彼なら

『でも…いいの…? 僕、吸血鬼だよ……?』


そんな風に戸惑う少年に対し、蒼井霧雨は、


「何をおっしゃいます! 吸血鬼だからいいんです! それに合法だし!」


とはしゃいでしまう。


「…合法?」


きょとんとした表情で問い掛けられたことについては、


「わはは! なんでもありません! 気にしないでください♡」


などと取り繕った。


いずれにせよ、これで一気にリラックスできたことで、彼女は改めてその場に座り直し、彼を見上げながら、


「真面目な話、もしあなたが行く当てとかないんだったら、力になりたいんです。


私にその機会を与えていただけますか? 我が君」


と真摯に語り掛ける。


彼女は本気だった。


『こんな絶好なネタを逃してなるものか!』


という下心も間違いなくありつつも、彼が困っているのなら助けになりたいというのも本心からだった。


そんな彼女に、彼は、手を揃えて深々と頭を下げて、


「よろしくお願いします」


礼儀正しく言ってのけたのだった。


その仕草に対しても、


『ヤダ…カワイイ……♡』


などと、彼女は胸がキュンと締め付けられるのを感じるのだった。




そんなこんなで彼女と彼はリビングへと移動し、


「では、改めまして。私の名前は桐佐目葵きりさめあおいです。年齢は、花のアラサー、二十八歳。独身です。職業は小説家。と言ってもジャンルはラノベだから<ラノベ作家>って言った方がいいかな」


と自己紹介をした。<桐佐目葵>とは彼女の本名である。なのでペンネームと本名、どちらを名乗っても大きな齟齬がなかった。ただ、


「ラノベ…?」


彼が小さく首をかしげながら聞き返す。


非常に日本語が堪能な彼だったが、ところどころで分からない単語があるらしい。


「小説の種類ですよ」


ここで詳しく説明しなくてもおいおい分かってくるだろうと思い、彼女はそれだけで留めておいた。


「そうなんだ…」


彼の方もしつこくは訊いてこない。そして、


「僕の名前はミハエル・リトヴィンツェフ、です。年齢は…恥ずかしいので秘密です。仕事は、今はしてません……」


と自己紹介した。その上で、


「ママが亡くなったから、曽おばあちゃんの故郷である日本に来たんです。子孫がいて僕を迎えてくれるはずだったんですけど、会えなくて……」


と説明した。


「そうなんだ……」


つい同情しかけた彼女だったが、


『でも、その話が本当かどうかっていう裏付けは何もないのか』


とも思った。しかしそれでも。


『それでもいい。彼がもし嘘を吐いてても、彼なら許せる…』


なんてことも思う。だから言えたのだった。




「ようこそ、ミハエル。私はあなたを歓迎します♡」


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