おやすみなさい

ようやく寝室に辿り着き、三人は、寝室の面積の七割方を占めるキングサイズのベッドに、さくらを真ん中にして右隣にあきら、左隣にエンディミオンという形で横になる。


ちなみに三階にもトイレがあって、それは寝室から直接行けるので、寝ている時にトイレに行きたくなっても問題なかった。さらには小さなシンクと一口のIHクッキングヒーターもあり、その気になればこの部屋だけでほとんど生活だってできてしまう。


もし、洸が思春期になってあまり顔を合わせたがらなくなっても、それぞれの場所でそれなりにというのも考えられていたのだ。


でも今はその必要もなさそうだ。


「おやすみなさい」


この家に来てからずっとテンションが高かった洸は、さすがにスイッチが切れたかのように眠そうになった。さくらも心地よい疲労感がある。


ダンピールであるエンディミオンはこの時間に寝る必要はなかったものの、何となく一緒にいたくてさくらに合わせた。


「おやすみ」


さくらは、エンディミオンと洸双方の額にそっとキスをした。エンディミオンにはもうかなり以前からそうしていて、洸には、アオのところから自宅に帰る時の挨拶としてしていたことだった。


見た目には一歳くらいになって、洸がある程度、周りのことが分かり始めた頃、さくらが帰ってしまうことを寂しがるかと思っていたが、彼ももうそういうものだと認識していたのか、アオとミハエルがちゃんと甘えさせてくれたからか、思ったほどはぐずったりもしなかった。


きちんとアオとミハエルのことも家族だと思っていたのだろう。


ちなみに、二人のことは、『アオ』『ミハエル』と名前で呼ぶ。


ただし、さくらがいない時はやはり狼の姿でいる方が楽なようだったが。


なお、これからは、当面の間、さくらが朝のうちに洸をアオの家に預けに行き、それから仕事に行くことになる。


そしてそろそろ、周囲の人間の目のことも気にしなければいけなくなるに違いない。


なにしろ戸籍がないので学校に通わせることもできないし、それでいて急速に大きくなっていくので、人間の姿をあまり晒していては不自然になってしまう。


だから、


「洸、ごめんだけど外に出る時は狼の姿になってね。それから、狼の姿の時は首輪を付けてもらうことになるから…


大丈夫? できる?」


と、ベッドで横になり、洸の頭を撫でながらそう<お願い>した。


すると洸は、眠そうな表情のままでふわりと微笑んで、


「うん…できるよ…ママのためだもん……」


と応えてくれたのだった。


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