019  時には夢を見たいと思うことがあるⅢ

 言われてみればそうなのかもしれない。俺も暇なときは本を読んでいることが多いし、休日の時なんかブックオンに本を買いに行くからな。

「昔から1人でいることが多いし、それに地元の大学だから暇な時間が多いんだよ」

「理由が一部、悲しいわね」

 うるせえ。

 冬月ふゆつきは長い髪を整えながらふっと、笑う。なんだかんだで、笑う時の冬月はとてもかわいくていつもこうしていれば友達もできたのではと思ってしまう。

 さて、全部食べたし、時間的にもうそろそろ戻らないと三限目の時間に遅れるからな。それに次の授業は席を早めに取っておかないと後ろの席でプロジェクターが見えないからな。

「俺、そろそろ行かないといけないからもう行くわ」

 俺が言うと、冬月もレジ袋を結んでごみ箱に入れる。ついでに俺の分まで入れてほしかった。

 やべ、あと少しで時間になる。ああ、やばい。これ、走らないと間に合わないな。面倒くさい……。

「それじゃ、私こっちだからまた後で……」

 振り返った冬月が小さく手を振る。俺は立ち止まって「あ、ああ」と、戸惑いながら同じく小さく手を振る。

 俺は挨拶を終えると急ぎ足で理工りこう学部棟の中へ入っていった。


 三限目がいつもより三十分も早く終わり、いつも通り研究室に向かうと、一階の学生課前で事務に何か申し込んでいる冬月が窓口にいた。この時間はまだ授業中のはずだがなんでこんなところにいるのだろうと思って近づいてみると、奨学金しょうがくきんについての書類を事務の職員に提出していた。

「こんな時間に何してんの?」

天道てんどう君。あなただったのね。三時限目の授業が途中、先生の何かの用事で早めに終わったのよ。」

「あ、俺と同じだな。こっちはやることが無くなって早めに終わったけどな……」

「少し待っていてもらえるかしら、もう少しでこの書類の提出が終わるから」

「分かったよ。後何分で終わるんだ。待つのが面倒なんですけど……。それにこれまたなくてもいいですよね」

「ほら、もしかしたら研究室に妙な人がいるのかもしれないじゃない。私、一人で入るのは嫌よ」

「何? お前、怖がりなの? ああ、もしかして、幽霊ゆうれいとか無理だったりして……」

「そんなわけないでしょ。私が幽霊の事なんか怖いはずなんて……」

 不機嫌ふきげんそうな表情を引きずりながら睨み付けてくるのがうちの妹にそっくりだな。高校生になってから機嫌が悪い時、凄く冬月に似ているし、怒り方も似ている。

「す、すまん……」

 俺は冬月が終わるまで、アルバイトの募集欄を見ながら結構色々とあるなぁと思いながら数分待った。

「それじゃあ、行きましょうか」

 そう言ったまま、冬月はエレベーターの場所に向かって歩き出す。そして、中に入って四階のボタンを押し、エレベーターは上にあがっていく。

「それにしても、冬月が奨学金を申し込んでいたとは思わなかったな。だって、東京から来るぐらいだから金には困っていないものかと思っていた」

「お金には困ってはいないわ。でも、流石に遠くの県まで来ると色々とあるのよ」

「あ、そう。俺は親に金はあるから他の県でも行っていろと言われていたけどな……」

「それはあなたが家にいられると邪魔じゃまな存在だけではないのかしら」

 冬月は溜息をつく。俺は苦笑いをしながら四階に着くと、冬月は先に出て前を歩き出す。研究室に向かうと、ドアの前で怪しい動きをしている人物がいた。誰だ? と思っていると、どうやら中に入りたいらしい。

「あの、うちの研究室に何の用ですか?」

「ひゃう!」

 と、可愛らしい驚いた声と同時に、彼女は振り向きながら壁に寄り掛かる。

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