絶対に大丈夫
「さくらはだいじょうぶ? だいじょうぶ?」
そんな洸に対してアオはにっこりと微笑みながら、
「ああ、もちろん大丈夫だ」
と応えた。
無論、どんなことでも『絶対に大丈夫』などという保証はない。実際に出産時の事故で亡くなる産婦も毎年のように出る。元より出産は命懸けの行いだ。だから厳密に言うとアオの言葉は<嘘>だけれども、これは洸を安心させるための嘘だった。
だから、さくらがアオに心配かけまいとして両親について嘘を吐いたのと同じだと言える。
人間は何一つ嘘を吐かずに生きることはできないだろう。でも、相手を気遣うための嘘はともかく、他人を傷付けるための嘘を自重することくらいは努力した方が結局は自分のためじゃないだろうか。
少なくともアオはそう思っていた。
自分の言葉に少しだけ落ち着いた洸を抱き、アオも自身を落ち着かせようとしていた。洸には『もちろん大丈夫』と言ったもののそれが絶対でないことは承知している。だから不安もある。ましてや初産で双子を出産するとなれば当然それだけリスクも高いはずだ。
しかしその一方で、ここまで来たらもう成り行きに任せるしかないとも思う。万が一のことなどあって欲しくないと思いつつ、それでも万が一のことがあれば自分が洸もさくらの子供達も引き取って育てる覚悟は決めていた。
『…自分の娘が初孫を出産するというのに両親が見舞いにも来てないというのは、さすがにあれだからな……』
と、さくらが語った両親についてのことがおそらくは嘘だろうとアオも薄々気付いていたのである。
その上で、さくらを育てた両親が自分のそれのような人達でないであろうことも察してはいた。
『優しすぎて弟君が亡くなったことに耐えられなかったんだろうな……』
とも推測していた。
だからこそ、自分は万が一のことがあってもそうはならないと思えた。
『それに私は、元来、薄情な人間だ。逆にその分、割り切ることもできてしまう。なら、それを敢えて活かす』
結局、そういうことなのだろう。人間はそれぞれ違う。違うということはつまり、同じ状況に置かれても、受けるダメージが違うということだ。
同じように大切な人を亡くしたとしても、さくらの両親のように壊れてしまったりはしない。という意味でもある。
それを『薄情だ!』と非難する者もいるかもしれない。けれど現実問題として人間が不死不滅の存在でない以上は、事故や病気で、はたまた事件に巻き込まれて命を落とすということは有り得るのだ。
アオはその現実と向き合おうとしているに過ぎない。
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