第50話 疑い ③

 カレンと一緒に生徒指導室へと向かっている途中で、水沢先生に声をかけている夕葵さんと涼香さんを見つけた。

 水沢先生に何かを訴えているようだが、水沢先生はあまり事の顛末を知らないみたいでおろおろとしている。


「水沢先生」

「高城先生!」「歩先生!」


 俺が水沢先生に声をかけると、涼香さんたちの方が俺の方へと寄ってきた。


「ここに来るまでにカレンから少しは事情を聴いてるんだが、観月が小杉先生に暴力をふるったって?」

「いきなり小杉先生が観月の腕を掴んだんです。それを振り払おうとしたら観月が突き飛ばす形になっちゃって」


 涼香さんが説明の捕捉をしてくれる。

 でも、いくら思いっきり突き飛ばしたからって大人の男性がそこまで吹っ飛ぶか? あの人の虚弱さにも原因はあると思うが。


「なんで、小杉先生が観月の腕をいきなり掴んだんだ?」

「話があるからって、観月も少し戸惑っていたら急に怒鳴りだして、観月も突然の事でびっくりしたんだと思います」


 あの小杉先生が観月に話? 

 今まで生徒と積極的に関わりを持とうとしなかった先生だ。

 球技大会の時も何かと理由を付けて職員室でずっとデスクワークに勤しんでいた。教職に就いたのだって第一志望だった法学部の試験に落ちたからだと聞いたこともある。


 色々なことは考えるが、なぜ今回の一件は担任である俺にまず話が来ないのか。


「どんな話かは分からなかった?」

「それが……」


 涼香さんの言葉がどこか歯切れが悪い。


「さっき、生徒指導室の前から聞こえたんですけど」

「なんて言ってた?」


「観月がカンニングしたって」


 涼香さんの言葉に一瞬、首をかしげる。


「は? なんだそれ?」

「わからないです。そんな言葉が聞こえてきて」


 観月がカンニングの容疑をかけられるなんてバカバカしいにもほどがある。

 それになぜ今なんだ。カンニングなんてものは現行犯でなければやったことなんて証明できはしないのに。


「そんな、沢詩さんが……」

「ありえませんから」


 水沢先生が思わずつぶやいた言葉を俺は強い口調で否定した。


「とりあえず、生徒指導室に行ってきます」


 俺はやや早歩きで生徒指導室へと向かう。

 そして、角を曲がり水沢先生の姿が見えなくなったところで俺は一気に生徒指導室まで走った。


 生徒指導室は学校謹慎の処分を下された生徒が主に使用する。学校謹慎は処分期間中は在学生との接触を禁止されるので必然的に校舎の隅に設置されている。だから俺が生徒指導室にまでたどり着く間に誰ともすれ違うことはなかった。


 部屋の中からは確かに人の気配はする。

 扉にも使用中という立札が掛けられており、中から聞こえてくる声に聞き耳を立ててみれば――


『ほら、先生方もカンニングことは謝れば許してくれるよ』


 声を聴いた瞬間に俺は扉を勢いよく開けた。


 ◆


 扉を開いた音に驚いた全員が俺の方を見るが、俺には観月しか見えていなかった。


 目に涙をためて、スカートを押さえている観月からは、ただ話を聞いているだけには見えなかった。カンニングの容疑がかかっていれば尋問にも近いか。


「観月……」

「歩ちゃん……」


 その声は涙声で、震えている。

 なんて声出しているのか。お前はもっと快活で元気な子だろう。


「……んんっ、ノックくらいしろ」


 俺が来たことに驚いていた小杉先生が俺を注意する。

 命令口調なのはそちらが年上だから別に俺は気にしませんけどね。


「沢詩……とりあえず腹減っただろ? もう昼休みだし、いったん外に出よう」


 泣きそうな観月に声をかけこの部屋からの退出を促す。


「なっ、まだ話を聞いている途中だ!」


 小杉先生が慌てて引き留めようとするが、飯すら食わせない気だったのだろうか?


