昼下がりのボート


ギーギコー……。

ボートが軋む音が響く。その上に寝転がり上を眺めると、木々の隙間、丸く開いたそこから空が見えた。穏やかな様子で雲が流れている。

そっと横にあった本を手に取って、表紙を撫でる。

君にこうして触れられたらいいのに。ぽとりと水滴が落ちて、紙を濡らした。

……アリスは来ない。

何度書いても、この結末になってしまうんだ。君が望む世界は訪れない。……どうして? どうすれば君の笑顔が見れる……。何をすれば、僕に会いに来てくれる?

だから僕は物語を紡ぐよ。君が気に入ってくれるように……僕のところへ来たくなるように。

こんな僕でもまた笑いかけてくれるかな。

いつものように手を繋ごう。それから一緒にお話ししようよ。

午後のお茶会までには、帰っていいから――

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