第21話 女子トーク②
「はい、じゃあ今日は解散。明日からまたいつも通り授業があるから気を付けて帰るように」
オリエンテーション合宿がようやく終わった。
ホント内容の濃い2日だった気がする。
ものすごく疲れた、帰ったらすぐに寝よう。
――ああ、でも昼飯と買い物行かないと。
生徒たちはまだまだ元気そうだ。これからどこかへ寄っていくかなど楽しそうに昼からの予定を話し合っている。
生徒たちの様子を見れば、どうやらこの合宿で仲のいい友人を見つけることができたようでこの合宿は成功だったと言えるだろう。
『センセ……』
いかんいかん、カレンのことは忘れろ。
「では、今日はお疲れ様でした。高城先生」
「お疲れー」
「では高城先生、また明日よろしくお願いします」
先生方も荷物を運び帰っていく。
生徒たちを見送り寮の門を閉めると声が聞こえてくる。
「じゃあ、一度家に帰ってからね、涼香」
「わかったわ」
観月たちもこの後にどこかへ行く予定みたいだ。
俺も俺の予定を消化すべく車へと向かった。
◆
涼香
「で、なんでここにカレンもいるの?」
私たちは一度帰宅して私服に着替えてから、近くのファミレスにまで足を運んでいた。昼食というにはすこし時間が遅いからなのか店内のお客さんは多くはない。
その方が私たちとしては都合はいい。
観月の話を聞くにはあまり大きな声では話せないことだから。
もちろん内容は高城先生に関る事だ。どうやら観月は既に入店しているみたいでメッセを飛ばしてもらいその席へ向かう。
そして観月の隣になぜかカレンがいた。
ゆったりなワンピースにストールをかけている。それがまたカレンの妖精のような容姿によく似合っていた。
どういうことなのかと観月を見る。
けれど、大体の理由は察している。カレンもきっとそうなのだろう。
観月もカーディガンとブラウスにスカートという可愛いカジュアルコーデだ。ワンポイントとしてキャスケットが可愛らしい。
改めてライバルたちのレベルの高さに少し落ち込みながら、私は席に着いた。
ドリンクバーでそれぞれ飲み物を手元にまで持ってくる。
アイスティーを一口飲んで喉を潤してから観月に尋ねる。
「……とりあえず観月。まずは先生との関係から教えてくれる?」
「ん、わかった」
……
…………
……………
「………へえ、同じアパートに住んでいて、先生が大学生の時に家庭教師してもらってたんだぁ」
どうしよう。思っていた以上に観月は強敵だ。
――なに? 同じアパートっていうだけでも羨ましいのに、大学生の頃の先生まで知っていて家庭教師って
「ムゥ、羨ましいです」
カレンも私と同様な意見を持っているようだった。
「静蘭に入学してからはあまり部屋に入れてくれないけどね」
なんか毎日のように先生の家に遊びに行っていた言い方だ。
先生の部屋。いったいどんな部屋だろう。
綺麗にしているかな……男の人の部屋っていっぱい物が散らかっていそうだけれど、掃除とかしてあげたい。料理だって。
でもそんな、通い妻みたいなこと……
「涼香ー」
「はっ」
いけない、ちょっとトリップしてた。
「なんでみんな歩ちゃんの事好きになるかなぁ。かっこいいのは分かるけど」
観月は机に突っ伏して嘆く。若干惚気が入っているのは片思いゆえだろう。
まあ、それには私も完全に同意。
「涼香とカレンは、いつくらいから意識し出したの?」
「私は乱暴な先輩の告白を断って暴力されそうになったのを助けてもらったからかな」
「私は、最初に優しくしてもらってから特別な先生だったのですが、いつの間にかセンセを好きになってました」
「何、その少女マンガみたいなの」
その気持ちは分かる、我ながらベタだ。
「で、どうする。これから……」
これからというのは、高城先生とのこれからの事だろう。
もちろん私は諦める気なんてない。
諦める気だったらここには来ていない。
「わ、私は、観月と涼香とは仲良くしていきたいって思っています」
「カレン……」
どうやらカレンは私たちの関係性を案じてくれたらしい。このまま
この合宿で確かに仲良くなれたとも思っているし観月もカレンも私は嫌いではない。
「……上手くいくかなぁ。正直に言ってアタシかなり嫉妬深いよ? 昔、歩ちゃんが知らない女を部屋に連れ込んだのを見た時には3ヶ月くらい口きかなかったし」
「何それ!?」
「詳しく教えてください!」
え、先生って彼女いないんじゃなかったの。
「見たのは一度だけ、それが彼女なのかは分からないけど、笑顔で歩ちゃん部屋に招いていたし」
観月は頬を引くつかせながら、メロンソーダをすすった。
「どんな女の人!?」
……私もなんかものすごく腹が立ってきた。
「後ろ姿しか見たことないけど。あれは絶対美人だね」
そういう観月の笑顔は引き攣り気味で、カレンはニコニコ笑顔でありつつもイラッとようで額に青筋を浮かべていた。
私は一体今どんな顔をしているのだろうか。
「ひぃ! すいませんでしたーー!!」
と私たちの横を通り過ぎた店員さんが持っていたグラスを思わず落としそうになる。あぶないなぁ。
「ムカつくわね」
「そうなんだよっ! こっちの気も知らないでいちゃいちゃ、いちゃいちゃ……うちのアパートをホテルと勘違いしてんじゃない!」
「「ほ、ホテル……」」
あ、今度は泣きたくなってきた。