「え? 食事くらいいいでしょう」

「ぐっ……まだ話は終わっていない」


 昼食を摂らせなかったとなればそれは「行きすぎた指導」や「不適切な対応」として捉えられかねない。だが、わずかに躊躇しただけで小杉先生は譲る気はなさそうだ。


「なら、この話の続きは俺が聞いておきますよ」

「お前はこの話の内容を知っているのか?」

「知りませんよ。担任の俺にも通達もせずに一体何の話をしていたんですか?」


 涼香さんから事情は聞いているが俺はあえてとぼけてみせる。

 静蘭では生徒指導を行う際には対象となる生徒の担任に対して通達を義務がある。小杉先生やここにいる先生方はそれを怠ったといってもいい。


「沢詩がカンニングをしていたと報告があった」


 小杉先生の中では観月がカンニングをしたということは決定事項らしい。


「してない!」


 観月は真っ向からそれを否定する。


「と、言ってますけど?」

「犯人はみんなそう言うだろう!」


 それはドラマや漫画の物語の中だけだ。

 大体やっていないのなら誰だってそう言うはずだ。そんなことが証拠になると思っているのかしたり顔になる小杉先生をバカバカしいと内心で思う。


「とりあえず先に昼食にしましょう。親御さんから食事すらとらせなかったのかって言われたくないでしょう? 話の続きは今日の業務が終わってからでもよろしいですね」


 疑問形だが決定事項のように俺は言う。


「ちっ……ああ……」

「いくぞ、沢詩」


 小杉先生らは一応渋々ながら了承した。

 俺はその間に急いで観月を生徒指導室から退室を促し、一緒に出ていく。

 生徒指導室から出ると、観月と一緒に社会科教員室にまでむかった。


 ……

 ………

 …………


「ま、これでも飲め」


 俺は社会科教員室に常備してある湯沸かしポットでココアを作り、観月に差し出す。俺も自分用のコーヒーを淹れる。

 社会科教員室には誰もおらず、俺と観月の2人だけだ。


「歩ちゃん……アタシ……」


 グスッと鼻を鳴らして弱々しく呟く。


「涼香さんから事情は聴いた。ったく、馬鹿みたいな話だよな。お前がカンニングだなんて」

「……信じてくれるの?」


 観月は目を見開いて驚く。

 何をそんなに驚いているのやら。


「当たり前だ」

「歩ちゃ、ん………う、ううぅう……ああ~ああぁぁああ……」


 俺が答えると観月は声を挙げて泣きはじめた。


「だ、ダメなのかなっ……ひっく、アタシみたいなのが努力したってこんな風になるのかなっ……」

「そんなことはないよ」

「で、でも、あの先生たちアタシがやったとしか言わなくて……誰も信じてくれなくて」

「俺は思ってない」

「髪を染めているからモラルがなってないって」

「俺は好きだけどなその髪の色」

「謝れば許してくれるよって……悔しいよぉ……あぁあああ……」

「謝るな。俺が絶対に助けるから、守ってやるから……絶対に見限らないから」


 ◆


 結局、観月は昼休みの間ずっと泣き続けていた。

 少し前に午後の始業が聞こえたが、今は午後の授業もこれでは行かせられない。目元が腫れあがっているし、今もすんすんと鼻を啜っている。

 ここまで泣いた観月を見たのは乱暴されかけて、助けたときだな。あの時もこうやってココアを渡した気がする。


「……ココア冷めたな。入れ直すか?」

「ううん、頂戴」


 冷めたココアを両手で持って少しずつ飲んでいく。


「……おいし」

「そっか。で、詳しく話聞かせてくれるか?」


 そこから観月はポツポツと話をし始めた。


 ……

 ………

 …………


「カンニングを訴える電話がかかってきた!?」

「うん。それで、今回点数が上がったのが証拠だって」


 何その超理論……それで観月が犯人ってあの人の頭の中は一体どうなってるんだか。あの人が法律関係の職につかなくてよかったと心底思う。

 それに、そんな話は職員室で話題にすら挙がっていなかった。今回の件も含めて連絡不足がありすぎる。


「あの人らは……」


 俺は呆れた声で同僚たちに何とも言えなかった。


「歩ちゃん。アタシは本当に……」

「そんなことは分かってるから。心配しなくていい」

「あ、……うん」


 心配そうな顔から今度は一転して、笑顔になる。


「カンニングって言ってもいろいろ方法があるしな。あの人たちはどう思ってるんだ?」

「それもわかんない。あの人たちアタシがカンニングしたってそう思ってるから」


 動機も含めて、証拠もない。

 偏見で判断した結果がこれだ。

 冤罪もいいところだな。


