ナイトストーカーの章
ショッピング
「いや~、久しぶりの外出は緊張しますな」
「ホントに大丈夫? 僕は別に今のままでもいいんだけど」
「だいじょぶだいじょぶ。それに私がそうしたいだけだから、ミハエルは気にしなくていいんだよ」
エンディミオンの件も、曖昧なままではあるが安定していたのを実感したある日、アオはミハエルを連れて久々の外出をしていた。
基本的に買い物さえ宅配で済ますことの多かった彼女にしてみると思い切った行動だが、
「愛しのミハエルの服を買う為だもん。ここで頑張らなくてどこで頑張るんだって話だよ」
と、ふんふんと鼻息荒くテンションが上がっていた。
しかし実は、ミハエルの方は気配を消しているので、他人からはアオが独り言を言っているようにも見えるだろうが。
一応、声を出すのは周りに人がいない時に限るとアオも決めている。
そうまでしてミハエルの新しい服を買う為に外出したのだった。
とは言え、ミハエル自身は本人も言っていた通り、今あるものだけでいいとは思っていた。アオが通販で買った服だけで十分だと思っていた。
けれど、フィッティングもなしで何となくで選んだ服がどうにも彼に合っていない気がして、他でもないアオ自身が収まりがつかなくなったのである。
「やっぱり服は店まで行って現物を見てフィッティングした上で買うべきだ!」
ということで。
さりとて、基本的には日が暮れてからしか出掛けられないので、あまりゆっくりとはしていられない。
タクシーで、ブランド店も立ち並ぶストリートまで来て、やや急ぎ足でアオは店を見て回った。ミハエルにピッタリな服を見付けるために。
さりとて、自分の服さえそんな風にして買ったことがほとんどないアオには少々荷が重かったようだ。
意気込んで店に入ったはいいが、
「どのような服をお探しでしょうか?」
と話しかけられてしまうと、
「あ…いや、あの…その……」
と狼狽えてしまう。
そんな様子を見かねて、ミハエルは気配を消すのをやめ、
「今日は僕の普段着を買いに来たんです」
店員に話しかけた。
「…!? え、あ、それは良かったですね♡」
咄嗟にそう取り繕い<営業スマイル>を見せた店員だったが、内心では、
『いつの間に…!? さっきまではいなかったのに…!』
などと焦っていた。それと同時に、
『何この子!? すっごい美少年……!』
胸が高鳴ってしまう。
それでも<仕事モード>を維持し、
「お客様にはこちらなどいかがでしょう」
その店で一番のお薦めを提示してみせた。
「いいですね。じゃあ試着させてください」
ミハエルは慣れた感じで薦められた服を手に、試着室へと入っていく。
『はえ~…。これが<コミュ力お化け>か……』
ミハエルのあまりに堂々とした姿に、アオはただ呆気に取られるしかできなかったのだった。
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