50話「いつかの約束」
1月12日(水)
冬休みも明け、2日ほど過ぎた朝。俺は珍しく、朝早くから起きていた。しかもまだ
「――あれ、おはよー
しばらくすると、後ろからそんな声が聞こえてくる。それに振り向くと、まだ寝間着姿の明日美がそこにいた。まだどこか眠たそうで、目もちょっとトロンとしている。
「うん、まあねー」
「でもありがとねー朝食作ってくれてー」
「いいよ、ついでだしね。それより、髪とかしてきなーはねてるぞー」
「あっ、うん……」
明日美はどこか恥ずかしそうに目を逸らして、そのまま洗面器の方へと向かっていった。そんな明日美を見送りつつ、俺は料理を再開する。でも、まさか俺が明日美の髪の乱れを指摘する日がくるとは。そんな珍しいこともあるもんだな、と思いつつ作業を進めていく。今日は雪でも降らないといいけれど。それから数十分ぐらい経って、ついに朝食と弁当が完成する。俺はリビングのテーブルに運ぶべく、朝食をお盆に乗せていく。リビングではどうやら明日美が珍しく、朝のテレビでもみながらくつろいでいるようだった。そんな光景を目にしつつ、俺は明日美のもとへ料理を運んでいく。そしてちゃんと弁当を忘れないように、あいている椅子にカバンと一緒に置いておくことにした。これで準備も完了したので、朝食をいただくこととなった。
「――どうよ、味は?」
「うん、おいしいよ!」
「よかった。これで
そんな明日美のおいしそうに食べている光景を見て、俺はホッとする。明日美のお墨付きならば、どこに出しても大丈夫だろう。自信を持ってこれを渚たちに出せる。
「ふふっ、私は毒味?」
それに冗談っぽく軽く笑って明日美がそんなことを言ってくる。
「んーどっちかっていうと『明日美の太鼓判』がほしかったからかな?」
物は言いよう。これはまさにそれで、結局のところ俺は先に明日美で味を試しているに過ぎない。だから俺は良いほうに言い方を変えて、一応フォローする。
「じゃあ、そういうことにしておくっ。でもどういう風の吹き回しなの? 今日に限って、煉が渚ちゃんたちにお弁当作るなんて」
天地がひっくり返るほど、それは明日美にとって珍しいことなのだろう。そんな行動に至った俺の理由を訊きたがる明日美。
「あぁーこの間さ、渚にお昼ごちそうになったからそのお返し。今日なのは、昨日思い出したから」
「ふーん、でもエラいね、ちゃんと約束を守るなんて」
「だしょう?」
そんなお褒めの言葉に俺はドヤ顔で返す。まあ、実際ホントにエラい人ならもっと早くに約束を果たしているはずなんだけどね。昨日の昨日まですっかり忘れてたわけだし。
「こらこら、褒められた本人がドヤ顔しない」
「ハハハ」
なんて笑いながら俺は自分の作った朝食を食べ始める。自分で言うのもなんだが、その味は自慢の出来で、渚たちも十分満足してくれることだろう。ちょっと楽しみになってきている自分がいた。お昼がちょっと待ち遠しくなりつつ、俺は自分で作った朝食を食べていた。そして2人共が朝食を食べ終え、朝一緒になったついでに明日美とそのまま学園へ行くことにした。いつものように2人並んで、通学路を歩いてく。
「ふわああぁ……ねみぃー……」
歩きながら俺は大きなあくびをしながら、体を伸ばしていく。気持ちの良い朝だというのに、眠たくて仕方がなかった。朝早く起きるなんて珍しいことをしたから、体がムリしていると悲鳴を上げているのだ。これは午前の授業に睡魔で、眠ってしまうかもしれない。
「だらしないなぁー」
そんな顔を下に向けて猫背で歩いてる俺を、呆れたような様子で俺を見つめる明日美。
「しかたないだろぉー? 起きたのちょー早かったんだから」
「でもそうやって眠たそうに猫背になっているよりも、ビシッと背筋伸ばして歩いた方がカッコよく見えるよー?」
