第11話 合宿

 4月の行事として、静蘭学園ではオリエンテーション合宿というものがある。

 生徒間の交流を目的とした合宿で、合宿場所は学園敷地内にある学生寮を使用する。学生寮は遠方から通っている生徒のために設けられたものだ。


 今は、その説明を生徒たちに行っているところだ。


「歩ちゃ……いたっ」


 俺の事を先生と呼ばない不良生徒観月を、生徒名簿で軽くはたく。


「いたーい体罰だぁ」

「お前のお母さんよりある程度の体罰は許可貰ってる。だから合法だ」

「何それ! 初耳なんですけど」


 初めて言いましたからね。

 いやー、観月相手だと気が楽でいいわ。


「で、何だ?」

「メイク道具の持ち込みは?」

「別にいいだろ。というより律儀だなそんなこと聞くなんて」


 いまどきメイクをしない女子高生の方が珍しい。ナチュラルなメイクの生徒が多いが観月のようにギャルメイクまでしている女子もいる。学園はそれほど校則は厳しくないため容認されている。

 一部、快く思っていない先生もいるみたいだが、俺は別にかまわないと思っている。


「先生! ゲームはいいですか!?」

「それはダメだ。一応、学校行事だぞ」


 といっても教師に隠れて何かするのは、学生の醍醐味であり、規制したって無駄なことなのだ。見つけたら軽く注意してやればいい。


「お菓子はー?」

「夜、喰ったら太るぞ」

「そういうこと言わないでください! この日だけは特別なんです」


 どうせ毎日喰いまくってんだろう。教室に入るとよく甘い匂いがするぞ。


「で、夕飯は自分たちで作るんだが、カレーでいいよな?」

「せっかく女子がいるんだから、もっといいもん食いたーいー。水沢先生の料理喰いたいー」

「ええ!? 私ですか?」


 男子生徒に名指しされ、困る水沢先生。

 水沢先生って、確か実家暮らしで弁当もお母さんが作っているって聞いているが、果たして料理はできるのだろうか。


「私は、それほど料理できないので」

「それに学校行事だって言ってるだろ。みんなで準備するんだよ、それに複雑な料理は却下だ。女子が全員料理できると思っているのか?」


 俺の発言にカチンときたのか数人の女生徒が反論する。


「先生、今のは失礼じゃありませんか?」

「そうだよ、うちらの女子力舐めないでよね」


 口だけは達者だな。


「なら、聞くが。この中で一から料理を作ったことのある子は手を挙げろ。無論、家庭科の授業は除くものとする」


 そう言って手を挙げたのはたった4人だ。

 さらに言えば、先ほど俺に反論した女子は含まれていない。

 挙げた人は観月、夏野さん以外に後は料理部の女子だけだ。


「たった4人に料理、全部任せるわけにはいかないからな。失敗のリスクが少ないカレーにする」

「なら、BBQ《バーベキュー》は?」

「予算オーバーだ」


 合宿の食費は学園が負担してくれるがそれほど多くはない。

 BBQなんてものは完全に予算を越えてしまう。


 なんやかんや言いつつも、オリエンテーションは進んでいく。


「風呂の時間なんだが、去年みんなも宿泊したから、知ってると思うが風呂は男女共用だ」

「混浴っすか!?」

「共用だって言ってんだろうが」


 相沢よ。そういう発言するからお前はモテないんだ。

 見ろ軽蔑するような女子の視線を。


「で、どっちが先に入る? これは女子が決めてくれ、男が使った風呂に入りたいか、君らが使った後の湯に男に入られたいか好きな方を選べ」

「なんで、そういう言い方するんですか!」


 男子はどちらがいいか葛藤していたが、女子たちの満場一致により男子が使用後に風呂の湯を張り直すという風で決まった。そうなると思ってたけど。


「あとは部屋割りなんだが、適当に決めておいたから見ておいてくれ」


 部屋割りなんていう物は所詮、建前だ。

 夜遅くまで友人の部屋に遊びに行ったりするに決まっている。

 一応、建前ということで決めておかなければならなかった。さらに学生寮にはそこを利用している生徒もいるのだが、土日は基本自宅に帰省している。遠方からきている生徒のみが残っている。


 プリントを前列から配布していくと、あちらこちらから声が挙がる。

 部屋割りの人数は1部屋に最大4人まで。

 そこからグループとなりその日を共に過ごす。あとはそのグループごとに別れて作業をしてもらう。


 ◆


 カレン


「えっと私のグループは……」

「カレーン、アタシと同じだね」

「キャッ!」


 私をぎゅっと抱きしめるのは、観月でした。

 ハグはよくしていて、今でも挨拶としてしているのですが、いきなりだったのでびっくりしました。


 そういえば、前にセンセにしたらものすごく怒られました。

 親しい人や大切な人との間では良いと聞いていたのですが、日本では痴漢やセクハラという物に間違えられるそうです。あとセンセには立場があるそうです。


「ヨロシクー」

「お願いします」

「あとは、夏野さーん」


 何ということでしょう。

 私が知る中でも大和撫子を体現した女性である夏野 夕葵ゆずきさんと一緒でした。きりっとした目付きが格好いい女性です。


「私と一緒ね。合宿ではよろしくあと一人は……涼香ね」

「呼んだ?」


 夏野さんの後ろからひょこっと顔を出した女性は、師匠の娘さんである桜咲さんでした。

 師匠が言うにはよく修羅場を手伝ってもらっているということですが我らの同志ではないそうです。


「よく一緒になるわよね」

夕葵ゆずきと今更一緒に親交を深めてもね」


 夏野さんとは小学校のころから一緒で親友同士だそうです。

 私は小さいころからずっといろいろな所を転々としていたそういう存在には馴染みありません。少し羨ましく思えます。


 それはともかく4人揃いました。ということはここにいるメンバーが私のグループなのです。

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