(2)
「竹内……」
「愛されてますねぇ……篠宮クン?」
ジョーカーが肩に手を回すのを、篠宮が睨んだ。
「どうしますか、彼を殺してあげますか? ……ふふふ、まぁその前に青山君は参加できる状態じゃないので、失格ということで、後で箱の中に入ってもらいます。さぁて重要なのはここからです……次に誰を落としますか? ここは犯人を見つけても、罪を放つ場所じゃない。残したい人を残すのですよ。次、落とされるのは竹内君なんですか?」
「それは……仕方ないんじゃないの?」
「こんなことした奴を、残せる訳ないだろ」
声のした方向に冷ややかな目を向けて、今度は竹内の肩に腕を回した。そしてわざとらしく、ニッコリ笑う。
「愛する人を守る為に、彼は必死に頑張ったんですよ? 一歩間違えていれば自分も……もしくはあちらが生き残っていたかもしれない。それだけのリスクを犯しても、大好きな人からは何の見返りもないのに……。君たちは何もせず問題が起こった時だけ怯えて、それが終わればすぐにいつもの日常に戻る。ただ待つだけの君たちとは違って、彼は行動を起こした。私としては、充分評価できる点ですよ」
絡みつくように、嫌でも耳に入ってくる声だ。間違ってるのはこっちだと錯覚、いや認めさせようとしている。でも確かにそうだ……俺は、俺たちは何もできていないんだ、仲間の為に。
「ねぇ、竹内君このままじゃ……終われないですよね」
「……僕は」
「この中には青山君以外にも、篠宮君が裏切り者だと思っている人がいるかもしれませんよ! 守ってあげられるのは君だけです。良いじゃないですか、これこそ究極の愛ですよ。美しい……。そんな彼を、君たちは落としてしまうんですか。そんな資格あるんですか?」
これが正解なのか……? 俺たちの方が、間違っている……。
皆の方を見ても、口を閉ざしていた。誰も戦おうとしていない。これなら確かに、価値があるのは……。
「……俺はお前がいなくても、自分の身は守っていける」
その空気を切り裂くように、篠宮が顔を上げた。
「……えっ?」
「俺は一人でも大丈夫だ。だからもうそんな……誰かを憎むような姿は見せないでくれ。お前の気持ちに全て応えることはできないけど、お前のことは忘れない……。他の人間に比べたら少ない時間だったかもしれないけど、少しばかりはお前のことを分かっているつもりだ。だから、元の竹内に戻ってほしい」
「しの、みや……く……っうぅ、ああっ……」
力が抜けたように膝から崩れ落ちた。両目を涙で濡らしている。響き渡る声に、胸が締めつけられた。篠宮も眉間に皺を寄せて、何かを堪えているように見える。
「ふぅーん、そんなことも言えるんですねぇ……ふふ、でも面白みがありませんよ。せっかく盛り上がってたのに……。まぁこれはこれで、良かったのかもしれませんねぇ。では竹内君は穴に落ちて頂くので、よろしいですか?」
「待って……」
美香どうしたの? と心配する女生徒の手を、ゆっくり振り解いた。
「私も……私も行く」
「あれぇ、どうしちゃったんですか? ははは……立候補しても、皆に認めてもらわないとダメですからね?」
白戸は前に出ると、皆を眺めてから深呼吸をした。
「この状態でいても皆に良い影響なんて与えないし、逆に迷惑かけちゃう……それに健太の側にいてあげたいんだ。ワガママだけど……お願いします」
「美香、本当に行っちゃうの……? やだよあたし……っ」
「ゴメン、でも最初で……最後のお願い」
その決意を宿した目に、反論することはできなかった。これでいいのか……本当にこれで。
結局何もできずに、三人は落ちた。四角い、何があるのか分からない箱の中へと。その先は生なのか死なのか。もしくは全然関係ないものなのか。
飛び込む直前に、怖がる人はいなかった。安堵したような、穏やかな表情を浮かべて落ちていく。どうしてだろう。選ばれた人に共通の何かが、あったりするのか? いくら怖がらないといっても、もうこれ以上人が欠けるのは見たくない。
「委員長、作戦を決行しよう」
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