立ち合い
担当者が変わったことで影響も出つつも、だからといってそれを迷惑だと表してしまうと結果としてさくらに対する風当たりが強くなってしまうと考え、アオはなるべく気にしないようにしていた。
仕事についても、これまでほど筆は進まなかったものの、過去の、出版に至った自分の作品と没になったそれとを読み比べ、その差を自分でも把握しようと努めた。
結果、生み出される作品の数は減ったものの、採用されるものについては締め切りを守ることができていた。
もっともそれも、さくらが入院する直前までアオの部屋に顔を出して作品のチェックをしてくれていたからというのもあるだろうけれど。
しかし、そういう準備期間があったことは幸いだったと思われる。
とは言え、さくらがいよいよ出産するとなればもう落ち着いてはいられなかった。
「〇〇病院へ」
深夜、タクシーを呼び、さくらが入院している病院へとアオも向かう。
そして、
「さくら、大丈夫か……!?」
と、待機室に現れた。
そこで、一年以上ぶりに、エンディミオンとも直接顔を合わすことになった。
が、お互いに敢えて挨拶も交わさない。それがアオとエンディミオンの距離感だった。エンディミオンにしても吸血鬼であるミハエルと共に暮らすアオとまで馴れ合うことはまだできなかったし。
「アオ~!」
その一方で、
「おおっ? 洸、洸…! 落ち着け…!」
無意識のうちに狼化しそうになっている洸をアオがなだめる。それによって人間の姿を維持することができた。
「よしよし、不安だったんだな。もう大丈夫だ。私と一緒に待とう」
そうして、洸はアオと一緒に待つことになった。
ちなみにこの時、ミハエルはどうしていたかと言うと、これまでとは逆に、ミハエルの方が近くの公園で待つことになった。深夜なのでもちろん気配を消した状態で。
エンディミオンとは直接顔を合わせない方がいいという判断である。そしてそれは正解だった。
「じゃあ、そろそろ分娩室に移動してください」
明け方、絶え間なく陣痛に襲われているさくらの様子を見た看護師が告げると、さくらは自分の足で分娩室へと向かった。
そしてエンディミオンはさくらに付き添い、一緒に分娩室へと入っていく。立ち合い出産だ。
しかし洸はアオと一緒に隣接する待合室で待つことにした。最初は洸も立ち会う予定だったものの、この時の様子を見てそれはやめた方がいいという判断だった。さすがに中身は一歳なのだから。しかも人間の一歳と違ってまったく状況が理解できないわけでもないから余計にパニックとかの心配もあったからである。
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