悪ノリ

なお、階段脇の壁には、いわゆる<ボルダリング>用のクライミングホールドと呼ばれる出っ張りが多数付けられていた。これは、ウェアウルフであるあきらが楽しめるようにという工夫の一つである。しかも、吹き抜け部分を上から下まで突き抜ける樹脂コーティングされたポールは、<上り棒>だった。


つまり、壁をよじ登ってもいいし、ポールをよじ登ったり上から下へと滑り降りたりしてもいいというものだ。


ちなみに、万が一転落しても大きな怪我をしないようにと、その下の床部分は踏んだだけでは沈みこまない程度の固さはありながら落下の衝撃はかなり吸収するウレタン製になっていた。人間の場合ではこれでも多少の怪我はするかもしれないものの、ウェアウルフである洸ならこれでまったく心配はないだろう。


そして二階は、まさに洸のための<遊び場>になっていた。公園にあるものに比べれば当然小さいがジャングルジムがあり、三階に上がる階段に沿って滑り台が掛けられ、雲梯になった天井からはブランコも吊り下がり、床は全面、ボルダリングウォール下のそれと同じ素材でできた床になっていた。これは衝撃吸収材であると同時に音も吸収するので、洸が少々騒いでも一階に伝わる衝撃音をかなり軽減する役割もある。


また、洸が大きくなって遊ばなくなればすべて取り外して普通の部屋にすることもできる。


さらに階段を上った三階は、寝室となっていた。


一応、エンディミオンのための個室は一階にあるものの、もちろんここで三人一緒に休むこともできる。さすがに寝室は落ち着いた平凡な造りとなっており、ここまで見せてきたアオの<悪ノリ>の影を潜めていると言えるだろう。


ベランダもあるものの、そちらも実に普通だった。


洗濯機は脱衣所に置かれ、洗濯物は庭に干せるし、温室内に干すこともできるようになっている。


以上、ここまで来るとむしろ地下室の方が普通に思えるようなアオの悪ノリ全開の家だが、施工業者は当然、


「あまり奇抜な作りにすると、売る時に不利ですよ。価格も当然、下落します」


とアドバイスしたのだが、アオはまったく聞く耳を持たなかった。


「売ることなんか考えてません。少なくとも私が生きてる間はね。私にとっては大切な土地なんです」


などともっともらしいことさえを言って強引に押し通したのだ。


それに実際、アオはこの家も土地も売るつもりはなかった。洸に深い縁がある土地で、しかもあの人形が安置されていたということはそれだけの意味があると考えられるのだから。


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