「起きれただけでも奇跡なんだから、勘弁してー……」
そうは言われても、俺にはそれだけをできる気力が残っていなかった。もう既に朝の料理で全てを使い果たしていたのだ。ホントに、教室の机で速攻寝たいほどに、体が重くダルかった。だがいつもの並木道へとさしかかると、まるでそれを正すかのような、そんな人物が目に入る。
「――あぁー煉くんだぁ!」
俺を見つけるやいなや、
「うっげ……」
俺はそれを露骨なほど嫌な顔をしてそれを見つめていた。もちろん明日美と一緒ということは、あの人も来ると考えは及んでいた。だけれどそれを理由に明日美と一緒に行かないと、後がうるさそうなので行くしかなかったのだ。まあ、俺も経験を積んでかわし方は学んでいる。このダルい体というハンデがあるが、自分のためだ、なんとか頑張ってみよう。とりあえず迫ってくる凛先輩を避けるために、明日美を盾にして後ろに隠れてみる。
「あっ! なんで隠れるのぉー!?」
そんな俺の行動に、とても残念そうな声色でそんな子供みたいなことを言ってくる。
「や、絶対に抱きついてくると思ったんで……」
凛先輩といえば、抱きつく。これはもう俺の中で方程式みたいになっている。これをまずかわさないことには始まらない。こうすることでいつもの抱きつきができなくなるわけだ。
「ぶぅー煉くんのいじわるっ!」
それに凛先輩は不貞腐れた顔でそんな文句を言ってくる。
「煉くんひどーい!」
まさかのつくし先輩がそれにノッて、一緒にそんな文句を言ってくる。しかもその表情はあきらかに面白がっているみたいだ。
「ちょっ! つくし先輩悪ノリしないっ!」
相変わらず先輩にタジタジな俺、それを全く助けないでただ見ているだけの明日美。そんないつもの光景がそこにはあった。
「ねえねえ、煉くん!」
そんなことを考えていると、いつの間にか俺の後ろに回ってきていた凛先輩が俺の肩を叩いて、俺の名前を呼ぶ。
「え?」
それにアホみたいに素直に反応してしまい、凛先輩の方へと振り返ると、その瞬間に凛先輩は俺の顔の前で両手をパンッと叩いて、
「うわっ!?」
いわゆる猫騙し戦法で、俺が怯んで目をつぶったスキをついて……
「へへー煉くんあったかぁーい!」
凛先輩は真正面から俺に抱きついてきてしまう。そしてとても嬉しそうな、甘い声を出してそれを堪能していた。
「せ、せせせ、先輩っ!? な、ななっ、何してんすか!?」
それがあまりにもガッツリとした抱擁だったので、俺は普通に動揺していた。しかも今日の凛先輩は離すもんかと、まるでプロレスみたいにしっかりと腕で俺をロックしているので身動きも取れず、もちろん抵抗することもかなわなかった。当然、その体勢では密着度は高まり、より一層凛先輩の華奢な体を身をもって感じることとなる。それが俺をさらに動揺させていた。さらに言えば、ここは往来だ。人の目があって、恥ずかしさもこみ上げてくる。
「えー煉くんが悪いんだよぉー? いつものさせてくれないから」
凛先輩はそんな理不尽な理由をつけて、この抱擁を正当化しようとしていた。俺からすれば、どちらにせよ抱きしめられることになるではないか。ホント、まさに理不尽だ。しかも結局、俺の頑張りは報われずに、凛先輩にしてやられて抱きつかれしまっているし。やっぱり今日は俺が朝から料理をするなんて珍しいことをしたから、ツイていない日なのだろうか。
「――よしっ、煉くん分も補充したし、いこっか!」
それからしばらくそのままの状態で、俺を堪能した凛先輩はいつものマイペースで俺から離れてそんなことを言ってくる。ホントに明日美やつくし先輩も含め、この3人にはホント敵わない。いっつも
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます