第49話『聖神の白き太陽は落ちる。光の子フェル・リィリアは、地獄の中層―星々の灰を彷徨う③』
私は、フェル・リィリア。金色の髪に、青い瞳……私は、見てしまった。地獄の中層―星々の灰。白い灰が降る廃墟……黒い翼を持つ、天使様が傷ついている。
魂を惑わす紫の瞳のウルズ様。白い右腕が焼け焦げてしまって、真っ黒に……。白い炎が、辺り一面を襲っている。廃墟が燃え尽きて、どんどん灰が積もっていく。
ウルズ様の漆黒の翼も燃えて、ボロボロと崩れて……翼を失った少女が、ふらつきながら立っていた。
翼を失った少女、ウルズ様に近づく、もう一人の天使様。ウルズ様の姉?……ウルズ様が成長して大人になったら、きっと同じくらい綺麗な女性に……。もう一人の天使様の瞳は、燃え滾る様な赤い瞳。白い炎は、全てを燃やし尽くしている。
白い手足に、銀色の髪。女神の様な美しさ。燃え滾る赤い瞳を持つ、もう一人の天使様は、白き炎の翼を羽ばたかせていた。私は、白い霧の言葉を思い出した。
「……綺麗。あれが、憤怒の魔女?
白き炎の天使様、アメリア様。」
憤怒の魔女アメリア様。白い霧が、私に教えてくれた。今、私がいる地獄の中層―星々の灰は、崩壊の危険性が高いらしい。できるだけ速く、ここから逃げないといけない。
アメリア様とウルズ様、姉妹で喧嘩している場合じゃないのに……お母さんを見つけて、一緒に逃げないと。
アメリア様の白い翼。白い炎が、鳥の翼を形作っている。白き炎の翼は、肩や腰の辺りから生えていて……天使様の美しさを際立たせている。星の生き物の気配がない地獄の廃墟で、その御姿を目撃できた。それだけで感動する。白き炎を纏う、アメリア様はとても神々しい。
白き炎を纏う憤怒の魔女が、翼を失った少女ウルズ様に近づいていく。右腕の火傷の痛み。ウルズ様は右肩辺りを左手で押さえて、苦しそうにしている。
右腕は焼け焦げて、真っ黒。右腕がボロボロと崩れ落ちそうになって……重傷なのが、遠めでも分かった。
私は、傷ついているウルズ様を見たら……よく考える前に走り出していた。
《!? あの子、まだ生きて……。
嘘でしょう……こっちに……。》
ウルズ様も気づいた。私を止めようと、左手の手のひらを見せて、拒絶のポーズをとった。でも、私は止まらない。
アメリア様の白き炎から逃げても……一人だと、地獄の廃墟から出られない。灰が降り積もる廃墟にいれば、私は適応できず死ぬと思う。白い霧や魔術、生き残る術を知らない。地獄の廃墟で、一人で生きていける程強くないから……。
《!? 馬鹿っ! こっちに来るな!》
ウルズ様に怒鳴られた。それでも、私は……。
「ウルズ様、大丈夫ですか!?」
私は、ウルズ様のすぐ前にきて……精一杯、両手を横に広げた。こんなことしかできない。意味がなくてもいい。私だって守りたい。私の意思を示したい。
憤怒の魔女アメリア様が、私の眼の前で止まった。燃え滾る赤い瞳で、私をじっと見ている。私の後ろで、ウルズ様が……私の左肩を引っ張りながら叫んだ。
《馬鹿、速く逃げなさい!
今のアメリアは、話を聞いてくれない。
足手まといの貴方がいたら、邪魔なの!
速く離れなさい!》
「嫌です! ウルズ様、傷ついています。
私だって、守りたいんです。
それに、私は馬鹿ではありません!
ラス・フェルトの皆から、
賢いって褒められたことがあるんですよ!」
心臓の鼓動が速い。自分でも、なんて言っているのか分からない。憤怒の魔女の白き炎……熱い。汗をかいて、手足が震えてきた。無理してでも、大きな声を出さないと、手足に力が入らない。傷つきたくない、安全な場所へ逃げたい……でも、それは駄目。私は、今は逃げたら駄目。
ウルズ様は、私の後ろにいること。私に守られていることが嫌みたいで……。私を、無理やり退かそうとするけど、引っ張る力は弱い。ウルズ様の小さな手では、私を退かすこともできない。見た目は、私よりも小さな女の子だから、自然なことだけど……私の後ろから、ウルズ様が叫ぶ。
《馬鹿、馬鹿!
邪魔だから、どきなさい!》
「嫌と言ったら、嫌です!」
《自分の身も守れないくせに……。
馬鹿! 貴方は、本当に馬鹿よ!》
「ウルズ様だって、ご自身の身を守れてないです!
私が馬鹿なら、ウルズ様だって馬鹿ですよ!?」
《……傲慢の魔女の私を……。
失礼なことを言うのは、この口かしら!?》
ウルズ様が、左手で私の頬を引っ張ってくる。私は、右腕をウルズ様の背中に伸ばして、自分に引き寄せた。ウルズ様は、ジタバタと手足を動かして、嫌がっているけど……お構いなしに、ウルズ様を抱きしめた。母が私を抱きしめていた時の様に、決して離さない。ウルズ様は黒い翼を失って、本来の力を発揮できないみたい。ウルズ様は負けじと、私の頬を引っ張り続ける。
《離せ! 離れなさい!》
「痛いです! 頬を引っ張らないで下さい!
ウルズ様は、私は離れません!
私、一人で怖かったんです。
こんな所に、一人は嫌です!」
《逃げなかったら……このままだったら、
燃え尽きて、灰になるわよ!?
