夕葵さんは横に寝そべる。伸ばした腕に夕葵さんの髪が俺の腕をくするぐる。 

 夕葵さんとは今までにない距離間となり彼女の吐息が耳元に聞こえてくる。うわ、近っ。


「うーん、彼女さんはもう少し彼氏さんの方へ体を寄せてください」

「か、彼女……」


 夕葵さんは以前のように俺の彼女に間違えられた。

 考えてみればペア滑りコースだなんてカップルくらいしか使わない。間違えられても仕方がないことだ。仕方のないことだが……


「はい、ちょっと恥ずかしいかもしれませんが、これも二人の仲を縮める貴重な経験ですから」


 彼女じゃないからダメなんだよ。

 生徒ですから! こんなことこの場で公言できませんけど。


「わ、わかりました」


 夕葵さんは覚悟を決め俺をぎゅっと抱きしめる。当然、その柔らかい2つの球体は俺に押し付けられる形になる。


 ――心を殺せ! 年号の暗唱をするんだ。いい胸毛(1167年)の清盛さん! 人に不意(1221)うち承久の乱 一味さんざん(1333年)北条氏! イヤよ(1840年)アヘン戦争! 


「では、いってらっしゃい!」


 女性係員が俺たちを押しスライダーはスタートする。

 横になっているからか空気抵抗が少なくなり、今ままでのよりスピードが上がっている。


「きゃ!」


 そんなかわいらしい悲鳴が聞こえてくると同時にさらに柔らかいものが押し付けられた。


 左右に揺られ俺と夕葵さんはスライダーを滑っていく。

 彼女が動くたびにある部分がふにょふにょ動くので俺は身じろぎすらできない。


 ようやく出口が見えると俺と夕葵さんは勢いよくスライダーから放り出された。その勢いで俺の夕葵さんの体は離れる。


 ――よし、何か腕に引っかかった気がするけれど。ようやく終わった!!


 やり遂げた、俺はやり遂げたんだ。

 心臓や脳や理性的、倫理的、社会的な地位的にもキツかったが、終わったんだ。


 腹もすいてきた。昼食に向かおうかと夕葵さんのほうを向くが、


「今こっちを向かないでください!」


 そういわれ俺は別の方向を向く。

 一瞬だが夕葵さんの様子が見え、状況が把握できた。


 端的に言えば観月の時の状況が似ている。

 ただ、彼女のほうが”モノ”質量の所為での動きが激しかったんだろうな。


「す、すいません。水着がずれてしまったもので」


 言わなくていい!!

 お願いだからそんな想像を掻き立てるようなことは言わないでくれっ!


 ◆

 カレン


 ――ちょっと大胆だったでしょうか。


 今日は今までにないくらいセンセと一緒にいることができています。

 ちょっとウソをついて大胆に攻めてみました。

 センセの困った顔が息のかかる距離にあったので、思わず身を乗り出して唇を突き出せばキスができそうな距離でした。


 昨日、シルビアさんにセンセにから誘われたと聞かされた時にはちょっとむっとしました。私たちは先生を誘ったのに、シルビアさんだけは誘われました。やっぱり、女性なら男性に誘われてみたいものです。


 センセはほかの女の子ともウォータスライダーを滑っています。私だけというわけにはいきません。ちょっと嫉妬はありますけど、私も滑ったので止む無しです。


「お嬢様」


 シルビアさんは私からみても本当にきれいな人です。

 センセとも仲がいいですし、背が高いのも羨ましいです。


 あ、でもおっぱいだけは勝ってますね。


「胸だけで女性の価値は決まりませんよ」


 私の考えたことが読まれました! なんということでしょう、シルビアさんはス●ンド使いの漫画家でしょうか!?


「あそこでペア滑りの写真が売っているみたいですよ」

「え!?」


 言われたほうを見ればそこには本当に写真が売っていました。

 私はセンセの方しか見ていなかったのでカメラがあったことに気が付かなかったです。


「ちょっと見てきますです!」


 写真がどんどん更新されていきます。

 たくさんの写真のある中で私は自分の髪を目印に写真を探しました。


 あ、ありました!


 写真をお願いしようかと思った時に衝撃的なことに気が付きました。


 ――私の顔が映ってません!


 カメラのほうを見ず、センセの胸に顔をうずめている私の姿がありました。

 ああ、なんてことをこんなチャンスなかなかないのに!!


 一生の不覚でしたっ!!!!

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