寂しがっている暇も

あきら、さくらが妹達に取られて寂しくないか?」


ある日、自分のマンションに遊びに来た洸の頭を撫でながらアオが尋ねた。


「うん、だいじょうぶだよ。エンディが遊んでくれるし、アオもいるし」


下の子ができると上の子は構ってもらえない寂しさから<試し行動>に出たり、場合によっては<赤ちゃん返り>を起こしたりするという話を聞いていたことで心配していたけれど、洸は機嫌よくニコニコと応えてみせた。十分に満たされてるのが分かって、


「そうか、それはよかった」


アオもホッと胸を撫で下ろしていた。でも、恵莉花えりか秋生あきおは洸と違って普通の人間なので、成長には時間がかかる。今はまだ大丈夫でもこれから先は分からない。だからこれで油断してしまわないようにしないといけない。


洸の普段の様子を、アオは注意深く見るようにした。不安になったり寂しがったりして精神的に不安定になっていたりしたら見逃さないようにするためだ。


『洸が寂しがっていたら、満足するまで抱き締めてあげたい……』


そう思っていた。


アオの兄の場合は、彼女が生まれて母親の関心が妹に移ったことを察すると、両親の目の届かないところでアオをイジメた。


せっかく寝ているところを頬をつねったり叩いたりして泣かせ、母親が、イライラした様子で、


「なによもう! なんで大人しく寝ててくれないの…!?」


と、まだ赤ん坊だったアオを叱り飛ばすのを見て、


『ざまあみろ』


などとほくそ笑んだりもしていた。けれど、洸にはそういうのがまったくない。


そんなことをする必要がなかったからだった。エンディミオンに気遣ってもらえ、アオに可愛がってもらえ、寂しがっている暇もなかったからだった。


何度も言うけれど、親だって人間だ。完璧にはなれない。だから上手くできないことだってある。


でも、努力しても上手くできないこととそもそも努力をする気がないのとは違うはずだ。


誰がどんな言い訳をしようと、正しさを証明できないオカルトを引き合いに出して『子供の方が望んでその親の下に生まれてきた』などと強弁しようと、自分の勝手な都合で子供をこの世に送り出したのは親である。


その自分が勝手にこの世に送り出した子供に自分の時間を奪われようと掻き乱されようと振り回されようと、それは自分が子供をこの世に送り出すという選択がもたらしたものである事実は絶対に覆らない。自分がその選択をしなければ、子供に煩わされるという結果も存在しえなかったのだから。


むしろ、


『子供が我儘で手に負えない』


と言うのであれば、それは、


『子供を自分の勝手でこの世に送り出したという自身の選択に責任も持てない我儘な親にそっくり』


ではないのか?


さくらもエンディミオンもアオもミハエルも、それをよくわきまえていたのだった。


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