「カンニングの方法って言っても、他人の答えを見たり、シャーペンの中にカンニングペーパーを隠したり、トイレの中に答えを書いておくとか……」


 俺がカンニングの例をいくつか列挙していくと、観月からジドっとした目を向けられた。


「歩ちゃん詳しすぎない? もしかして……」

「やってないからな。例えだよ例え」


 これくらいの冗談が言えるくらいには、気分も落ち着いたみたいだ。


 観月を教室まで送り届けると、みんな途中から授業に参加した観月を訝しげに見た。事情を知っている、3人は心配そうに観月に声をかける。


 5時間目の授業は現国で副担任である水沢先生の授業だった。水沢先生は事情を察して何も聞かずに席へと付かせてくれた。


 授業を中断してしまったことを水沢先生と生徒に謝罪して、職員室へと向かった。


 さて、詳しい事情を小杉先生から聞かせてもらうことにしよう。


 ……

 ………

 …………


 俺が職員室に入ると小杉先生や剛田先生を含めた先程、生徒指導室にいた先生方が揃ってこちらを見た。


「高城。沢詩の奴はどうした」


 剛田先生が俺に観月がここにいないのに気が付き尋ねる。


「落ち着いたので授業に行かせました」

「まだ話は終わってないんだぞ!」


 剛田先生の怒声が職員室に響き渡り、職員室に残っている先生方の注目を集める。


「申し訳ありません」

「呼びだしてこい!」

「その前に、小杉先生にお聞きしたいことがあるんですけど」

「なんだい?」


 パソコンをいじりながら俺の声に耳を傾ける。視線すらこちらによこそうとはしない。自分のデスクワークに夢中だ。


「カンニングを訴える電話っていつかかってきたんですか? 俺そんな電話があったなんて初めて聞きましたよ。座間先生はご存知でしたか?」

「なんだぁ。それはぁ?」


 小杉先生の向かいに座る座間先生が俺の質問に初耳だと言う様子で応える。


「なんで沢詩が犯人だと?」

「決まっているだろ。今回の点数が前回と比較してありえない伸び方をしているからだ」

「その理論はおかしいだろぉ……」


 座間先生はぼそりと呟く。俺もそう思う。


「あの子が努力したとは思わないんですか?」

「ハンッ あの劣等生が?」


 心底馬鹿にしたような口調であの子をあざけ笑う。

 それでようやくこちらを見た。


「いいか? テストっていうのは本来今まで真面目にやってきた奴の努力が報われる物だ。たった数週間テスト勉強しただけで点数が上がるわけがないだろう。現になぁ、お前のクラスの生徒たちは俺の授業を真面目に聞かない奴ばかりだ、その所為で平均点は学年最下位だったぞ」


 要は自分は今まで努力してきた奴の味方だとでも言いたいのだろうか。あなたのその解釈は少し違うんじゃないですかね。


「あの子だって努力してましたよ?」

「どのあたりがだ?」


 この人、観月のこと嫌いなんだろうな。あいつが努力していないって決めつけてるみたいだ。


「今回のテストがその結果ですよ」

「カンニングしたからだろう」

「なんであの子がカンニングしたって決めつけんだよ!!!」


 俺の声に小杉や剛田、生徒指導の先生方が一瞬驚き目を見開く。他の職員室の先生も呆けて俺を見ている。


 俺も思わず出た大声に内心驚いていた。

 だが、言葉は止まらない。自分の中にある疑問を徹底的にぶつける。


「小杉先生、あなたの所にカンニングをしている生徒がいるって電話がかかってきたっていいましたよね。なら、その電話の内容は誰からだったんですか!?」


 小杉先生が俺から視線を逸らしながら応える。


「で、電話越しで声がくぐもっていたから分からない。名乗りもしなかったから」

「男か女もですか?」

「こ、声は男だった」

「じゃあその内容は?」

「か、カンニングしている生徒がいるって……それが沢詩だと……」

「それだけですか?」

「ま、間違いないって、隣の生徒をカンニングをするところを後ろから見たんだって!」


 小杉先生が少し声を大きくして答える。

 カンニングを現行犯で目撃したという電話がかかってきたと答える。だったら、それは……


「なら、その電話の内容は嘘ですね」


 小杉先生の言葉を聞いた時に俺はあることを思い出した。観月が犯人だと疑わない小杉先生の言葉によって観月への容疑はなくなった。


「なんで確定できるんだぁ?」


 座間先生が俺が言い切るように言ったことに疑問に思って尋ねる。


「席順ですよ。沢詩のテストの時の席順は一番後ろの席でした。両隣も女生徒です。ちなみに一番後ろの列に男子はいません。カンニングを現行犯で目撃したというのが男子生徒だと言うなら、余計におかしいですよ」


