(2)

「この中から見つけたのか? 運が良いな」

ネックレスとか腕輪とか、色々紛らしいのもあったのに。

「台に置いてあった」

「え……まぁいいや。で、最後のは黄色か」

「お金だからってこと? なーんか皮肉っぽいわね」

「とりあえず七つ揃いましたよ。最後はきっと、さっきの部屋ですね」

一応おもちゃみたいな剣を手に持って戻った。王子様は茨を切り裂いていったみたいだから、真似して扉に当ててみる。キーンと乾いた金属音が響いた。……別にカッコ良く切れるとか思ってなかったけどさ。ちょっとアホみたいじゃないか。

「七個、持ってきたよ」

ルリカが宝石を見せると、キィィンと音がして、すんなり扉が開いた。

「王子様、いらないみたいです」

「ふふ、結構様になってたけどね。まぁ剣で切るとか思いつかなかったら詰むかもだし、難易度が高くなっちゃうもんね」

中も同じく石で作られた部屋だった。真ん中に噴水のようなものがあるけど、水は流れていない。小さな台座がその周りに七つ置かれていた。よく見ると文字が書いてある。

「美?」

「こっちは無垢ね」

「愛……」

「とりあえずイメージで置いてみましょうか。分かりやすいのは……やっぱり黄色は金で合ってるのかしら」

箱にある宝石をそれぞれ取り出す。

「この中だったら紫が美……かな」

「これはアメジストかしら。真実の愛みたいな意味があったと思うけど、白雪姫のお妃様から貰ったから、美でいいんじゃないかしら。あの人そればっかり気にする人でしょ」

試しに台に置いても、何も起こらない。自信がないまま次のを取り出す。

「白が無垢っぽいけど、ちょっと捻るのかしら。やっぱり光が白?」

「この水色って、あのクマの中から出てきたんですよね。少女の所有物……少女が無垢の象徴……にならないですかね」

「そんなにややこしいのかしらねぇ。いくらでも理由なんてつけられそうだけど。それは一理ありそう」

ルリカはじっとピンク色のを見ている。

「ピンクか、なんだろうな」

「……かわいい」

「ははっ、そうだな。この中なら……愛かな」

残りは欲望と嫉妬と光だ。

「欲望は迷うわね。赤か黒だと思うけど」

「一緒に出てきたからなぁ……どちらかというと欲望ですかね」

「嫉妬って、燃え上がるものってイメージない? おっさん達のは黒でいいわよ」

「じゃあ光が白。これで最後です」

ルリカが最後の一つを乗せた。その瞬間、宝石がそれぞれ光りだした。真っ直ぐ一本の線になり、奥の扉を示している。

「正解……なのかな?」

顔を見合わせながら、三人で手を繋いで扉に向かう。

そこは柔らかい空間だった。壁がふにゃりと曲がった白い部屋。芝生の上には白い小さな花が咲いていて、部屋全体に雲みたいなもこもこしたものが浮いている。真っ白なブランコもあって、よく分からない場所だけど、平和な空間ではある。

これで正解だったのかと問おうとしたら、スッと少女が現れた。表情が晴れやかだ。

「ありがとう……それぞれがあるべき場所に戻ったわ」

部屋の隅で誰かが起き上がった。少女がこちらに駆け寄ってくる。

「待ってよ、私は……私は起きたくなんかなかったわ! 思い出すぐらいなら忘れていたほうが……眠っているほうが幸せだったのに」

これは部屋でぐったりしていた女の子だろうか。透けている少女と同じ見た目だけど、こっちは体が透けていない。

「もう呪いは終わったのよ。あの人達はいないし……無理やり結婚させられることもない」

「違うわ……あの人が! あの魔女がお母様達を殺したのよ! 家を燃やして、両親が残してくれた遺産を私から取ろうと……自分の息子と結婚させて。私の……私のキャディーを返してよっ!」

髪を振り乱して叫んでいる少女は、この平和な部屋とはギャップがありすぎる。まだ解決してないのか?

「キャディーってあのクマちゃんのこと?」

「そうよ、きっと熱かったでしょうね……可哀想に。あの子は二回も燃やされたのよ……。あの魔女は私がずっと抱きしめて、大事にしていたのを知ってたから取り上げて……っ酷い酷い酷い酷い! 嫌い嫌い嫌い嫌い!」

「例えば鏡を割るとどうなるんだ。消えるのか?」

言ってみると、少女がぱっと振り向いた。

「少年、素晴らしい意見よ! きっとあの鏡があるから呪いが解けないんだわ! さっさと割ってしまいましょう」

「……あの鏡はもう使えないわよ」

透けている方の少女が呟いた。

「貴方の呪いが解けないのは、貴方自身に問題があるの。もう許してあげて……皆のこと」

「何よそれ……どういうこと? 簡単に許せるはずないじゃない!」

「二回目の火事は貴方が起こしたのよ。全て燃やしてしまったの。魔女だと言った継母も、貴方の幻想だわ。彼らはもうこの世にはいない」

「えっ……」

「貴方も反省しなければならないわ。懺悔するのよ、この光を見て……」

少女の手には一つの宝石が握られていた。

「……っ眩しいわよ」

「見えるかしらこの光……貴方の涙も、こんなに綺麗なのよ」

――この光が代わりに泣いてくれるから、もう涙を流さなくてもいいの……。優しい光が全てを包み込んでくれるわ。

――私は許される? もう泣かなくてもいい? 私も綺麗になれる……?

少女はゆっくりと自分自身と手を取り合って、一緒に上へと向かう。二人の少女の歌声が響いていた。

光が静まって部屋を出る。そこは豪華なバラ園とは違って、小さな花々が咲いている場所だった。


――ピロリロリン。見事謎を解かれた貴方へ!

問題3

キーワード「せ」


次の問題です。

問題4

荊の道を抜け……

「あ、俺も問題被りましたね。ん、キーワード?」

「どれどれ? 『せ』か。何門まであるか分からないけど、これを集めていくゲームみたいね。少なくとも四文字以上はあるってことか」

「あ、ルリカ……」

今更だけど、こんなの遊園地とは思えないっていうか……子供向けにしてはヘビーな話だったんじゃないか? 特に真相は酷かったし。

「ほ、ほらお姫様のお話ってもっとキラキラしてて可愛いもの……だから、ねぇ! りょうさん! ですよね!」

「え、えぇそうね! これはなにかーが間違っちゃったんだわ」

「白雪姫だったら、最後は鉄の靴を焼いて……」

「ああ、ほらっ! 次は可愛いのだから! 多分!」

「そうね、早く行きましょ!」

そういえば結局、鏡に映ったルリカに似た女性のことは分からなかったな。使っていない宝石も一つある。このパールはただのミスリードだろうか。

とりあえずポケットの中に入れておいた。次の場所へ向かおう。

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