第08話「継ギ紡ガレシハ蒼キ王」
SCENE8-1≪継王≫
瞳が
常識を超えた理によって、喰らいつくした世界が
「――木藤君、なにを、やったの?」
ユイが少しだけ不安そうに膝の上から問いかけて来た。信じてはくれている。彼女にも
つまり宗次郎とユイはザナクトを通じて接続されているが。だからと言って全てを共有出来る訳ではない。言葉を必要としない理解、それは人間には過ぎた力だ。
「前に進むためには、代価が必要なんだ」
だから、宗次郎は口を動かし、あえて操縦桿を操作して。
だが、エネルギーゲインは減っていく。現時点で-35%。 たとえ無限の力を持っていたとしても。
だから、間違いなく掛け替えのない思いを代価に、己の成すべきことをする。
「生きているのなら、いつか死ぬ」
何も燃やさずに。何かを失わずに生きることは出来ない。それ以上の物を得ることは出来ても、それは絶対の理屈。故に命は輝くのだ。
「だから全能の力を持った存在が、生きようとした時点で全ては滅ぶんだよ」
すべての選択肢は過程を経ずに選ばれて終わってしまった。
それはただ本のページの終わりだけをめくるように。
あるいはセーブデータを改変し、ゲームをプレイせずにEDを迎えるように。
「けれど、それじゃあ。あまりにも悲しすぎるだろう」
人がいつか滅びるとしても、全ての道筋が照らされたとしても――
それでも、その道筋は誰かが歩む事に意味があるのだから。
だから
全ての結果を出す過程を描かれ、滅びた世界。その余白から可能性をかき集め、そして世界を紡ぐ。文字通りの神の所業を、人の手で成すために。
そして宗次郎は願ったのだ。広兼由依とある世界を。ただ幸せに暮らしましたという結果だけではなく、共に歩み、共に笑い、共に泣き、共に傷つくであろう旅路を。
だから継いで紡ぐ為に、宗次郎は
「……そう、だね。ボクも。そう、思う」
全能に限りなく近づいた今だから分かる。自分はその力に振り回され、世界と共に燃え尽きて。それでもなお、ただ、それだけを理由に灰の中から歩み出したのだと。終わってしまった癖に、それでもと、もう一度を望んだのだと――
『許せる、か…… 許せる、ものかっ! お前のような、理不尽をっ!』
『理不尽に、奪って! 理不尽に、蘇って! 何故お前がっ! お前だけが!』
詳細は分からないが、彼もまたR粒子炉の研究者なのだ。ミサイルの代わりに何らかのシステムをあのペイロードの中に仕込んでいたのだろう。
「あんたはぁぁぁっ!」
『木藤、宗次郎ぉぉぉっ!』
何もないここで、猛り狂う
直撃すればそこで終わり。ブレードイーグルの居合切りに匹敵。あるいは凌駕する程の威力。特に先端に込められた圧倒的な運動エネルギーは
回避は不可能。現状において翼を広げた
ならば、何が出来るか?
「ユイ、作業完了まであと何パーセントだ??」
宗次郎が左手でキーボードを叩いて表示したウィンドウをユイが確認する。
「エネルギーゲインの隣? タスク進捗56%って出てる」
「ゲインは?」
「-35%だけど、これで勝てるの?」
それならば、どうにかなる。少なくとも今、
「俺は、あの人を―― 信じる!」
だが、そこにたどり着くには、まず
絶対必死の
死人の思いは、生者が決める事。
ならばこちらの勝利を望んでいると思った方がずっといい。
2機の
誰もそれを見ることは無く、けれどそれは間違いなく区切られた世界の、あるいは可能性同士が己の存亡をかけて争う決戦であった。
『死んだなら、死んでいろっ! 神ならば、神らしく振る舞えっ! 』
「そんな風に、縋って…… 貴方はっ! ユイ、残りは?」
「タスク78%、ゲイン-48%」
薄れていく、薄れていく、ユイを忘れた時も、こうだったのだろうか?
『それだけの力と英知を、お前は得たのだろうっ! ならば、それを―― それをもって何故! 最初から世界の全てを救おうとしなかった! 世界を滅ぼせるのなら、世界すら救えただろうに!』
全能の力を、人の心で振るう奇跡が成せれば。それこそあらゆる不幸を、あらゆる矛盾を消して成しえるかもしれない。だが、しかし――
虚空の冷たさが、全ての責任を投げつけてくる目の前の男の言葉が、宗次郎の心を切り裂いていく。
ああ、けれど――
胸に抱くユイと、飲み込んだ世界の熱が彼に力を与えてくれる。
だから、不敵に笑って叫ぶのだ。
「うるさいっ! ただのガキに、そこまで大人が、甘えるなよぉっ! 神を望むな! 救ってくれと情けなく縋るなっ! せめて手を貸す程度の、甲斐性位は見せろよっ!」
無責任を吐き出す
そう理解出来たからこそ、そこで得た英知を代価に宗次郎は人として蘇り。そして王として、責任を取ることを選んだのだ。
それは全能に近い、今だから分かること。けれど全部捨てた事、今はただ。木藤宗次郎として、ユイと生きる為にやらなければならない全てをこなす。ただそれだけ。
神は世界を救えない。いつだって世界を紡ぐのは人の仕事なのだから。
ほんの僅かに
「ああ、けど。見せてやるよアンタに! 俺なりの責任の取り方って奴をな!」
『何を、するつもりだっ! 木藤宗次郎っ!』
「ゲイン-54%、タスク98、99%――」
ユイの声が100を刻む前に、虚空に
「
世界が
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