四幕

嫌な夢を見た。あの箱に無理やり落とされて、中は真っ暗で一向に終わりが見えない。どれだけ落ちただろう……こんなに地下が深いのかと思う程落ちていく。もはや落ちていないのかもしれないと迷うぐらいに。でもこの靡く髪はやっぱり落ちている。ずっと? いつまで? どこまで? 死ぬまで……?

ただ落ち続ける。それだけのことがやけに怖くて目を覚ますと、背中には汗をびっしりとかいていた。

「はぁ……」

今は何時だ? 恐らくまだ早いはずだ。とりあえず水でも飲みに行こう……。

一人分減った布団の横を通り、ペットボトルの水を買う。そのまま廊下に立ち尽くして、シャッターしか見えない窓の側に近寄った。

ずっとこんなところにいたら、毎日悪夢を見そうだ。そろそろ外に出たい。太陽や本物の空が見たいな、ダメだ気が滅入る。あんなことがあった後だ、仕方ないか。でも俺も切り替えなきゃいけない。玉城の為にも……これ以上裏切り者の好きにはさせない。そういえば裏切り者ってなんだ? ただのジョーカーのハッタリじゃないのか。こうして煽るだけ煽って……だってそいつが何をしたのか、これから何をするのか一つも分かっていない。メールを送ったのがそいつだとは確定していない。皆はきっと同じにしている。言いたいけど……俺の言葉なんか聞いてくれるだろうか。

部屋に戻って話すことを考えている内に、他の人も起き出した。この部屋は他の人たちみたいに俺のことを敵視したりはしないけど、少し気まずさが残っている。


午後にまた集合がかけられた。ババ抜きをやった部屋だ。あの時は黒と赤の空間だったけど、またガラリと雰囲気が変えられている。

薄暗いのは同じだけど、壁は石の模様になっていた。緑や紫のランプがいくつか置いてあって、イメージとしてはゲームの洞窟の中という感じだろうか。ゲームをやっていると言ってるだけあって、けっこう詳しいのかもしれない。

椅子が二つの大きな輪になるように並べられている。全員が席に座ると、どこからかオルゴールが流れ始めた。

それと共に、白いシーツを被り、ランタンのようなものを持ったジョーカーが現れる。コスプレにしては雑だ。壁に注目させると、手で犬の影絵を作った。アオーンという声真似つきで。

「皆さん、ようこそ……こんな辺鄙な村までわざわざ……」

怪談でも話しそうな声量だ。ゆらゆらと揺れるジョーカーの影は雰囲気作りに一役買っている。

「この村で起こった出来事をお話しします。では物語のはじまりはじまり……」

影絵が犬から人に変わった。器用な奴だ。

「とある平和な村がありました。派手な出来事はないものの、皆ゆったり安全に暮らしておりました……が、最近妙な噂が流れ始めました。それは夜の教会に人が集まっているという話です。教会へ入れる時間は決まっていますし、深夜は鍵が閉まっているので、自由に立ち入ることはできないはずなのです。そこで勇敢なジョーカーちゃんは村の人々の為に、立ち上がりました! それならば私が噂の真偽を確かめて差し上げましょうと。カッコいい、英雄! ジョーカーが教会へ行くと、確かに沢山の人が集まっていました。よく見るとそこにいる人々の様子がおかしいではありませんか……そうです。ここで行われていたのは、怪しい宗教団体の集会だったのです! そこまで分かったところで、ジョーカーは信者たちに殺されてしまいました……ああ無念! このままではジョーカーの愛する村の人々も信者になってしまう! というわけで、村の人々は会議をすることにしました。教祖様は夜にしか活動しません。昼は善良な平民に紛れているのです。ぜひ皆さんの力で、村の平和を守りましょう」

一息つくと、オルゴールを止めた。

「さてさて、今回は皆さんに平民か教祖を演じて頂きたいと思います。平民はとにかく教祖を消せば勝ち。教祖は平民を消せば勝ち。ルール説明をしますね。よく聞いてください」