 なにせ、一番後方にいる観月を見るには後ろを見るしかない。テスト中も後ろを振り向けばそいつの方がカンニングを疑われる。


「カンニングというのはどういうことでしょうか」


 俺の声が学年主任である江上先生にまで届いたのか俺たちに尋ねる。普段とかわらずの穏やかな様子に若干息の飲む。


「あ、いいえ、これは、その……」


 江上先生の迫力に小杉先生が狼狽えて、言葉に詰まる。


「少し場所を替えましょうか……ああ、それと2年1組の授業を受け持っている先生方もついてきてください」


 江上先生と俺たちは隣にある小会議室に移動しで事情の説明を求めた。


「俺のクラスの生徒にカンニングの疑いがかけられたんですよ。その生徒は午前中の授業は受けずに話を聞かれていたそうです。けれど、その子はやっていないと必死になって訴えています」

「ふむ……では先ほどのが高城先生のその子がカンニングをしていないという言い分ですか」

「はい」


 江上先生は少し考え込むようなしぐさをしてから小杉先生を見やる。


「小杉先生はどうしてそのことを我々に報告しなかったのでしょうか?」

「え、ああ、はい。それがテスト最終日でして……」

「テスト期間中にこのことを話したら全校生徒に再テストを受けてもらう可能性があったからですか?」


 確かに学校の決まりでは不正が発覚した場合は新たなテストを受けてもらうことになっている。

 江上先生の言うことが本当なら小杉先生たちは自分たちが面倒なだけというだけで報告しなかったことになる。


「い、いいえ、決してそのような……」


 図星だな。

 江上先生もそのことは分かっていると思うが、人の内心など推理できても、証拠は存在しないのでこれ以上に追及はしないようだ。


「高城先生、その生徒は今どうしてますか?」

「今は授業を受けさせています」


 俺はあの時泣いていた観月を思い出す。

 正直、彼らに言ってやりたいことはまだまだあるがそれを飲み込んだ。今は観月の疑いをはらすほうが最優先だ。


「今までの話をまとめると高城先生の話の方に信用性はありますね」

「ですねえ……」


 江上先生と座間先生が俺の話を聞いてそう言ってくれる。


「で、ですがこの点数は明らかに……」

「勉強を頑張ったんじゃないの?」


 結崎先生も加わり観月を擁護してくれる。2年の教科を受け持っている先生方も集まり話を聞いていた。


「ここ数週間、彼女が休み時間も使って勉強していたのは私も見かけたことはあったし、分からない所をわざわざ職員室にまで聞きに来てたりもしてたわ」


 この言葉に決して少なくない先生が同意してくれる。


「そうですね。彼女に引っ張られたのか2年1組の彼女の友達もいつもより点数もよかった」

「髪の色などは校則の範囲ですし、生徒指導の皆さんが言うようにそこまで素行の悪い生徒ではないと思うのですが」

「そもそも、その匿名の電話というのもねえ……」

「最近は生徒の個人情報を聞き出そうとする電話もあるくらいですし。悪戯目的の可能性も……」


 そこから次々に観月を擁護してくれる声が挙がる。


 そして、俺が資料として今回の生徒たちのテストデータを提出した。

 観月がカンニングをしていたという両隣の生徒は観月より点数が低い教科もあり、訴えたが証拠としてはまだ弱いとのことだった。


 小杉先生の元にかかってきたという電話が観月がカンニングをしたという根拠になっている。


 互いに証拠を提出できない以上、カンニングをやっていた、やってないの水掛け論になっていた。


「俺としては沢詩に謝ってほしいですね」


 俺の言葉を聞いて小杉先生が俺を睨みつける。


「……高城先生」


 江上先生が嗜めるように言うが、それで納得できるわけがなかった。


「カンニングの無実を証明するというのは難しいことです。生徒を信じたいという気持ちは分かりますが……」


 俺の心情は証拠にはなりえませんからね。

 情けない。何とかしておいてやるってこれか……。


「はい……」

「とにかく、今後はカンニングを疑われるような動きは注意するように伝えておいてください。今回は沢詩さんを擁護する先生方もいました。彼女には敵ばかりではないこともしっかりと伝えてあげてください」


