想いを強く
それは、あの地下室への扉だった。工事の際には重機を使ってやっと開けたその扉を、
するとそこには真っ暗な空間があるだけだった。すると秋生は、小屋の中に掛けられてあった、電線が繋がった裸電球を手に取るとそのスイッチを入れて明かりを灯し、暗闇へと下ろした。
と同時に地下が明るく照らし出され、さくらが見た時と同じようにエリカに似た人形が椅子に座った空間が見えた。
そして秋生の体がすっと地下へと消える。
さすがにウェアウルフだけあって、二メートルほどの高さのあるそこにさえ梯子など使わずとも当たり前のようにふわりと軽やか降り立って見せた。
それから椅子に座った人形の髪を梳き、服を整え、それらが終わると、とん、と床を蹴り、浮かび上がるように地上へと戻る。
まるでエンディミオンのそれを見ているような、間違いなく人間にはできない身のこなしだった。
電球を引き上げスイッチを切り、鉄の扉を閉ざした秋生が小屋を出る。するといつの間にか雨が降り出していた。
秋生はそのまま母屋に戻ることなく天を仰いだまま雨に打たれる。
その彼の頬を伝うのは、雨粒なのか涙なのか……
「あ……」
朝、ベッドの中で目を覚ましたさくらも泣いていた。
それを拭って、ベッドから出る。
すると、
「おねえちゃん、おねえちゃん♡」
その声を聴いた瞬間、
『ああ…またエリカさんと遊んでもらってるんだな』
と察した。
せめてそうやって洸と楽しんでもらえればとも思えた。
ドレッサーの前で軽く身嗜みを整えてから階段を降りようとすると、
「ばいばい、またね、おねえちゃん♡」
という声が聞こえてきた。
「お姉ちゃんと遊んでもらってたの?」
さくらが尋ねると、
「うん♡」
洸が笑顔で応える。
それから二人で一階に降りると、
「トーストでいいか…?」
エンディミオンが食パンを手に訊いてきた。
「あ、うん。ありがとう」
応えたさくらが自然と笑顔になる。エリカと秋生のことを思うと胸がチクリと痛むが、どんなに身近に感じてもそれはもう何十年も昔に起きたことであって、今さらそれを変えることもできない。自分達にできるのは、それだけのことがあっても自分達に至るまでの命を繋いでくれた当時の人々に感謝することだけだ。
『彼らは決して<異常者>なんかじゃない。
そんな彼らに命をやり取りをさせることが間違ってるんだ……』
さくらはまたその想いを強くしたのだった。
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