壁にペタペタと紙を張り出した。随分可愛くデフォルメされた教祖たちの顔だ。幼稚園の先生のスキルも持っているのかもしれない。

「流れ的には昼に会議をして、怪しい人物を一人処刑。夜の時間に教祖が平民を一人殺す。これをどちらか消えるまで繰り返します」

平民さんはなんの力も持たない、ただの一般人。仲間は多いので協力していきましょう。

教祖様は自分の宗教を守る為に、邪魔な平民を殺していきましょう。疑われないようにしながらね。教祖様のふしぎな力は限界があるので、夜に殺せるのは一人ずつです。

「次に少し特別な役職について説明しましょう。まずは平民側の強い味方から」

魔女は夜の時間に誰か一人を占えます。その人が教祖か平民か分かってしまうのです。

エクソシストは昼の時間に処刑された人物が、平民か教祖かが分かります。夜に殺されるのは平民しかいませんが、昼はどちらの可能性もあります。教祖を本当に処刑できたのか、分かる役割です。

警察。これは夜時間に誰か一人を守ることができます。自分を守ることはできません。警察にも誰が教祖なのか分からないので、教祖を守ってしまう可能性も充分にあります。頑張りましょう。

「最後に厄介な役職を発表します。教祖側の味方です」

信者。その名の通り教祖の味方なのですが、信者自体は平民になります。つまり魔女が占い、エクソシストが見ても、判定は平民と出るのです。ただし信者ですから、教祖が勝たないと意味がありません。平民が勝ってしまうと、信者は負けです。

「説明はこれぐらいですかね……では、皆さんちょっと動かないでくださいね」

指を鳴らすと壁から板が現れた。この教室は一体どう改造されているんだ。

板は椅子の周りを囲った。簡易な個室のようになる。

「前の板にパネルがついていますね。それに触れてみてください。おっと、声は出しちゃダメですよ。役職発表です」

恐る恐る触れてみると、ルーレットが始まった。やがてゆっくりになり、平民の文字が現れる。良かった。特に力は持たないけど、教祖側だと上手くやれる自信はない。

「あーっと、言い忘れていました。皆さんの中に、二つの役職が書いてる方はいませんか! いるでしょう一人だけ! じゃじゃじゃーん。特別ルール、ジョーカーです! ジョーカーは超スペシャルミラクルな役職、全員に割り振られる可能性があります。教祖も平民ももちろん魔女やら何やらも、今の役職プラスジョーカーが付け加えられます。ジョーカーになった貴方はラッキー! な、なんと! もしジョーカーが生き残れば、ジョーカーの一人勝ちになります。例えば教祖の誰か一人がジョーカーになり、平民を殺して教祖が勝ったとしても、最終的に勝つのはジョーカーただ一人なのです。もちろん平民でも同じこと。何人生き残ろうが、その中にジョーカーが残っていたら一人勝ち! まぁ運良く生き残れる可能性は低いですから、生き延びればラッキーぐらいに思っておいてください。さぁて、説明はこのぐらいですかね。そろそろ始めましょうか!」

板が壁に戻っていった。なんとなく顔を見合わせたけど、表情が明るい人はいなかった。誰が教祖に当たってしまったのかは、見ただけじゃ判断ができない。

同室のメンバーは向井と篠宮か。この二人がいるなら多少やりやすいかもしれない。委員長も大丈夫だろうけど、柳瀬と柿沼、あと女子だと椎名、金城、富永辺りは、昨日のことで俺を敵視しているかもしれない。そうでなくても普段あまり関わることがないので、少し怖い。柏木と小谷、相川と杉原はそれぞれが同室だ。大人しめではあるけど内心どう思っているかは分からない。お互いに庇いあったりするかもしれない。

「村は教祖様に染められてしまうのか? 無事平和な日々を取り戻せるのか? 教祖ゲームのはじまりはじまり〜」


十三人村

教祖3、平民6、魔女1、エクソシスト1、警察1、信者1、(ジョーカー1)

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