優先すべきは
「アオ、実は……」
女性が確実に自分達の後をつけていることを確認したミハエルは、辛うじて聞こえる声でそう声を掛けた。
その、いつもの彼とは違う声のトーンに、ショッピングを無事に終えられたことに浮かれていたアオも少しハッとなる。
「どうしたの……?」
問い掛けるアオにミハエルはなるべく冷静に話した。
「実は、僕達を付けてる人がいるんだ」
「…え…!?」
「振り向かないで…! 女性だ。たぶん、僕をつけてるんだと思う」
「なに? ストーカー…?」
「そういうことになるのかな。
「あ~、ミハエル、綺麗だからね」
「僕が綺麗かどうかはともかく、どうやら本気みたいだ。だからここで一旦、別れよう。僕はつけてくる女性を巻いてから戻る。アオは先に帰ってて」
「うん、分かった。でも気を付けてね」
「ありがとう、もちろん気を付けるよ」
そう言って二人は、そのまま家に帰るために交差点を真っ直ぐに進んだアオと、左に曲がったミハエルとで別れることとなった。
アオと一緒にそのまま返って自宅を突き止められてはそれこそ面倒なことになるからである。
『上手くついてきてね……』
視線は向けずに女性の姿を確認し、ミハエルはわざとゆっくり歩いた。
一方、彼と別れたアオは、心配しながらもミハエルを信頼していた。
『彼なら大丈夫。上手くやる』
と。
しかし、上手くやると思いながらも、万が一、自宅が突き止められたりしても、それで何か問題が起こるようなら引っ越しも辞さない覚悟も決めていた。
『新しく部屋を借りられる貯えは十分にある。引っ越し費用もある。家なんてどこだっていい。ミハエルと一緒にいられたらそこが私の家だ……!』
それがアオの想いだった。
もちろん、引っ越しなど望んでしたいわけじゃない。引っ越しの手間は好きじゃない。
けれど、ミハエルとの平穏な暮らしを保つ為なら、十分に我慢できる。
それに本当なら、あのエンディミオンというバンパイアハンターが現れた時点で検討が済んでいることだった。
いや、それ以前に、バンパイアであるミハエルと一緒に暮らすとなれば一つ所に長く住むことができないかもしれないということそのものを覚悟していた。
今さら焦ることでもない。
『家に帰ったらまず物件を探さなきゃね』
ストーカーがいるからと引っ越しをするというのはその不法行為に負けることになると考える向きもあるかもしれない。
しかし、今、優先すべきは、自分達の平穏な暮らしを守ることであって、ストーカーと真っ向闘うことではないのだから。
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