デレデレ

ミハエルの胸に抱かれて、哺乳瓶からミルクをんぐんぐと飲むあきらの姿は、それこそ痺れるほど可愛かった。


『尊い…尊すぎる……』


人知を超越した美しさを持つミハエルと、もふもふころころの洸。この組み合わせの前に、アオはKO寸前である。


その間にも洸はミルクを飲み干し、ミハエルか背中を撫でると、


「ケプッ」


と小さくげっぷをした。それがまた可愛い。


『破壊力半端ね~っ!』


危うく叫んでしまいそうになりつつ、アオは自分の口を両手で押さえ、無言で見悶えた。


すると、満足したのか、洸はそのままミハエルの腕の中で眠ってしまった。


「はぁ~、カワイイなあ……」


囁くようにアオが声を漏らすと同時に、


「あ……」


と声を上げたミハエルの服にみるみると染みが広がっていく。


おしっこだ。洸がおしっこしたのである。


「あらららら…!」


慌てるアオにミハエルが手をかざしつつ、


「大丈夫、洗えば済むことだから」


と冷静だった。赤ん坊の世話をしたことのある者にとってはいつものことである。驚くようなことじゃない。


アオにウェットティッシュをとってもらったミハエルは、それをぎゅっと握りしめた後でおしっこで濡れた洸の体を拭いてやり、綺麗になった洸をそっとアオに手渡して、自分はバスルームへと行って、着替えとシャワーを澄ました。


その間も、洸はアオに抱かれたまますやすやと眠っていた。


どうやらミハエルとアオは危険な存在じゃないと認識してくれたらしい。


『ああ~…! 赤ちゃんってこんなこんな感じなんだろうなあ……』


そんなことを思う。


自分の胸に抱かれて眠る小さな命に、アオはうっとりと視線を向けていた。


そこに、シャワーを終えたミハエルが戻ってくる。まるで本当の母親のように洸を抱くアオの姿に、ミハエルも微笑んだ。


何とも言えないあたたかで柔らかい空気がその場を満たしていたのだった。




翌日も打ち合わせを理由にアオの部屋を訪れたさくらは、洸を前にすっかりデレデレになったアオとミハエルを目撃することになった。


「慣れてくれたんですね。良かった……」


『良かった』とは口にしたものの、しかしさくらは同時に一抹の寂しさも感じていた。自分より先に二人に洸が心を開いたらしいことが、少しだけ、ほんの少しだけ残念だったのかもしれない。


けれど、さくらの姿を見た途端、洸はてとてとと駆け寄ってくる。


「洸…!」


思わず声を上げたさくらがしゃがんで手を伸ばすと、尻尾を振りながら体をすり寄せてくる。


「ほほお? ひょっとするとさくらを母親と思ってるのでは?」


「え…そうでしょうか……?」


言われて洸を抱き上げた時、さくらは、腕の中に違和感を覚えた。


「…って、え……?」


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