時の間「白い瞳のルーン・グローリアの冒険日記③-七つの大罪、怠惰と嫉妬の魔女は表舞台に出てこない。」
私は悪魔の女神の娘、希望の魔女ノルン。
私の再生の時と知恵の時の歯車によって形作られた空間―過去の時の回廊で、ルーンの日記、新しい断片を見つけました。
これはとても悲しい、ルーン・グローリアの悲しい冒険です。
ふわふわと浮かぶ光の精霊が、回廊の先を照らしてくれています。私は光の精霊の温かさを感じながら、ルーンの日記の断片に触れた。
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私は、何をしているのかな。ただ悔しい。悲しい。赦せない。
可愛いお人形さん、どうしよう。フィナがいない。フィナがいないの。どうして……なんで、地底都市ヴェルグランドにノルンがいたの? 我儘な悪い子のノルンがいた。
我儘な悪い子は、炎鬼クルドさんとフィナを殺した。
戦闘とか、そんなものじゃなかった。ただ、手を横に振っただけ。ただ、手で触れただけ。悪いノルンは、それしかしていない。怒りをぶつけてくることも、偉そうに話したりもしない。笑うこともなく、馬鹿にすることもせず、ただ手で触れた。
《時よ、断ち切れ―時の
確か、そう言っていた。ただそれだけで、クルドさんの首がとんだ。フィナの心臓が壊れた……フィナは崩れ落ちて、それからもう動かない。すぐ近くにいた私に、フィナの血がいっぱいついた。
フィナの血のにおいがする。奇跡の都ラス・フェルトに、シャノン様の転移魔術で、何とか逃げ帰った。お風呂を使わせてもらって、何度も洗ったけど、フィナの血のにおいが消えない。
今は昼間、私は奇跡の都ラス・フェルトの宿屋にいる。窓を閉めた、真っ暗な部屋で、毛布で体を隠してただ泣いています。
時の女神の娘ノルン―全知全能なる天の神。ノルン、貴方のことが許せない。貴方を怒りたい。どうして、貴方がフィナを殺したのか、教えて欲しい。
可愛いお人形さん、貴方は地底都市ヴェルグランドにはいなかったよね? 奇跡の都ラス・フェルトで、青い水晶の中に封印されているから、出てこれないもんね。
時の女神の娘ノルン―全知全能なる天の神と、悪魔の女神の娘ノルン―白き人形、希望の魔女。
ごめんね、可愛いお人形さん。私、少し自信がない。可愛いお人形さんが、フィナを殺すはずがないってことは分かっている。分かっているんだけど、フィナを殺した少女は貴方だった。
銀色の髪に白い手足。海の様に透き通る青い瞳をもつ少女。
時の女神の娘と悪魔の女神の娘、どこに違いがあるの? 母親は時の女神ノルフェスティ。誰よりも母親を愛していて、母親と一緒に暮らすという平凡な夢を持っている。時の魔術を行使して、敵を殲滅する。誰も貴方に敵わない。
ごめんね、可愛いお人形さん。貴方のことも少し憎んでしまう。
助けてよ、ノルン。こんなにも貴方のことを呼んでいるのに、どうして助けにきてくれないの? 助けて、ノルン。助けてよ、可愛いお人形さん。
第二の刻―惑星招来。我儘な悪い子ノルンが呼んだ星。迷い星テラも含めたら、全部で11の惑星……その中の1つの星に、狂王ヴェルグラを逃がしてしまった。
巨神グレンデルの依り代の星、霧の世界フォールでは第九惑星だった星に。
狂王ヴェルグラは巨神の星の核を持って逃走しています。もう一度、敵地に潜入しても、結果は前回と同じでしょう。例え、邪魔をする狂信者デュレス・ヨハンを殺せたとしても、結局、我儘な悪い子ノルンに殺される。
我儘な悪い子ノルンは、皆を殺す。
狂王ヴェルグラや狂信者デュレス・ヨハンも、邪神フィリスですら殺してしまう。我儘な悪い子は無邪気で残忍。それがよく分かりました。最後に、我儘な悪い子に殺される。
それなら、私たちがすることにどんな意味があるの? 結局、ノルンに殺されてしまうんだよ? 何かを残そうとしても、我儘な悪い子は簡単に壊してしまう。私たちにできることって、なにがあるのかな?
