人間の法律は
ミハエルは言う。
「人間の法律は僕達吸血鬼を守ってはくれない。だから吸血鬼は、自分の身は自分で守るしかない。
と言っても、なるべくなら人間の法律も守ろうとは思うんだけどね。特に、身体生命を害することはしないように心掛けてる」
と。
するとさくらは気付いてしまった。それが言葉として漏れる。
「そうか……人間の方は法律で吸血鬼やダンピールやウェアウルフを守ろうとはしないけど、それと同時に、ミハエル君やエンディミオンや
それに対してミハエルは応える。
「まあ、『人間の法律を守れないなら排除する』っていう方針という意味では確かにそうかもね。ただ、人間にとって吸血鬼は確かに異物だから、同種である人間を優先しようとすること自体は道理に合ってると思う。
それに、僕達吸血鬼は単体でなら人間よりも圧倒的に強い。前にも言ったと思うけど、人間を滅ぼすだけならそんなに難しくない。一切制限なく眷属を作ってしまえばいいだけだから。眷属の眷属の眷属の眷属って形で劣化はしていくけど、種としての人間はそれで滅ぶ。
だけど僕達はそんなことは望んでない。
だから人間の法律は完全には遵守しないけど、人間を傷付けたり苦しめたりはしないでおこうと思ってる。
僕のやることが人間の法律には反しているとしても、それは誰かを傷付けることが目的じゃない。無理なく生きていくためだ。
そもそも、人間は人間の法律を守らなくちゃいけないけど、僕達にはその義務はない。義務は権利の対価だよ。
その国の国民として国によって保護されるという権利の対価として義務がある。
権利を貰ってない僕達には、法律を守る義務もない。
その一方で、義務はなくても人間と敵対したくはない。人間と敵対するのは僕達吸血鬼にとっても損だという損得勘定はあるんだ。
それに実は、これも前にも言った通り、一部の先進諸国は吸血鬼の存在を掴んでる。
でも、利用するにも敵対するにもリスクが高いから、目に見えて人間に危害を加えないのなら多少のことには目を瞑る。っていうのが今の各国のスタンスかな。
吸血鬼についての法律を改めて作るには、まず、吸血鬼の存在を認めなきゃいけないし、かと言って吸血鬼の存在を公式に認めるとなれば大きな混乱が予測される。できればそういうのは避けたい。と考えるのは自然なことだと思う。
だから結果として、僕達の存在を黙認することで折り合いをつけようとしてるんだよ」
「……ズルいですね、人間って……」
ミハエルの説明に対するそれがさくらの正直な気持ちだった。けれど、そうするしかないというのも分かる。確かに吸血鬼やダンピールやウェアウルフの存在を公式に認めるとなれば大きな騒ぎになるだろうから。
それを思えば、<黙認>というのも、合理的な対処法だとも感じてしまうのである。
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