彼女に捧げる御饌

Twitter300字SS第47回お題「食べる」より(300字、改行・スペース含めず)


 彼女が突然何も食べなくなった。

 好物は勿論、飲み物すら口にせず、日に日に白く細くなる幼馴染みの彼女。

 まさかと思い、俺は祖父が遺してくれた秘伝の古文書を確認した。


 やはり。


 俺は即座に食材集めに奔走した。


 黄金に輝く稲穂。金木犀の香りを纏った酒。紅葉燃える温泉郷で取れる山塩。そして、秋の月の光を浴びた水。


 全てを揃え精製し、白い器に盛りつけ、俺はようやく彼女に会いに行った。


 俺が抱えていた物で全てを察したのだろう。彼女はそれら全てをそっと一口ずつ口にした後。


「ありがとう」


 たった一言。それが彼女の最期の言葉だった。


 今はもう白く棚引く煙になった彼女。


 ああ君は。古文書にあった通り、十月に還る神様に選ばれたんだな。


【了】

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