可愛いお人形さんは、青い水晶の中に封印されている。我儘な悪い子でも、お人形さんを殺すことができないから? たぶん違う。ただ、お人形さんを残した方が、自分の夢が叶いやすいからだと思う。
我儘な悪い子は行動を開始した。皆を殺し始めた。たぶん、勝利を確信している。あらゆる未来を見て、もう負けないと分かったから、動き始めたんだと思う。
それなら、もう間に合わないね。
可愛いお人形さん、もし私の言葉が届いているのなら……どうか、我儘な悪い子を殺して欲しいの。あの子は、今ある世界からどこにも連れていってはだめ。
我儘な悪い子は、この壊れゆく世界と一緒に消えないといけない。あの子が、次に訪れる新しい世界にまで手を伸ばしたら、きっと誰も幸せになれない。皆が不幸になる。
だから、可愛いお人形さん、どうか我儘な悪い子を殺して。私の夢は、可愛いお人形さんの傍にいること。どうか間違えないで。私は我儘な悪い子は嫌い。
可愛いお人形さんじゃないと嫌。私は、お人形さんのことが好きなの。
騎士神オーファンの依り代、機械の星。
霧の世界フォールでは第六惑星だった星。機械の星は、時の魔術によってボロボロ。オーファン・システムは完全に停止している。だけど、まだ星は存在していた。
“騎士神オーファンの影”。霧の人狼は、悪魔の女神の霧の中から、可愛いお人形さんを見守っている。悪魔の女神との約束を果たす為に。
ウルズお姉ちゃんが言っていた。機械の星にある女神の霧の中に、二人の姉がいるみたい。どっちの姉もめんどくさがり屋で、できれば動きたくない。だから、霧の中に隠れて外に出てこない。
機械の星は時の魔術によってボロボロ。危険だから、誰も壊れた星に来ない。そう思って、引きこもりの姉たちはこの星に隠れているそうです。
歳の近い二人の姉、魔女ヘルと魔女ヴァル。
四番目の霧の人形。負の感情に陥る、怪しげな橙色の瞳を持つ魔女ヘル。
五番目の霧の人形。安らぎを与える、緑の瞳を持つ魔女ヴァル。
七つの大罪、怠惰と嫉妬の保持者。この二人の魔女は、霧の中に隠れるのが一番得意かも。今までどこにいたのか、傲慢な霧の女神ウルズお姉ちゃんでも分からなかったみたいだから……悪魔の女神が助けてくれたら、引きこもりの姉たちなら、我儘な悪い子に見つからずに天国までいけないかな?
正気を失った悪魔の女神は助けてくれないね。可愛いお人形さんも、青い水晶の中に封印されてしまっている。これはもう、詰んだかな?
ウルズお姉ちゃんが、時の魔術を行使してくれた。傲慢な女神の時の
メイドのフィナの代わりに……さようなら、フィナ。本当に大好きだったよ。
ルーン・グローリア。
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ルーンの涙かな。日記の一部の文字がにじんでいる。この日記の断片は間違っている。この日記の断片は存在してはいけないよ。
だって、ルーンがここまで傷ついて、ここまで悲しんで、白い人形に戻ってしまう。嘆き悲しむ悪魔の少女は、全てを壊してしまうでしょう。
私は悪魔の女神の娘、希望の魔女ノルン。私もさっきから、泣いてばかりいる。日記の文字がよく読めない。
こんなにかわいそうな物語があっていいの? 嫌だよ。私たちの物語は、こんな酷い物語じゃない。
ルーン、ごめんね。すぐに助けにいけなくて……分かったよ、ルーン。私が必ず、時の女神の娘―私のドッペルゲンガーを殺す。
絶対に、新しい世界には連れていかないから、だからもう少しだけ、待っていて。私たちは待つのが得意でしょう?
ごめんね、ルーン。私も、貴方のことが大好きだよ。
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これは、ルーン・グローリアの日記。
ウルズお姉ちゃんが一つ、私に提案してくれたことがあるの。いつか必ず、狂王ヴェルグラは、奇跡の都ラス・フェルトを攻めてくる。その時、私は霧の人形に戻るべきだと、ウルズお姉ちゃんは言った。
霧の人形に戻り、悪魔の軍勢を従えて、“悪魔の大厄災”を起こす。今は終焉の時、悪魔の女神の娘として、人間や魔物、何もかも全て壊してしまえばいい。
誰かの手によって、大切な都が壊されてしまうのなら、自分の手で壊してしまえばいい。誰も苦しまない様に、誰も悲しまない様に、全て壊してしまえばいい。
傲慢の女神は、“悪魔の大厄災”を何度か起こしている。漆黒の龍ウロボロスを必ず呼んだ。とても素直だから、傲慢の女神のお気に入り。
霧の龍は、命令通り行動する。食べろと言えば、何も無くなるまで、食べ続ける。食べられた者は即死する。それ以上苦しむことも、悲しむこともない。
《大丈夫よ、ルーン。気づいた時には死んでいるから。
苦しみのない死は幸福なことなの。
人形のノルンが守りたかった、奇跡の都の住人たちを……。
ルーン、霧の人形として、恐怖から救ってあげなさい。》
傲慢な女神は、私にそう言った。それが私のあるべき姿だと。
つまり、別の惑星の魔物たちが、奇跡の都に攻めてくるのだ。
このままだと、奇跡の都ラス・フェルトで、私は霧の人形に戻ってしまう。悪魔の大厄災を起こしてしまう。
ごめんね、可愛いお人形さん。私はウルズお姉ちゃんについて行くよ。私は残りの天国の鍵を探す。それが、私のあるべき姿だから。
全ての鍵を集めて、可愛いお人形さんだけでも、天国に連れていきたい。お人形さんが守ろうとしたものを守れなくて、本当にごめんね。
これから日記を書けるか分からないの。母の白い霧が、私の思いを文字にして残してくれたらいいな。どうか私の思いが文字となって、大切な貴方に届きます様に……。
さようなら、罪のない人間や魔物たちよ。次に訪れる新しい世界が、幸福な世界になることを、この壊れゆく世界から祈ります。
壊れゆく世界に、我儘な悪い子ノルン。時の女神の娘を封印できます様に……未来永劫、時の女神の娘が解き放たれることがありません様に。
無邪気に、残酷に世界を壊した、我儘な悪い子を最後まで監視する。それが、霧の悪魔。私たち霧の人形の最後の役目となります様に……。
ルーン・グローリア。
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