《三章》
トゥルルル〜トゥルルル〜……。
シロヤギさんからお手紙ついた
クロヤギさんたら読まずに食べた
仕方がないのでお手紙書いた
さっきの手紙のご用事なあに?
「さてと、そろそろ電話でもしてあげようかな」
「ご主人様直々に……」
「私と話したがっている頃だと思うんだよね。少し楽しませてあげよう」
鼻歌を鳴らしながら相手が出るのを待っている。やけに気分が良いようだ。どうしてだろう。そんなに話すのが楽しい相手なのか。
「あ、もしもーし。久しぶりだね。え? そろそろ私が恋しくなってきたんじゃないかと思って、電話してあげたんだよ。そっちからは電話できないからね。できたとしても出ないからね。嬉しいでしょ?」
ああそうか。相手は警察だ。
「ふふ、相変わらず元気だねぇ。あ、そういえば……彼らは戻ってきた?」
ニヤリと笑って、ボタンを押した。声がこちらまで聞こえてくる。
「……まさか」
「あはは、私服で来たってすぐに分かるよ。潜入捜査ってやつ? ん、ちょっと違うかな? まぁなんでもいいか。結局は、この場所を楽しむお客様になってしまったんだから。ふふふ……」
クルクルと指にコードを巻きつけた。
「確かにこちらから二人……行かせたが」
「次はどうするのかな。また遊びに来る人を増やす?」
「内部の確認ができないのであれば……これ以上人員を増やすわけにはいかない」
「あれあれぇ、声に元気がないね? この前の威勢はどうしたの」
ご主人様に合図を送られた。内容は気になるけど、すぐに取りに行かなければ。
離れても音が大きかったのか、会話は聞こえてきた。
「うーん、でも私は面白い君達がけっこう好きだからね。じゃあ次は必ず帰す、という約束で招待してあげてもいいよ」
「……どういう、ことだ」
「ふふ……来るなら元気な子の方がいいかもね? 疲労しているとその分癒しを求めやすい。特に君は声だけで人を威圧しそうだ。そんなんじゃ部下はついてきてくれないんじゃない? はは、まぁ刑事さんのやり方は私には分からないけどね。あ、貴方の顔を一度見てみたいなぁ。一回会ってお話しませんか?」
「奇遇だな。俺も一度あんたとは面を合わせて話してみたかったんだ」
「そうそう、そうこなくっちゃ。その日は私が案内してあげるよ。そうだなぁ四人ぐらいまでがいいかな。あんまり多いと待遇に差が出てしまう。一人一人に最上のもてなしをしたいんだ。それと、あまり多くの場所に案内すると君達が帰れなくなるかもしれないから、見せるのは裏側の一部だよ」
「やっぱり怪しいな。クスリでも使ってるんじゃないのか」
「まぁまぁ。百聞は一見に如かずって言うでしょ。来てみなきゃ分からないよ。そうだね、いつにしようか……」
ご主人様が電話を置いたタイミングで近寄る。
「こちらのものでよろしいでしょうか」
「うん。久々に試飲してみようか」
グラスに注いだ紫の液を舌で転がしながら、ふふと笑った。
「ジン、今度わんわんに猫さんが案内してあげるんだ」
「わんわん……」
ご主人様は警察の人間と仲が良いのだろうか。それとも頻繁に連絡が来るほど疑われている……。
「ここに来て何を見せるのですか」
「四番ゲートから入場させようか。それからゲストルームに呼ぼう。それぐらいかな」
「ご主人様以外に初めて入ってから、外に出た人になりますね」
「いや彼らは完全には帰れないよ」
「……そうですね」
「そういえばジン、このワインの出来はどうかな。プレゼントしようと思うんだ」
「糖度、渋味、一致率九十六パーセントで、高い評価を受けた二十六年のものと似ています。評判を検索した限りでは満足度が高いので、出来は良いものと言えるのではないでしょうか」
「……ふ、ははっ」
笑ってから、頭を少し雑に撫でられた。やっぱり今日のアーネスト様は楽しそうだ。
2
ネットを中心に流行ったものは、人がいなくなる遊園地だった。
これだけ聞くと都市伝説のようだが、今では馬鹿げた噂話では済ませられないところまで広がり、実際に失踪者は出てきている。
場所はすぐに特定できた。偵察に二人ほど行かせたのだが、入場までは滞りなく来ていた連絡が入ってから途切れた。それからいくら待っても、二度と通信が繋がることはなかった。
どうしようかと迷っていたら、あちらから連絡が来た。男というのは分かったけど、年齢を掴めない声だ。話し方も飄々としていて、今まで会ったどの人物にも当てはまらないような奴だと感じた。
行くのは自分か? 正直信じられないけど、あっちは帰してやると言ってるし。今まで電話で話してきたのは俺だから、そこは責任持って行くべきだろうか。ここの場所が一番気になっているのも……恐らくは自分だ。
結局、自分と上司、部下を連れて三人で行くことにした。当日リムジンが停まっていたから何事かと思えば、ここからもうもてなしは始まっているらしい。警戒しながら車に乗り込んだ。
「俺が選ばれるなんて思ってなかったすよー」
「遊園地なんて……」
「はは、田所さんには似合わないっすね」
「……そうだな」
「あはは、先輩も顔硬いっすよ。乗り気じゃないんですかー?」
「お前なぁ、遊びに行くんじゃないんだぞ」
「分かってますよー。チョーサっすよ、チョーサ」
「まぁまぁ……気を張りすぎるのもよくないから。とりあえず着くまではのんびりさせてもらおう。敵は逃げる気もないようだしね」
「……すみません。少し神経質になってました」と、一応言っておいたが、用心するに越したことはない。全てに疑いをかけるつもりだ。どんな罠で今まで騙してきたのか絶対に見抜いてやる。
距離が遠く、三人がうとうとし始めた頃に、窓の外が真っ暗になった。もう内部に入ったのだろうか。
暗いままの場所で車は止まり、扉を開けられた。車の前には数人の男が立っている。警備のものだろうか、微動だにしない男達の横を歩いて進む。一つだけ扉があった。
「ここでいいのか?」
「関係者以外立ち入り禁止感がぱないっすね」
「一般と同じでどうする。俺達は楽しむために来た客じゃないんだ」
「えぇー、でもいきなりキャラクターの頭部とか出てきたらショックっすよー。おじさんが入るとことか見たくないなぁ」
なんでこいつを連れてきてしまったのかと考えたけど、一番ストレスがなさそうといった理由を思い出した。この軽さなら深入りせずに生き延びれるかもしれない。そういう意味では、俺の方が適任じゃない。
言い合っている間に、扉が開いた。
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