彼なら
『でも…いいの…? 僕、吸血鬼だよ……?』
そんな風に戸惑う少年に対し、蒼井霧雨は、
「何をおっしゃいます! 吸血鬼だからいいんです! それに合法だし!」
とはしゃいでしまう。
「…合法?」
きょとんとした表情で問い掛けられたことについては、
「わはは! なんでもありません! 気にしないでください♡」
などと取り繕った。
いずれにせよ、これで一気にリラックスできたことで、彼女は改めてその場に座り直し、彼を見上げながら、
「真面目な話、もしあなたが行く当てとかないんだったら、力になりたいんです。
私にその機会を与えていただけますか? 我が君」
と真摯に語り掛ける。
彼女は本気だった。
『こんな絶好なネタを逃してなるものか!』
という下心も間違いなくありつつも、彼が困っているのなら助けになりたいというのも本心からだった。
そんな彼女に、彼は、手を揃えて深々と頭を下げて、
「よろしくお願いします」
礼儀正しく言ってのけたのだった。
その仕草に対しても、
『ヤダ…カワイイ……♡』
などと、彼女は胸がキュンと締め付けられるのを感じるのだった。
そんなこんなで彼女と彼はリビングへと移動し、
「では、改めまして。私の名前は
と自己紹介をした。<桐佐目葵>とは彼女の本名である。なのでペンネームと本名、どちらを名乗っても大きな齟齬がなかった。ただ、
「ラノベ…?」
彼が小さく首をかしげながら聞き返す。
非常に日本語が堪能な彼だったが、ところどころで分からない単語があるらしい。
「小説の種類ですよ」
ここで詳しく説明しなくてもおいおい分かってくるだろうと思い、彼女はそれだけで留めておいた。
「そうなんだ…」
彼の方もしつこくは訊いてこない。そして、
「僕の名前はミハエル・リトヴィンツェフ、です。年齢は…恥ずかしいので秘密です。仕事は、今はしてません……」
と自己紹介した。その上で、
「ママが亡くなったから、曽おばあちゃんの故郷である日本に来たんです。子孫がいて僕を迎えてくれるはずだったんですけど、会えなくて……」
と説明した。
「そうなんだ……」
つい同情しかけた彼女だったが、
『でも、その話が本当かどうかっていう裏付けは何もないのか』
とも思った。しかしそれでも。
『それでもいい。彼がもし嘘を吐いてても、彼なら許せる…』
なんてことも思う。だから言えたのだった。
「ようこそ、ミハエル。私はあなたを歓迎します♡」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます