まあいいか
吸血鬼(眷属)と遭遇したエンディミオンだったが、向こうが強い敵意を向けてこなかったこともあって、
『……まあいいか……』
と思ってしまったのだった。
それは、以前なら考えられないことだった。吸血鬼とみれば容赦なく狙い、抹殺するのが彼のやり方だったから。
なのに、『まあいいか』と思えてしまったのだ。
そうして吸血鬼を見逃してしまってから、
『!? オレは何を考えているんだ!?』
と愕然としてしまったが、それさえ、手にした食材に気付くと、
『……先にこれを冷蔵庫に入れてから探すか……』
と考え、さくらの部屋に戻って食材を冷蔵庫に入れると今度は、
『さくらを放っておくわけにはいかんしな……』
という感じで、やっぱり『まあいいか』と思ってしまったのである。
『次に見付けた時には始末してやる……!』
そんな風に思いつつ、さくらの待つ出版社へと向かった。
しかも、残りの仕事を片付けている彼女の顔を見る頃には、どうでも良くなってしまっていた。
いや、本当にどうでもいいわけではないのだが、焦ってどうにかしなきゃいけないという気分にはなれなかったのだ。
『とにかく次に見付けた時は……』
などと思いながらも。
そんなこともありながらも、さくらが終電間際に仕事を終えると、二人で一緒に終電に乗り込んで、マンションへと帰った。
途中、エンディミオンがなにか機嫌良さそうにしていると感じたさくらが、電車を降りて駅を出たところで、
「何かいいことあった?」
と尋ねると、
「いや? 別に何もないぞ」
いつものように素っ気なく応えただけだった。実際、エンディミオンにとってはこれといっていいことがあった訳ではない。でも何となく気分が良かっただけのようだ。
「そうなんだ……」
さくらもそれ以上は問い掛けることをせず、そのまま帰路についた。
部屋に戻ると早速、焼き肉の用意を始める。と言っても、あまりもうもうと匂いが立ち込めては困るので、焼き肉用の鉄板を付けたホットプレートでの調理になるが。
それを見たエンディミオンも、
「ふん…炭火の焼き肉の方が美味いが、今日はこれで勘弁しておいてやる」
などと横柄な言い方はするものの、その表情は決して不満そうなそれではなかった。
結局、さくらと一緒に食べられるのが嬉しいのだろう。その上で肉が食べたかったのだということだ。
ちなみに、<夕食>は会社に戻る時にコンビニで弁当を買ってそれで済ませたので、さくらは野菜だけしか食べるつもりはなかった。
また、ダンピールであって基本的には夜に活動するエンディミオンにとってこれは、<昼食>にあたる。
しかしその辺りの細かい話は二人にとっては基本的にどうでもよく、ただ食事を楽しめればよかったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます