私達が望んだ<命>
さくらに対する暴言について、会社のコンプライアンス部門から忠告を受けた上司だったが、そう簡単に人間の価値観や感覚が変わるものでないこともまだ事実だろう。言葉は選ぼうとしているようでありつつも、彼にとって仕事を持ちながら妊娠することについては無責任なように思えるらしく、何かと嫌味を言ってくるのは変わらなかった。
さくら自身、いずれ産休を取らなければいけなくなるだろうから、それでアオにも迷惑をかけてしまうことになりそうで申し訳ないという気持ちもあった。
しかしそれに対してアオは、
「何を言っているか。今回の妊娠は、最初こそ私も驚いたが、それはあくまで思ったより早かったからというだけでしかない。子供を生む機会があるなら生めばいいのだ。何を負い目に感じる必要があるか!」
と言い切った。そしてさくらの耳元に口を寄せて、
「それに、私も実はミハエルとそうなりたいと思ってる。が、いかんせん外見があれだからな。
年齢もそうだしそもそも人間ではないのだから淫行だのなんだのというのは気にしなくて大丈夫だと分かっていてもどうしても踏み切れん。
そこを易々と突破してみせたさくらとエンディミオンには、正直、嫉妬さえ覚えるよ」
などと囁くように言う。
「……!」
これにはさくらもカアッと顔を赤くしてしまった。
「そこは私も、自分でも驚いているんです。ただ、流れと言うか何と言うか、お互いにこう、自然にそうなってしまって……」
照れ照れと汗をかきながら顔を真っ赤にしてさくらが言う。
その上で、
「最初は、そのつもりは全然ありませんでした。いつのまにか彼のことを気にしてたのは自分でも分かってましたけど、やっぱり<壁>のようなものはあったんです……
ただ、エリカさんと
そうなったらもう、いてもたってもいられなくなったんです……」
と応える。
そんなさくらに、アオはフワッと微笑んだ。
「それでいいと私も思う。それに、仕事をしてて子供を作るのにちょうどいいタイミングなんてのはそうそうないとも思うんだ。どこで作ったとしても誰かが難癖をつけてくるだろう。だったら、できた時が生むタイミングってことじゃいいんじゃないか?
さくらの子については、私も待ち望んでる。ある意味では私の子のような気持ちさえしている。妻が妊娠した夫の気持ちとはこんなものだろうか?とさえ思うのだ。
さくら……私からも頼む。生んでくれ。その子は私達の子なんだ。私達が望んだ<命>なんだ。
それを迎えるにあたってのあれこれは、覚悟の上だ。なに、お前が一年くらい育児休業を取ったとて、上手くやってみせるさ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます