現代ファンタジー

梅ひと枝

Twitter300字SS第30回お題「飾る」より(300字、改行含めず)


 わたしは決まってこの時期、窓辺に梅をひと枝飾る。

 白磁の一輪挿しにささやかに、ふたつみつ花を付けた梅の枝を。

 決して無理に手折ったりしない。

 風の荒れた夜の後、梅咲く丘に出向くと不思議と見つかる折れた枝だ。

 しかもこれからまさに花開かんとする蕾つきの。

 わたしと同じ、もう朽ちるのを待つしかないその枝を持ち帰り窓辺に飾る。

 折れた枝でも花は綺麗に開く。

 蝋梅、紅梅、そして白梅。

 年によって違えど咲かぬ年はない。


 今年は白梅だった。

 あの人の好きだった花。

 いつものように飾り花開くを待つある夜、微かに梅の香がした。

 気づくとまだ咲ききらぬ梅の枝の下に、見覚えのない白梅が一輪。


 ああ、今年も。


「今年も来てくれたのね、あなた」


【了】

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る