 その後、俺と江上先生で学校の電話のナンバーディスプレイをチェックし、通話履歴を確認した。

 そこには一件だけ“非通知”でかかってきている電話があった。おそらくこれが観月にカンニングの容疑をかけた電話だろう。


 小杉先生はその報告を怠ったということで注意を受けることになった。生徒指導の先生方もバツが悪そうにこの場から去っていく。


 ◆


 観月のカンニング疑いは完全にはらすことはできなかった。

 幸いなのはカンニングことは生徒の間で噂になっていない事だろう。もしそんなことが広まれば観月の今後の学校生活は暗いものになっていたはずだ。


 SHRが終わったタイミングで俺は観月を社会科教員室へ呼び出した。


「観月すまん! お前への疑いを完全にはらすことができなかった」

「……」


 観月は何も言わない。もしかしたら何も言えないのかもしれない。だが状況を考えれば後者の可能性の方が高い。


「……そっか」


 長い時間がかかって観月はそれだけ呟いた。


「本当にすまん」

「謝んないでよ……」

「……お前には今後、疑われるような行為は控えるように伝えろだと」


 観月のテストが無効になるということはないし、何かしら処分があるわけでもないのだが、臭いものに蓋をしたようで気分が悪い。

 何ともはっきりしない終わりだ。

 だが、これ以上進展があるとも思えない。


「勉強をこれからもがんばって、点数上がれば見直してもらえるかな……」


 観月のその言葉を聞いて俺は驚いた。


「次のテストであいつら全員見返してやる!」


 俺がなんて励まそうかと思っていたら、この子はもう次の事を考えている。そんな前向きの態度にむしろ俺が救われた気がした。


「ん? なあに? もしかしてもう学園に来ないかと思った?」

「……実は少し」


 この年頃はデリケートで、傷つきやすい。

 また以前のように学校に行かなくなるなんて思いたくはないが可能性として考えていた。


「まあ、疑われるってことはもしかしたら、アタシもテスト中にそんな怪しい動きしたかもしれないし。次からは気を付けるよ」


 なんで俺が観月に気を使われてるんだろうな。


「すまん」

「3回目! 次謝ったら怒るから」


 う……何も言えないからか謝る事しかできなくなってる。


「それにしても今回は本当に頑張ったんだな」

「でっしょ~。涼香たちと一緒に勉強したらここまで点数が上がったんだぁ」

「まあ、元が低いからようやく並みになったって感じだけど」


 ほめ過ぎて調子に乗るといけないので釘を刺しておく。


「そこはもうちょっと褒めてくれても……」

「観月は褒めたら何かしらしょうもないミスを犯すからな」


 包丁で指を切った合宿の時みたいに。


「だから、これからもがんばれ、俺だってできる限りのことはする」

「うん!」


 話がひと段落つくと社会科教員室の部屋がノックされた。


「はい、どうぞ」

「失礼します」


 入室してきたのは涼香さん、夕葵さん、カレンだった。

 俺と向かい合って話している観月を見てほっとした。


「あの……観月はどうなるんでしょうか?」


 観月の事が心配で来てくれたみたいだった。


「今後は紛らわしい行為は慎むようにというだけだよ。それでこの話は終わり」

「ムゥ……観月がするわけないないです」


 観月と仲のいいカレンはあまり納得していないみたいだ。


「ありがとーカレンー」


 立ち上がってカレンを抱きしめに行く。


「観月が一生懸命頑張ったのに……」


 涼香さんが悔しそうにつぶやく。

 今回彼女が観月に勉強を教えたのだ。観月の努力を一番よくわかっている人間だ。それを否定されれば悔しくもなるだろう。


「涼香もありがとね。次回はもっといい点とって見返してやるって決めたから。良かったら……また勉強教えてもらってもいい?」

「っ……もちろん」


 どうやら今回だけじゃなくて、これからもい月は涼香さんに勉強を教えてもらうことになるそうだ。


「私も何か手伝えることがあれば手伝うぞ」

「ん、ありがと、夕葵」

「とりあえず、沢詩の話はこれで終わりだ。気を付けて帰れよ」


 そう言うと4人は教員室から出ていく。


 俺は自分のデスクに向き合うと机に突っ伏した。


 今回の一件は自分の無力さを感じた。

 だからと言って、俺にできるのは探偵のように犯人を捜す事でもなく、今後このようなことが起こらないよに努めるくらいだ。


「あー……悔しいな……」


 あとひと月もすれば夏休みが始まる。



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