そうだよね、先生だって大人だし……それくらい経験があったって。
「あ、ゴメン。デリカシーなさ過ぎた」
「観月、私もゴメン羨ましいとか言って」
近すぎるが故に見たくないものも見えてしまう。
そんな心情を測れなかった自分の方がデリカシーがなかった。
「……で、改めてこれからなんだけど、どうしていく?」
「私はセンセが好きです」
「アタシも諦める気はないし」
「それを言うなら私だって!」
私たちはじっとにらみ合う。
誰も譲る気なんてない。そんな覚悟が伝わってくる。そんな覚悟が頂点に達したのか。
「「「……ぷっ」」」
私たちは吹き出してしまった。
あー、なんだろう。同級生には誰にも言うことができなかったことだから、それが話せてすっきりしたという感じだ。
「とりあえず、各々アプローチはしていくってことで」
「先生が誰を選んでも恨みっこなしです、負けません!」
「アプローチかぁ……私、先生に一度告白してるしどうしようかなぁ」
私のこの発言にギョッとした2人は私に視線を送る。
ふふん、少しリードしているみたいでいい気分。
「まあ、忘れられちゃってるんだけど」
「はあ!? 涼香の告白忘れるってどういうこと」
「どういうことですか?」
この子達に言うのは先生は許してくれるよね。
「先生ね、2月14日の記憶がないらしいのよ」
そこから私は先生の記憶喪失について、知っていることを2人に話した。
「……知らなかった。どうりでホワイトデーのお返しが無いはずだ。毎年くれてたのに」
さりげない観月の自慢は脇におく。
羨ましいとかは思っていない。思っていない!
「オー……」
カレンも母国語の発音で驚いている。
「いつ知ったの?」
「入学式の日、対面式の後に告白の返事を聞きに行って」
「ぐっ……」
「ムゥ……」
“告白の返事”という言葉に観月とカレンは僅かに動揺する。
仲良くしていきたいという思いもあるけれど、私は一歩リードしたというように思えた。
「忘れられてたんだけど」
「それは……」
「なんというか、御愁傷様です」
うう、そんな本当にかわいそうな人を視るような目で私を見ないでほしい。
忘れられていたのは確かにショックだけど、まだ希望はあるってことなんだからね!
それに私にはまだ言っていないことがある。けどそれを言ってはダメだ。
ズルい、卑怯な事だから。絶対誰も許してくれない。もしかしたら先生だって……。
「わ、私だって告白しました!」
「え?」
「いつ?」
突然のカレンの告白の告白に私たちは思いっきり動揺した。ここにも行動力がある人がいた。
「今日です」
「「今日っ!?」」
さすがにそれは驚いたけれど、すぐに冷静になった。
このタイミングで言うってことは……観月もそのことを察したのか詰め寄るのをやめる。
けれどもカレンは何ともない様子だ。
「……断られましたけど、断られてません」
「………どゆこと?」
「先生の返事は聞いてないです。諦めろと言われましたけど「諦めません」って言ってやりました」
この子がもしかしたら一番ハートが強いのかもしれない。
私なんて半日引きこもっていてからじゃないと行動に移せなかったのに。カレンは昨日の今日どころか、今日の今日でもう前を向いている。
――こんなかわいくて一途な子に思われていたら、もしかしたら先生だって……
「それに、センセは一時の気の迷いだっていうんです」
「何それ失礼すぎる!」
「さすがにそれは……」
そこからしばらく高城先生の愚痴を私たちは言い合い始めた。
特に観月からの話はプライベートの先生を知ることができて、貴重な情報収集ができた。
けれども観月の愚痴は嫌悪なんてものは感じられない。
身近な家族の愚痴を言うようなそんな感覚だ。聞いていても仲のいい家族って思えてしまう。
「アタシもカレンに聞きたいことがあるんだけど」
「なんでしょう?」
「あの金髪メイドさんと歩ちゃんはどういう関係?」
あ、そういえばカレンの家に雇われているメイドのこともあった。先生は大学の後輩だって言ってたけど
「大学の後輩だと言っていました」
「先生ってどこの大学でてるの?」
「律修館大学だよ」
律修館大学と言えば、このあたりではなかなかの名門校だ。
先生はそこの出身なんだ。
というより、今私だけがその情報を知ったのが少し悔しいし、羨ましくもある。
「大学の後輩だけ?」
「シルビアさんはありえないし、想像すらしたくないって言っていました」
想像すらって……私なんて最低1日3回は妄想しているというのに。
でも、そこまで言うのなら安心してもいいのかな。
「というより不思議な巡り合わせだよね」
「ン?」
「どういうこと?」
観月の呟きに、私は暗い思考をやめて耳を傾けた。
「だって、同じ人を好きになった人と同じグループになるなんて、どんな巡り合わせなんだろうね」
「でもここには
「もしかして夕葵も好きだったりして……」
「「まっさかー」」
私たちは笑い合った。
その後でみんなでデザートを食べることになった。
私たちには同じ人を好きだと言う共通点がある。誰にも言えないような秘密を共有している。
だからこそ、彼女たちに対して罪悪感が私の中にはあった。
私は自分の唇を指でなぞる。
私だけの秘密。
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