アメリアの炎が邪魔で、
魔術を行使できないのに……。
貴方も、私の邪魔をして……。》
その時、笑い声が聞こえた。
私とウルズ様が驚いて、ピタッと止まる。燃え滾る赤い瞳の天使様、アメリア様が笑っている。白い霧が私に囁いた。
『……七つの元徳の一つ、節制。
憤怒と傲慢に効果を発揮。
フェル・リィリア。
節制の聖痕を発動、可能……。』
「?……節制の聖痕?
よく分からないけど……。
お願い、白き霧よ。
アメリア様の怒りを鎮めて!」
《!? 元徳の節制?
なんで、貴方が……。》
白い霧が濃くなってきた。周囲の廃墟を覆い……ぼやけて、白い霧と白い炎の境目が分からない。アメリア様の白い炎を避けるのが難しくなってしまった。私に引き寄せられながら、ウルズ様が小さな声で呟いた。
《…………………。
それに、貴方、白い霧に……。
なんで、あの時……私を掴んだのよ。
私を掴まなかったら……。
人のままで、ラス・フェルトで、
暮らせたかもしれないのに……。》
「?……ウルズ様?」
白い霧が、周囲に広がっていく。燃え盛る白い炎をのみ込んで……灰が降り積もる廃墟が、白い霧の廃墟に変わっていく。そして、白い霧が、また囁いた。
『……フェル・リィリア。
霧を用いて、節制の聖痕を発動。
憤怒の魔女アメリア、抵抗せず……。
女神の影アシエル、憤怒の魔女に寄生。
女神の影アシエル、抵抗……。
極界魔術・憤怒の烙印。
対象、フェル・リィリア。
大罪の憤怒と元徳の節制。
七つの元徳と大罪の優位性、両者にあり。
フェル・リィリア、
転移魔術の行使を……残り、10秒。』
「!?……転移魔術?
10秒って、なんの時間ですか?
囁いてくれるのは、嬉しいですけど、
分からないですよ!?」
《……フェル・リィリア。
貴方は、元徳の節制を獲得した。》
「!? ウルズ様?……」
霧が囁く。残り5秒……ウルズ様が、嫌がらずに私に抱きついた。白い霧の様に、ウルズ様も囁き……白い霧に、自分の願いを伝えていく。白い霧が、私に教えてくれる。「……天使様が、霧に願う……それが、極界魔術?……」
《白き霧よ、節制の保持者、
フェル・リィリアを助けよ。
傲慢の烙印よ、節制の聖痕と重なり、
節制を
白い霧が、時間が無くなったことを告げた。残り0……白き炎が、私を包み込んだ。私を抱きしめている、ウルズ様も白い炎に包まれて。
ウルズ様は、はっきりと聞こえる声で願いを述べた。白い霧が私に伝える。これは、傲慢の魔女ウルズ様の極界魔術。大罪の傲慢の烙印と、元徳の節制の聖痕を重ねて……一時的に、節制の効果をより高めて、魔を封じる聖痕へ。
《……
女神の影アシエルを封印せよ。》
白い霧と白い炎の境目が、より分からなくなって……やがて、白い霧が晴れていく。白い炎は、炎の勢いが弱まり、白から赤い炎に変わっていく。
白い霧が私に教える。憤怒の魔女も、赤き魔女に戻ったことを……さっきまでと様子が違う。アメリア様が、キョロキョロと周囲を確認している。白い鳥の翼は無くなっていた。
女神の影アシエルは、アメリア様の体の中に封印されたらしい。何のことか、全く分からない……私が混乱していると、ウルズ様が、私に囁いた。
《生き残った……。
フェル、貴方は霧に選ばれた。
でも、この結果は……。
貴方が、私から離れないことを選んだから。
貴方が決めたこと……。
私から離れたくないのでしょう?
だったら、私の傍にいなさい。
これから、ずっと……最後まで。
嫌とは言わせない。貴方は、私の傍にいるの。
私が、貴方を守ってあげる。
分かった……フェル?》
「……は、はい、ウルズ様。」
ウルズ様が、にっこり微笑んだ。霧のことが怖くなくなった様に、ウルズ様も怖くなくて……天使の笑み。ウルズ様は、とても可愛かった。私が、ウルズ様に声をかけようとすると、後ろから……。
『……ウルズ、その体、奪ったもの?
その体から、ノルンとルーンの気配がする。
その子とお熱いみたいだけど、
抱き合うのをやめて……。
どういうことか、説明してくれる?』
赤き魔女アメリア様が、ウルズ様を睨んでいる。体を奪った? ノルン様の気配?知らないことが多すぎて、何も分からないよ……と言うか、お熱い? 私とウルズ様が?……私は、まだ混乱している。ウルズ様が、アメリア様を見ながら、ため息をついた。
《……もう、元に戻っても、
シスコンは治らないわね。
美人なんだから、勿体ない。
女神の影から助けてあげたのに、
めんどくさいな~。》
「お熱い?……えっ!?
私は、ウルズ様を、
守りたいって思って……。
それで、その……。」
《……フェルは、落ち着きなさい。
私も似たようなものかも……。
悪魔が子守り……私も、変わり始めている。
でも、私はシスコンではないけどね~。》
ドゴォオオオォォォ—--! 白い霧が、私に囁いた。赤き魔女アメリア様が、火炎魔術を行使して……傲慢の魔女ウルズ様が、私を抱きしめながら、転移魔術を行使したみたい。
ぷつんと光が消え、闇に包まれた。すぐに光が戻ってきて……私たちのすぐ近くで、赤い炎が勢いよく燃えている。私は思った「……今のが、転移魔術?……それにしても、このお二人、仲がいいのかな……。」
「……アメリア様、ウルズ様。
姉妹で喧嘩しないでくださいー!」
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